フリースクールとPTAで、「教育」を変えたい

教育

「おやじの会」で、地域活動に目覚める

元々は、地域活動などには、まったく関心がありませんでした。サラリーマン時代は、平日はずっと働いていて、土日になると寝てばかり。子どもの運動会にも行ったことがない。家族サービスもせずに、自分本位の生活をしていました。

 

ある日、「イベントを手伝ってくれませんか」と声をかけられ、「おやじの会」に入会したんです。子どもが通う足立区立千寿学校の父親を中心とした組織ですが、参加してみて「あっ、面白いな」と。年に2回、イベントを主催するんですが、打ち上げ花火をしたり、焼きそばをつくって子どもたちに配ったり。親父たちが集まって決めて、好き勝手にやりたいことをする。「イベント」という言い訳で家から抜け出して、みんなで酒が飲めるのもいい。でも、その活動で、「人のために何かやるって楽しいな」と思い始めた。

 

PTAに参加し、形骸化した行事の廃止を提案

そんな折、同じ学校のPTAから、「次の担い手がなく、このままじゃつぶれる。来てもらえませんか」と頼まれまして。「では、お手伝いします」と行ってみると、いろんな現状を目の当たりに。「改革が必要だ」と思ったんです。

 

学校には、昔からずっと続いていますが、「誰のためにやっているのか?」と思うような形骸化している行事がたくさんある。新たに就任した校長先生のお出迎えもその一つ。4月1日、PTAの保護者が、区役所に新校長を車で迎えに行き、学校ではPTAたちが花束を掲げて待っている。おそらく40年来の慣習で、足立区内の学校の約6割が実施してました。僕は、「それ、おかしいんじゃないか」と投げかけたのです。もちろん、新任の校長先生をお出迎えする気持ちは大事ですよ。しかし保護者にとって忙しい年度初めに、わざわざ会社や自営の店を休んでまでやる意義があるのかと。周囲からの抵抗も予想しましたが、「足立区PTAの次代を担う方々のため、自分が嫌われればいいだけ」と腹をくくって主張しました。

 

上部組織である足立区立PTA連合会にも、そのことを訴えると幸いにも認められ、「足立区では一斉廃止に」と宣言してもらいました。ただ、PTAのOBやOG(卒業生)の反対にあって、やり続けている学校も一部あるようですが。

 

学校への説得に当たって、「無駄だと思うものを取捨選択して、全部切り捨てる」と宣言したんです。その代わり、「余ったコストや時間を、子どもたちの安心・安全、より豊かな学校生活につながることに使いましょう」と。すると、保護者も先生方も納得される。実際に無駄を排した後、さまざまにことができるように。例えば、小学生の児童が交通事故に遭ったときです。PTAとして、学校校長、行政、区議会議員に呼びかけ、事故のあった交差点にみんなで行き、現場検証する。対策として、横断歩道に夜間照明を設置したり、道路標識を追加してもらうなどを要望し、具体的な改善につなげることができました。

 

PTA行事を、子ども主導のイベントに

イベントのやり方も変えました。PTAが主催する学校行事って、毎年、射的や輪投げなど、決まったことをやり続けている。それを、子どもたち自身で企画運営してもらうことに。自分で考えて行動する力を養うことは、将来役に立つと思ったからです。

 

4年生から6年生のスタッフを募集すると、30人も来てくれる。その子たちに、「どういうイベントがしたいか」を提案してもらいました。びっくりしたのが、「ボディーペインティングをやりたい」と。僕ら昭和世代からしたら、最初は何がいいのかよく分かりませんでしたが、子どもたちがすごく盛り上がって。上手くやるためにと、事前練習も熱心にするんです。

子ども目線で物事を見たりして情報を常にアップデートしないと、知らず知らずのうちに考え方、頭がかたくなってしまう。自分自身にとっても、良い学びになりました。

 

当日1000人は来場するイベントなので、ブースのレイアウトや、人の流れ方も、子どもたちで検討してもらい、PTAとしては一切口を出さない。「3時間に1000人来たら、1人何秒でさばかないといけないか?」などと、要所要所の課題を僕の方から投げかけて、子どもたちに考えてもらいました。こちらは答えを持っていましたが、そこはぐっと我慢して教えません。結果的に、イベントは大成功。後に、スタッフだった子の小学生の卒業文集に、こんな内容が書いてあった。要約すると「6年間での一番の思い出は、PTAの行事に企画から参加できたこと。自分たちの力でやってみて、その難しさと楽しさを実感し、とても充実しました。中学校に進学しても、生徒会などでこの経験を活かしていきたいと思います」。すごく嬉しかったですね。先生たちには申し訳なかったですが…。

