法律が「貧困」を救うには

貧困

ルポvol.54-3 【貧困】

「法律が貧困を救うときは?」。その問いに、 最前線の現場から答えるのは、多摩パブリック法律事務所の弁護士・幡野博基さん。「子ども支援」に生かせる知見が盛沢山だ。ご自身の視覚障害者としての立場から、日々奮闘する法の現場を「貧困」の切り口で眺めると、社会が見過ごされてきたことが多くある。また、その語りから、「弁護士」という存在がぐっと身近に。幡野さんは、法律に関する一般向けの「コネクトリンク相談会」メンバー。

この講演は、2月13日、般社団法人「あだち子ども支援ネット」(代表・大山光子)が主催した「コネクトリンクフォーラム「貧困を語る」で行われた講演の1つ。NPO法人「友愛会」の田中健児さん、キュレーター・エデュケーターの川原吉恵さん、「連合東京」の真島明美さんに続く第4段。


<講演・幡野博基さん>

 

「視覚障害者」の弁護士として

東京都立川市にある多摩パブリック法律事務所で、弁護士をしております幡野博基です。弱視の視覚障害当事者でもありまして、両目の強制視力が0.03ほど、視野の中心が欠けて見えます。文字を読むときには、拡大読書器を使用。今もオンラインで参加していますが、顔をパソコンに近づけることがあり、ご容赦いただければと思います。

 

私自身は、「障害者支援」をやりたくて弁護士になったタイプ。前回のコネクトリンク勉強会(2023年12月12日開催)にて「障害者と貧困」というテーマでお話した中で、「障害者の貧困率が高い」と指摘しました。障害者に対する差別や無理解、偏見が、その問題の根にあるのではと考えております。本日は、「法律で貧困から身を守るには」というテーマで進められたらなと。

 

公設の法律事務所として地域回り

私が勤める事務所は、東京弁護士会が2008年に設立し、運営をバックアップしている「公設事務所」です。多摩地域で、弁護士につながるべきなのに、つながっていない方々に、リーガル(公的)サービスを提供したい。そのために、どういう取り組みをしたらよいか。まぁ、そんな問題意識で設立されました。事務所の具体的な活動の1つとしては、「地域回り」があります。毎年1回のペース、2月から3月にかけ、多摩地域の全30市町村にある相談窓口を巡回。窓口は、市民フォーラム、高齢福祉課、社会福祉協議会、事業化支援センターなど。こうした活動で、まず各自治体とつながる。「最近こんな相談が多い」「弁護士にうまくつなげられない件がある」などの悩みを直接うかがい、その解決を事務所で取り組みます。こうして認識した問題や課題を、弁護士会で一元化することが、今後の大きな課題になるのかなと。

 

支援者と弁護士が、つながれてない

現場では、こんな問題にも遭遇します。自治体の相談窓口の方から、責務整理や離婚などの相談をつないでもらうとする。しかし、相談者ご本人のパワーレス(消極的または認識不足)や弁護士に対する偏見が障害となり、制度に結びつかないことが多い。支援者でも、誤解があって制度につながらない。「浪費がある人は、破綻ができない」「過去に一度破産している人は、2回目の破産はできない」などと思い込んでいる場合がある。そもそも日頃から、支援者とつながるべき弁護士がつながれてないわけです。

 

昨年、地域回りの際、ある自治体の子ども家庭支援センターの方から聞いた印象的な話があります。ママ友コミュニティで、「養育費って、別れた夫にどれだけ収入があっても、5万円ぐらいしかもらえないんだよね」という誤った情報が出回ったとのこと。役所の方が説明して、誤解は解けたようですが。法律を使って貧困問題を解消するには、私たち自身がもっと情報発信して、支援者、市民の方に啓発活動を行っていかなければなと痛感しています。

 

ただ、弁護士だけでできることには限界があります。私は債務整理も担当しますが、最近、家賃滞納の案件で、「引っ越しの手配までしてほしい」と要望されることが。「弁護士につないだら、後はお任せ」という方がおられますが、それは無理。他の支援者も入って連携する必要がある。例えば、引っ越し先の選定にしても、1人世帯とは限らず、親子世帯でだと状況違ってきます。「介護保険に入るべき」「親子で分離させない」など、ケース会議を開いて個別の方針を決めないとことが運ばない。そのために支援者チームをつくって物事を進めて行くことが不可欠なんです。

 

障害者などへの「アパート入居拒否」

「貧困と障害者」の問題を解決するには、「障害者」に対する理解自体をもっと広めていくことが大事です。「障害者差別解消法」(「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」2016年施行)にしても、同法に基づく障害者への「合理的配慮の提供」が社会に求められることなど、まだまだ周知されていません。

 

2024年1月30日、東京弁護士会では、障害者、そして外国人やLGBTQ+の方々などに対する「アパートの入居拒否」をテーマとしたシンポジウムを開催。これまで個々の分野で対応はされてきましたが、「包括的な差別禁止条例の制定がない」ことが問題意識にありました。

 

私も実行委員会の1人としてかかわることに。準備段階でインタビューしたある視覚障害者の方から、「火事を起こしてしまうのではないか」という理由で、入居を断られたとお聞きしました。私も視覚障害ですが、階段があっても何の問題もなく利用できる。無理解ゆえに、アパートの提供に協力しない大家さんや不動産会社の存在は、深刻な問題。貧困問題を考える上でも、「住居」はかなり大事なリソース(資源)なんです。最近、国交省も、不動産向けに障害者差別解消法のハンドブックやパンフレツトを作成して配布し始めています。広報活動は徐々に進んでいるようですが、まだまだ足りない。

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