「アート的思考」で、はつらつ育て!

アート

ルポvol.27 【アート1 】

ビューッと横にひいた青線は「海」。その上に、緑の「山」がにょっこり描かれる。8歳の男の子の筆が止まらない。周囲の2歳から小学生の子どもたちも同じ。絵の具を跳ね飛ばし、白い紙を、次々色鮮やかに染め上げていく。

 

後ろで「色の魔術師がいる!」「巨匠だね!」など、勢いよく褒めるのは、青いベレー帽がトレードマークの「スズキミ先生」こと鈴木公子さん。「やわらかアートアカデミー」の主宰者である。

 

自由にいっぱいに描く「ビシャバシャアート」

2021年12月5日、足立区伊興本町にある「おもちゃ図書館あだちキッズカフェ」(施設長・井野瀬優子さん)」で開催された「ビシャバシャアートイベント」は、スズキミ先生のこんな開会宣言で始まった。「今日はみんな自由で~す! お父さんお母さん、私の言うことも聞かなくていい。ビシャーッといこう!」。早く描きたいとうずうずしていた子どもたちが、わらわらと絵筆をとる。親たちも、スマホを構えて、わが子の手元を覗く。

 

民家を改修したフロアに、5~6組の親子がワイワイ。絵の具は紙皿に各々もられた赤・青・黄の3原色のみ。黄と青を混ぜれば「緑」、赤に青で「紫」に変幻する色のドラマを体感できる。ある男の子は、「黒」をつくろうとがんばって「茶」を量産。筆にたっぷり水を含ませ、ぼたぼたと色のしずくをたらす女の子は、すかさずその紙を縦にして流れ模様をつくる。みんな、思い思いに没頭。かすれた線、叩いた線、絡み合う色、アーチ、ABCの文字…絵の具のあらゆる使い方、あらゆるモチーフが、次々と試される。

 

A4用紙のサイズもちょうどいい。着想して絵筆をふるえば、すぐ「作品」となる大きさだから。「バナナ」を、黄色で画面の端に筆描きして「完成」と言う男の子。横のお父さん、「右、空いてるよ。何かかきなよ…」と不安げ。でも、それで「作品」。できたものは、続きの間に広げたブルーシートに並べていく。6歳の女の子は、ピンクの太い線が踊る絵を見せ、「これ、お母さん!」と説明。スズキミ先生、「優しい感じだねぇ~」と受けとめる。「どんどんできるなぁ~」とスタッフたちも、シートを埋めゆく色彩の宇宙に目を丸くする。そこは、アートが、エネルギッシュに生まれいづる場であった。

 

従来の教育にはない「アート的思考」に興味

日本の教育について、漠然と危惧することがある。相変わらず、子どもの魂を、定型の鋳型に押し込めすぎてはいないかと。一人ひとりが持つ資質を伸ばし育てるアート教育に関心を抱いていると、足立区でユニークな活動をされているスズキミ先生を知る。取材させていただいた「ビシャバシャアート」は、子どもたちの心を大いに解放していた。「やわらかアートアカデミー」では、ほかに、絵画レッスンや、名画の批判的鑑賞の講座も開催。そこで実践されている「アート的思考」の鍛錬は、根底にきっちりしたロジックがあり、奥が深い。成長期の子どもに必要なことではないかと思う。

 

スズキミ先生は、構想力と実行力抜群のアーティストでもある。ぬいぐるみ好きが高じて、なんと、ぬいぐるみのお客様をもてなすミニチュアカフェ「やわらかん’s café」も主宰(演奏会、ラジオ番組、動画など多彩に発信)。その店は、足立区の梅島に点在する小さなお店をつないだ仮想の「ナナシノ商店街」にも参加している。

 

人も街も心豊かにする「アートの力」は、子どもをぐんと伸ばす。

 

(鈴木公子さんインタビューは、2021年12月15日、足立区内のご自宅にて行いました)

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