ケアラーが、世界を変える

ヤングケアラー
ヤングケアラーの声を聴いて支援を考える

こんな事例を聴いたことがあります。ある理由で母親が、障害のある息子を、高校生の長女に任せきりにしていました。彼女は弟を可愛がっていますが、やはりケアのストレスがたまってくる。そこで、弟さんにヘルパーをつけ、お母さんが世話できない時間をサポートすることになりました。長女には「家族と離れて祖父母の家で暮らしなさい」とアドバイスして、実際長女は祖父母と暮らし始めたそうです。彼女は、ケアの負担からは解放されましたが、本当にその子は、祖父母と暮らしたかったのでしょうか。生活リズムも、観たいテレビ番組も、食べたい料理も祖父母とは異なりますよね、きっと。本人が望んでそうしたのなら問題はありませんが、ヤングケアラーである長女の声をしっかり聴いていたのかどうかが気になります。長女の声を聞いた上で、祖父母と「楽しく暮らせる」ならそれでいいと思います。

 

CANのプログラムを受けに来ている高校生で、プライベートな悩みがある場合には直接電話で話したり、LINEでメッセージ交換をしながら個別対応をすることがあります。その時には、全ての話をありのままに聞くようにしています。否定せずに子どもの言い分をそのまま認めるのです。すると、子どもは、いままで溜め込んでいたものを吐き出すことができて、すっきりします。その上で、次のステップに進みます。ヤングケアラーは、幼い頃から自分で解決策を見つけてきたので、いざとなったら「やってみよう」という実行力があるんです。でも、迷ったときには、本当に自身の判断でそれが正しいのか分からない。そういうときには、「私は、こうしたよ」って自分の経験を話すようにしています。すると、「じゃ、やってみる」と決心をすることができるんです。その高校生は、「失敗しても、またここに戻ってくればいい、そう思えたから勇気を出してやってみた」と言っていました。

 

自分の胸のうちを言語化する意味

そもそもヤングケアラーには、自分と同じ立場の同年代に出会うチャンスがない。学校では、同級生たちと同じでいたいから、特別扱いされたくない。やがて家庭での出来事は隠すようになる。そうするとマイナスの気持ちが溜まっていき、最終的には怒りになって噴き出してしまいます。

 

私たちが大切にしているのは、ヤングケアラーが、自分の内側にある気持ちを言葉にして話せるようになることです。どんな気持ちもあっていいのです。同時に、他のケアラーの話も聞いて、「こういう言い方をすればいいんだ」と言語表現を増やしていくことができるようになることも大切なことです。わたしたちは、Zoomを利用してオンラインで対話をしているのですが、当初は顔も声もまったく出さずにチャットのみで参加していた高校生が、大人の前で自分がやりたいことをパワポにまとめてプレゼンテーションをすることができるようになるまで成長しました。

 

学校関係者に向けた動画教材をつくり、学校と連携を

ヤングケアラーにとって、学校はとても重要な居場所です。しかし、学校の先生方はいま忙しすぎます。コロナ感染症予防の対応に追われ、授業のやり方もリモートになりしました。コロナの感染率が減少したら、それまで延期していた体育会や修学旅行、防災訓練などの行事を一気にやらなければなりません。もう、目が回るほどの忙しさでしょう。そんな忙しい先生方に向け、ヤングケアラーを学校で支援するための参考にしていただくよう、公益財団法人日本財団の助成を受けて「学校におけるヤングケアラー支援」という研修教材を制作しました。1本30分以内の動画で、一章10分以内なので視聴しやすいのです。内容は、ヤングケアラーの心情や家庭の状況、障害について知っておくべきことや、学習指導要領の改訂版に沿ったヤングケアラーである児童生徒の支援、関係機関との連携などが盛り込まれ、ヤングケアラーである高校生の声も収録されています。学校とヤングケアラー支援団体がうまく連携を取ることができれば、ヤングケアラーにとって、自分たちを理解してくれる大人が増えるのです。

 

受け身な存在でなく、「チェンジメーカー」として

公益財団法人キリン福祉財団から助成を受け、ヤングケアラーの声を反映させた啓発ハンドブックを制作しました。その中でも、「社会の変化を創る人(チェンジメーカー)になろう」と呼び掛けています。ヤングケアラーには、「自分自身が発信をすることで、社会が変わるようなチェンジメーカーになれるよ。だって、そういう力があるんだから、君たちには」と呼びかけています。そのためには、自分の経験や気持ちを言語化して社会に発信することです。自分が変わればコミュニティが変わり、コミュニティーが変われば国が変わり、国が変われば世界が変わる!のですから。

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