 

YouTube動画「リモートお化け屋敷」で保護者が大活躍

でも、その翌年からコロナになってしまい、PTA活動ができない状態に。PTAとして、「子どもたちが安心安全に楽しめるイベントって、何ができるだろう」と考えた末に、「リモートお化け屋敷」を思いつきました。小学校を舞台にしてYouTube動画を作成し、子どもたちが家で観れるようにすれば面白いだろうなと。

 

そこで、企画、iPhoneでの撮影、編集、お化け役など、制作スタッフを募集すると、PTA以外から30人ほどの保護者が手を挙げてくれました。「私、編集できます」「企画会社に勤めてます」など多士済々。PTAが常に「子どもたち主体」と言い続けてくると、みなさん乗ってくるんです。ストーリーとしては、いたずらっ子への注意喚起も込めてですが、夜に小学校のエレベーターで遊ぶと、怖い世界に行っちゃうよ!いうもの。怖がりの子もいるので、謎解き要素を入れた全く別の動画を制作して刺激を弱めたものと2パターンを作成。子どもたちは大いに楽しんでくれたようです。とても良い出来で自慢したいのですが、保護者の顔出しNGもあり、一般公開していないのが残念。

 

こうした活動でPTAが活発化し、担い手が集まらなくて存続も危ぶまれたPTAが立候補だけで50人も集まるPTAへ変貌。それは僕が会長を退任して数年経った後も続き、現在60人ほどが参加しているそうです。日本で一番多い数ではないでしょうか。

 

町工場の改革で培った経験を生かす

僕の本業は、町工場の経営です。お爺ちゃんがつくった足立区の工場を、親父から受け継ぎました。子どもの頃からモノづくりが好きで、21歳のとき、そこで働くつもりだったんです。だけど親父に、「自営の町工場に入ったら、定年もないんだから死ぬまで働ける。だったら、お前はまだ若いんだから、外のモノづくりを見に行け」とアドバイスを受けました。

 

それから数年後、石川県の大手電機部品メーカに入社したんです。僕のところは照明器具メーカーなので畑は違いますが、製造業としての生産システムを学べるなと。

 

そして30歳をすぎ、こっちに帰って来きまして。大企業で見て来た「トヨタ生産方式」などのノウハウを取り入れ、改良を重ねました。家族経営ゆえ、独学ゆえの粗削りなところがたくさんある。そこで、「無駄なところはどこか」「ミスをなくすには」「60秒かかる工程を50秒に短縮する方法は何か」などと突き詰め、徹底的に合理化を進めました。PTAでの活動も、常に無駄を見つけ生産効率を上げるために改善を繰り返すということは、工場と同じ思考法でやっているのかもしれませんね。

 

ボランテイア活動を、子どもたちに勧めたい

今、子どもが3人おりますが、上の2人は、よく「学び舎」に来て、ボランティアとしても手伝ってくれてます。

 

子育ての方針は、認めてあげる、見守ることですね。ダメなことはダメと言いますが、基本的には「自分で考えて行動しなさい」と。具体的に「何をしなさい」と言ったことは、ほとんどありません。ただ、ボランティアは積極的に参加するようにススメてます。他者のために色々な活動をすることで、いろんな気づきがありますから。強制はしてませんけどね。そもそも僕は、人のため、ましてや地域のために何かやろうと考えもしなかった。でも、「おやじの会」のちょっとしたテント張りのお手伝いがきっかけで価値観が激変。そんな実体験をしてほしいですね。

 

子どもたちからよく言われますが、「前より、優しくなった」と。昔は、本当に自分のことしか考えない、気難しい父親だったんです。ボランティアって、一生懸命やるほど周りから批判されたり、もまれたり。誰かのために何かをやるというのは、家族との団欒や自分自身の時間を犠牲にするイメージがある。でも、そうすることで視野を広げ、一人の人間として、また親としての成長につながる。結局は、家族の幸せに還元されると感じています。

 

(聞き手・ライター上田隆)

 

 

 

<問合せ>

学校が苦手な生徒のための学び舎

運営団体「Dopeeps(ドゥピープス)」

https://www.dopeeps.org/

 

【対象生徒】

小学生・中学生・高校生

【開校日】

毎月 水曜日 10:00~17:00

【お昼ご飯】

お弁当をご持参してください。

 

 

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました