ヤングケアラーが、訴えたいこと

ヤングケアラー
高齢者介護を支える家族自身に、支援が入らない現実

私は、30年間、高齢者の介護をしました。3人を看取り、自分の家からおくり出しました。その大変さは重々分かっています。仕事は介護だけじゃない。こなさなければならない家事が山ほどある。朝起きたら、秒単位で動く。理屈なんかなく、仕事をやらなきゃ終わらない。やらなきゃ終わらないから、やるだけなんですね。こんな重労働を、日々こなす子どもたちがいる!

 

幼児の頃から、高校、大学に進学するまで、高齢者介護をしてきた子どもたちを、多く見守ってきました。自身の想いを言葉に出せる年齢になったとき、「何回1人で泣いたか分からない」「生きて行くのが、本当に怖かった」と話した子たちがいます。学校にも行けない日もありました。でも私は、彼らの気持ちや現実の一瞬しか知り得えません。泣く姿、怒る姿、発する言葉の一つひとつを拾って考えても、分からないことがたくさんある。

 

これからもっと、家庭内の介護が、家族にのしかかる時代になります。高齢者に直接支援が入る形はあっても、介護の日常を支える家族への支援に入る人たちはどれだけいるでしょうか。

せめて、プロの介護者が、介護をせざるを得ない子どもたちに、できることをきちっと教えるシステムができればなと思うぐらい、今の介護の状況って大変なんです。

 

アルコール依存する親の理不尽は、子どもの理解を超える

アルコール依存のお母さん、お父さんと、たくさんお付き合いしました。みなさん、寂しがり屋ですよね。一番最初にかかわったのは、私が足立区に来て子育てをしていた頃に出会ったあるお母さん。彼女とその家族と出会いが、以後の自分の活動の原点となっています。

 

初めて呼ばれて家に行くと、室内がゴミで埋もれていて、どこが生活する場所が分からない。お子さんがすごく恥ずかしく思ったか、汚い所を隠そうとあれこれ話しかけ、私を「接待」してくれたことをよく覚えています。

 

この家族を、「どうしたらいいんだろう?」と途方にくれました。とにかく、いろんなことに誘い、子どもと一緒に遊びもしました。しかし、状況は良くならない。外の支援につながっていなかったので、結局、役所に連絡しました。後で後悔したんです。なぜかといえば、家族が隠していたことを、私がきっかけで外にさらし出すことになったから。お母さんの依存症が治ったかというと治りません。子どもたちが成長して、日常をどうにかきちんと過ごすことができるようになったぐらいの変化です。

 

依存症の親たちの姿は、子どもたちには理解できない。理解しようとすれば、矛盾や怖さが出てくる。分からない世界なんです。どうしょうもない不安から、非行に走った子がいました。少年院にまで行ったんですけど、また親のところに戻る。悩んでましたね。「割り切るしかない」と、その子は言いました。「割り切る」…なんて冷たい言葉だろうって思いましたけど、でも、そうかなとも。

 

私には、何にもできない。見ていてあげることしかできない。話を聞いてあげることしかできない。割り切ることしかできない。その子が言った言葉を、「あーでもない」「こーでもない」と、自分で考えてあげることしかできない。結局は、子どもが自分で乗り越えて行くしかないんです。乗り越えて行くときに、見ててあげることしかできない…。

 

「きょうだいの育児」で、家を支える不登校児

きょうだいの育児は、もちろん足立区だけじゃなく、どの地域にもあることです。若年で子どもができたり、離婚を繰り返したりして、多子となり、きょうだいが下の子たちを育てる家庭がたくさん存在します。

 

不登校支援に入ったご家庭でも、家を支える子がいる。生まれたばかりの赤ちゃんを自分が育てないと、お母さんが働きに行けない。だから、「学校に行けませ~ん」と。学校の先生も、どうしようもない。

 

