子育てママよ、まち起こせ

外国人

ルポvol.29【外国人4】

 

シンポジウムのプログラムが終わる。登壇者たちが舞台を降りかけ、聴講者たちが席を立とうとざわめく。そのとき、1人の女性の声。「話したいことがあります!」という切迫した言葉が、会場の動きを止めてしまった。先ほど議論された「外国ルーツの子ども支援」について、当事者の意見を聞いてほしいという。その人が、ワタナベ サヤカさんだった。

 

中国出身の夫と2歳になる息子さんの3人家族で、足立区に在住とのこと。外国ルーツの子育てにおいて、彼女が訴える壁や葛藤を直接うかがいたいと、席まで駆け寄って取材依頼。大勢に飲まれず主張する気迫がいいなぁ…と思ったのが、アプローチした本音かもしれない。

 

地域でのライター活動を模索

ワタナベさんは、日本語教師として、留学生を教えていた経歴がある。また、ライター志望者で、「宣伝会議」主宰のライター講座に半年通学。「日中夫婦あるある」や、イラストによる「子育て日記」をインスタグラムで発信している。

 

一方、初めての子育てがコロナ禍と重なり、地域から切り離されたような孤立感を味わう。子育てと両立できる仕事がなかなか見つからない。うつうつとする日々が続く。しかし、そんな状況で得た体験や知見を、むしろ役立てたいとの思いが募っていく。外国ルーツの親や一般社会に向けたライター活動が、自分にできるのではないかと。

 

インタビューでは、そんなさまざまな想いを率直に語ってもらった。お子さんの預け先(保育ママと幼稚園)が決まり、次のステップに進もうとするタイミングだった。

 

足立区の銭湯に、託児スペースをつくりたい

それから3カ月後。在宅ワークも得たワタナベさんの構想は、より大きく発展していた。足立区内の銭湯に、託児機能をつくってみようというもの。銭湯検定のテキストに学びつつ、協力してくれそうな有志にどんどん会いに行く。子育て支援において、街にかかわろうと意欲する子育てママは非常に強力な存在だ、という実感がまた深まる。

 

お子さんのTくんは、やんちゃ盛りな男の子。取材中、2階にお借りした部屋(またしても「子育てカフェeatoco(イイトコ)」vol.19) を縦横に遊んだ。あるとき「外に出たい!」と、階段への転落防止の柵を勢いよく揺らす。エネルギーに満ちたその子は、将来、日中の壁をやすやす乗り越えてくのではないか、そんな予感にふと打たれる。

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