ルポvol.11 【ヤングケアラー1】
荒野にポツンと一軒家。中に2匹の虎がいる。一緒に暮らすのは、幼い女の子。彼女は、猛獣の世話をしなければならない。噛みつき襲う攻撃をかわすも、ときに深手を負う。相手の心は分からない。助けを求める人はおらず、助けすら求めない。もの心ついて、それが当たり前の生活だと思っているから…。
元ヤングケアラーの平島芳香さんのお話をうかがってから後、その子ども時代がどんなことだったのか、ずっと考えてみる。やがて胸に浮かんだのが、冒頭のような心象風景だった。「幼い女の子」は平島さんで、「虎」は人の心を失った父と母である。
精神疾患の親を世話する子ども時代
ヤングケアラーとは、「家族にケアを必要とする人がいるために、家事や家族の世話など行っている、18歳未満の子ども」のことだ。ケアが必要な人は、主に障がいや病気のある親や高齢の祖父母だが、兄弟姉妹や他の親族のこともある。その存在は、「人口減少時代に介護と直面する若い世代」(渋谷智子著『ヤングケアラー』中公新書より)として、2014年前後からメディアに大きく取り上げられ始められている。
平島さんの場合、ご本人が誕生時の1967年に、すでにご両親とも精神疾患を患われていた。症名が判明したのは、ずっと後の2012年。父親は統合失調症状、母親はうつ、または統合失調症状と診断され、同年にやっと治療が始まった。
子どもの頃、2歳半年下の妹の世話もしつつ、仕事や家事をせず無気力に寝込むご両親の生活を支えるも、父親からはむごく暴力を振るわれた。病気や老いといった肉体的な介護なら、ときにケアされる側する側に、温かな感情が通い合うことも。しかし、精神を病んだ人のケアは、ケアする側の努力を認め報いてくれないしんどさが多々ある。虐待が起きてしまうケースもある。それをヤングケアラーが受けると、心への影響は甚大だ。平島さんが親を辛辣に語るのも不思議ではない。
しかし、40年以上を経た今に至るまで、ご両親をケアし続けている(父親は2017年に他界)。
一方で、精神疾患の親を持つ子どもの集いである「こどもぴあ」に参加し、と同趣旨の「ハート・ベース」を設立。同じ境遇の仲間たちに、ほっと一息つける居場所を提供し、自らも参加している。
そんな平島さんに、精神疾患の親を持つ子は、何を経験し思い、どんな宿痾を背負うのかをうかがう。元ヤングケアラー、今まさにヤングケアーである子どもたちの支援を考える上で、配慮すべき立場や想い、課題など、重要なことたくさんあった。
そして、過酷な過去を率直かつ淡々と語る姿に、「生き延びた人」のタフさを感じた。
(平島さんへの取材は2020年10月7日、ポルテホールの一室をお借りして行った)。
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