ケアラーが、世界を変える

ヤングケアラー

<インタビュー・持田恭子さん>

オンラインで、ヤングケアラーの交流の場をつくる

CANで力を入れているのは、中高生向けの「ヤングケアラーズプロジェクト」です。その内容は、イギリスのヤングケアラー支援団体によるプログラムを、日本版に開発したもの。自分のケアの役割を知る、ケアしている家族の障害や病気について学ぶ、さらに自分を大切にするセルフケアを行うことです。身近に相談できる人を探したり、支援してくれる人はどこにいるのか、支援の仕組みを伝えたりもします。また、オンラインでみんなと対話をしながら「自分が将来は何をしたいのか」の夢を語ってもらったりしています。

 

オンラインでの活動なので、対象エリアは全国となります。北海道からの参加者もいます。対象は、中1から高3まで。活動を始めたのが、緊急事態宣言の出た2020年4月でした。毎月1回の開催で、ブログラム1回が90分。ペアで話したり、みんなで話したり、ちょっとしたゲームをしたり。ワーワーと楽しく過ごして、終わったら、みんな元気になっています。

 

ヤングケアラーとカウンセラーとのズレ

CANへのアクセスは、ホームページ、Twitter、Instagram、それとYouTubeを通して。今の子どもたちはテレビも見ないし、ホームページもメールも使わない。メインはTwitterです。子どもたちと私たちがつながってからの連絡網はLINEを使っています。

 

個別相談はたいていLINEで受けますが、相談で一番多いのは「進路」について。中高生は家族のケアとのかかわりで迷うんです。中には、「将来、教育学部に行ったら、本当に学校改革ができますか?」と尋ねる高校生もいました。実は、「学校改革」を口にする子は多いんですよ。親身な先生もおられますが、ヤングケアラーとしての話に耳を傾け、理解してくれる先生が少ないからではないでしょうか。スクールカウンセラーもそう。「それは大変だね」と他人事のように言われて、「もう二度と相談したくない」と話す高校生もいました。

 

子どもたちが言うには、自分とクライアントとの距離を取った上で「話を聞きましょう」というスタンスのスクールカウンセラーの方がいるそうで、壁が厚いように感じてしまうそうです。子ども達は共感してほしいのだと思っています。しかし、相談相手に介護やケアの経験がなければ、話してもなかなか分かってもらえない。一方で、相談を受ける側は、10代で家族のケアをするということが、どういう状況なのかイメージがつかない方もいらっしゃいます。悩むヤングケアラーに対して、「あなたの性格を治すべき」とアドバイスをする人もいたそうです。相談しに来る子どもに問題があるという意識があると子どもたちは二度と相談しなくなってしまいます。治すべきはその子の性格ではなく、その子が身を置く環境、社会の側にあります。

これは、元ヤングケアラーから聞いた話なのですが、その方が高校生の時に、「家族のことで大変な思いをしていることは、本当にかわいそう。でも僕にはどうすることもできない…申し訳ない」と涙を流され、ショックを受けたそうです。もちろん、理解のあるカウンセラーに助けられた中高生もいます。

 

第三者による親のケアは必要だけど…

自治体によるサポートですか? う~ん、先日もヤングケアラーの子たちと、その話をしました。「話をきっちり聞いてくれればいいので、家のことを、全然知らない人に解決してほしいとまで思ってない」と言うんです。そして、「『この子の家庭環境を変えれば、ケア負担がなくなるだろう』と思って福祉サービスを導入しようとするのは、支援をしたい大人の考えだ」とも。私もケアラーだったので、その気持ちはよく分かります。

 

例えば、祖母が認知症でヘルパーさんが日中は世話をしてくれるというケースを考えてみましょう。ヘルパーさんが介助をしてくれる時間は、日中の数時間だとします。その間、子どもは学校にいます。学校から帰宅したら、ヘルパーはもういないので、共働きの親が帰ってくるまでは自分が祖母の介助をしなければなりません。早朝や夜中にはヘルパーさんはいないので家族がケアをすることになります。かといって、ずっとヘルパーさんが家の中にいたら、落ち着かないですよね。思春期の子が、ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、リビングでくつろいでいる時間に、他人がいることが想像できますか? たとえヘルパーさんが日中の介助をしてくれても、ケアラーである家族や子どもが世話をする状況は変わらないのです。

 

一方で、親御さんへのケアって、すごく大切なんです。障害のあるお子さんを育てている親御さんは、日ごろから、大きなストレスを抱えています。もし、親御さんが心理的ケアを受けることができれば、子どもにとってはありがたいのです。しかし、親御さんが、他人による家庭への介入を阻んでいることもある。一人で育児を頑張っているお母さんが、ある日、あまりにも疲弊して、「今日は、なにもしたくない」と言い、ご飯もつくらなくなってしまうことがあります。また、夫婦喧嘩をして、子どもの部屋に来た母親が、ずっと子どもに愚痴をぶつけることがありますが、子どもとしてはそろそろ宿題をしなくちゃいけない。でも時間は刻々と過ぎていく。こうした日常の小さな出来事を説明して「助けてほしい」と自治体に訴えても、「それはプライベートなことだから、家族で解決しないとね」と言われるだけで、きっと取り合ってくれないだろう、と子どもは思っているのです。じゃあ、どうすればいいか。「それはあなたのせいじゃないよ。お母さんには、『宿題やらなくちゃ』って言ってもいいんだよ」と声かけをしたらいいのではないか、と思いますが、母親がそうした子どもの訴えを聞かずに話し続けてしまうこともあります。そうした愚痴を子ども以外の他者に吐き出せるように、親御さんへの心のケアも必要なのです。

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