もちろん学校の先生たちと、役所や外部の支援につなぎました。けれど、その子にとって良かれと支援を入れたら、家の中が回らなくなる現実も目の当たりにし、複雑な気持ちになったものです。

 

「ヤングケアラー」といいながら、日本社会では、子どもが家族の世話をするというのは当然だという感覚もある。一方、当事者の子どもたちは「大変だよ!」と公言しない。「どうか支援してください」と助けを求めていいかも判断がつきかねている。他人が介入して、わが家の状況を見られることに不安があるからです。ただ何かしないと、日常を過ごしていけないというのは共通している。

 

子どもたちに、よくこう言われました。「支援なんかいらないよ」「ヤングケアラー? なに、それ?!」「ふざけんなよ! 何が分かるっていうんだよ!」。その言葉に対して、私たちは、どう答えてあげることができるのか。

 

これだけ今、「ヤングケアラー」の問題が報道され、いろいろな調査も進み、さまざまな状況も見えるようになりました。でも、「ヤングケアラー探し」を、私はしたくないと思います。現実に過ごしている子たちに対し、どう向き合っていけばいいのかということは、まだまだこれから。本人ができること、支援者ができること、行政ができること、すべてを含めて何ができるんだろうということを、自分の家庭も振り返りながら、本当にできるということを掘り下げていきたいです。

 

行政は、地域の声をもっと吸い上げてほしい

(参加者より、「行政や専門機関につなげたことに対して『後悔された』と言われるが、公の支援は必要では?」という質問。それに対して、以下、大山さんの答え)。

 

やっぱり、行政関係にはつなぎます。警察につなぐこともあります。つなぐべきところは、つなぎます! つなぎますけど、長年子どもたちの声を聞くと、「あのとき、自分の家はすごく混乱した」「家族から引き離されて、すごく寂しい思いをした」なんてことが。つなぐことによる結果を見定めることは、なかなか難しいと思っています。

 

行政の人たち、行政の方たちじゃない公の方たち、支援をしてくださる方たち、本当に頑張っていただきたい。支援は当たり前のことなんだし。地域には、たくさんの想いを持って、人を見ててくれる人がいます。その人たちの声を吸い上げられる行政であってほしい。私も、行政の下でいっぱい下働きをして、いろんな勉強もさせていただきました。これからすごくいい制度が動き始めるなぁという感覚はあります。でも、ものすごく不安になる思いも。なぜかというと、やはり行政は、地域の人たちの営みをやっぱり忘れているからです。

 

民間パワーを高め、全国ネットでつなぐ

本当だったら、地域の中に、もっと感度のいいおせっかいな方々がたくさんいてくれたら、もっと幸福度を上げるような地域に生まれ変わるんじゃないかな。

 

子どもたちが体験不足のように、現代人があまりにも人にすれていないというか、苦労も何もしていない。苦しみも、悲しみも、歓びも、感度が弱いんです。学校で教えてくれるもんじゃない。もう人に揉まれて、人を乗り越えて、社会を乗り越えて、自分というものをつくってきて、初めていろんな感度が育って、自分の日常をつくることができる。

 

その点、ヤングケアラーの子たちって強いなって。そりゃ、負けちゃう子だっていますよ。でも、負けちゃう子たちをサポートするヤングケアラーも、とってもたくさんいます。

 

「お互い様」と助け合える民間の力がもっとパワーアップしなければ。人と生活のリズムが狂って、病気を抱えて苦しむ状況は、どこでも同じ。だから、全国ネットをつくり、つながればいい。みんな一緒に生きて行かなくちゃなんないじゃん、この世界!

 

(聞き手・ライター上田隆)

 

<問合せ>

ヤングケアラーlab

https://97e1j.hp.peraichi.com/

 

一般社団法人 あだち子ども支援ネット

代表理事 大山光子

〒121-0062 東京都足立区南花畑3-9-19

TEL:03-3884-5125  FAX:03-3884-5140

e-mail : domannakanetto@gmail.com

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