女性受刑者を「アディクション」(依存症)から離脱させるには
女子刑務所の受刑者を対象にした、家族関係講座、アルコール離脱や薬物再使用防止のプログラムの講師をしています。受刑者の犯罪は、覚せい剤、詐欺、傷害、殺人など、いろいろです。犯罪のきっかけとなった、お酒や薬物など何らかの依存症の問題を抱えた方が対象になります。
覚せい剤は、女性の再犯に占める割合が高いですね。人とのつながりがなく孤独だと、何かに寄りかからずにはいられない。女性たちの中には虐待などで生きづらさを抱えている方たちがいて、そのつらさを覚せい剤の陶酔感で紛らわし、生き延びてきたという人もいる。だから、手放せない。生きづらさの自己治療薬として酒や薬を使って生き延びる、あまりにもつらいから、酒や薬という杖が必要になる。これって、「アディクション」(依存症)にみられることです。どこかにつながりがあれば違ったのかもしれません。そう考えるとアディクションとは、「コネクションを失った病」とも言えるでしょう。
講座では、自分をセルフケアする方法を見つけることを教えます。それには、大半の時間を、自分自身の感情を取り戻すことに費やすことになります。彼女たちは、「嬉しい」「楽しい」は、よく理解できる。でも、「悲しい」と「怒り」の違いが分からない。自分が暴力を受けるなど不当なことをされたら、「悲しい」と反応する。自分がすごくみじめになって、哀れになる。それで薬物が必要になっちゃう。そんな彼女たちへ、伝えます。「そこは、『私は、殴られるのは痛いからイヤだ!』と怒っていいのよ。悲しくなるんじゃなくて、怒っていいことなんだよ」と。
家族に対するワークも行います。受刑者には、親の虐待やパートナーのDVなどの過去を持つ人が多いのですが、その過去を見つめよというわけではありません。パンドラの箱を開けて、「うわーっ」とパニックになるだけです。刑務所では心のケアまで手が回りません。
今の家族、その人が母親であれば、主に子どもに対して向き合ってもらいます。彼女たちは、子どもに「ありがとう」は言えるけど、「ごめんなさい」が言えない。自己憐憫の気持ちの方が強いからでしょう。
母親が覚せい剤で捕まると、警察のガサ入れが入って、いきなりお母さんは逮捕・拘留されます。その後、だいたい子どもは児童相談所の一時保護か、うまくいけば親戚のところに預けられる。
何が起きたのか分からないので、子どもはとても寂しい思いをします。自分が「悪い子だから?」と思ってしまったり、何となく事実に気付くと「他の人に言ってはいけない」と胸に秘めたり。
彼女たちには、子どもに対して、次のように言えるようにします。「お母さんが急にいなくなっても生活して、頑張っているね。ありがとう」「急にいなくなって、寂しい思いをさせてごめんね」と。SST(ソーシャルスキルトレーニング)を使ってリハーサルしますが、それは子どもたちだけではなく、お母さんたちにとって大切な言葉なのです。
風俗で働く女性をジャッジせず、「よりよく生きる」をサポート
2015年に立ち上がった「風俗テラス」という風俗で働く人のための無料の生活・法律相談員をやっています。
風俗をしている女性が働く理由は、お金をたくさん稼ぐためか、あるいは、性的搾取を受けているか、そのどちらかだと見られがちです。性的搾取を受けているなら保護の対象としなければいけない。しかし、自分の意志で稼ぐために風俗に就いている女性がいます。同時に、暮らしを守るために風俗を選択せざるを得ない女性もいます。
風テラスへ相談してくる女性は、貧困、虐待、DVなどの背景をもつ方が多いですね。相談してくる内容は、私が普段している相談業務と同じです。「風テラス」は、「風俗を辞めるも辞めないも本人が選択すること」という立場なのです。もし、健康面を害していたり、不利益を被ったりしているなら、「よりよく生きる」ために、福祉サービスや法律を提供して、つないでいくという活動です。風俗に就いていることを良いとか悪いとか、ジャッジしません。彼女たちの生きてきた、置かれた生活や文化を尊重し、かかわります。
ソーシャルワーカーという仕事は、とても面白いですね。生きていること、生き続けることは、つながり続けること。それを大切にしたいと思います。
(聞き手/ライター上田隆)
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