フリースクールとPTAで、「教育」を変えたい

教育

<インタビュー・松沼孝典さん>

不登校が右肩上がりの原因とは

今、不登校は、全国で約24万人。足立区でも急増しています。小中学生だけで、年に約1000人も。100校あるので、1校につき最低10人はいることに。私がPTAを務めている千住地域の学校でも、やはりそう。お母さんたちから、相談を受けることも多くなっています。

 

足立区に、不登校児の居場所を確認したら、区役所が管理しているところが4つ。でも、みんな川(荒川)向うで、僕たちの千住地区には1つもない。歩いて5分10分の学校にも行けない子どもが、電車を乗り継いで行くわけにはいかない。「千住につくってください」とお願いしたものの、なかなか動いてもらえず。「それなら」と立ち上げたのが、運営団体「Dopeeps(ドゥピープス)」なんです。

 

文部科学省が統計した「不登校の原因」を見ると、1番は「人間関係」。「将来の不安」「勉強に追いつけない」などは、2番以下になる。うちに来てる子たちも、「人間関係」なんです。ただし、「いじめ」ではない。例えば、小学校の6年間、3人の仲間で過ごしていたけど、中学校に入ったら部活が違って、お互い会話できなくなり、行きづらい、というような理由です。大人から見れば、些細なことかもしれない。この頃の子どもたちは、本当に敏感というか、優しい子が多い。僕らの世代に比べたら、感受性が豊かなのでしょう。また、昔は泣きながらも、親に引っ張られて学校へ行きましたが、今は「我慢しなくていい」という雰囲気もある。

 

それにプラスして、ここ3年、不登校児が右肩上がりで増えているのは、コロナ禍の影響も大きい。マスクしているため、相手の表情が見えず、コミュニケーションが取りづらい。その上、修学旅行はもちろん、入学式も卒業式も禁止。給食も、みんな前を向いて黙って食べる。文化祭も学校行事もなし。これでは人間関係が構築できない。学校が、本当につまらない場所になってしまったわけです。

 

最初の第一歩は、ここに来ること

私たち「ドゥピープス」が北千住で運営する「学び舎」には、現在、不登校のお子さん、小学4年生から中学3年生までの8名が在籍してしています。チラシなどでの告知もせず、すべてPTAからの口コミで集まりました。

 

まず最初の第一歩は、「家から出てここに来る」ということ。「数年間、学校に行ってません」「ずっと引きこもっている」「自分の家族としかしゃべってない」といった子ばかりですから。「勉強するからおいで」と言っても、おそらく来ない。それで、イベントやゲームなど、みんなで楽しいことをして過ごせる居場所づくりをしました。また、ソーシャルワーカーさん、教育委員会の方にも見学に来てもらい、「うちに来たら、登校扱いにしてほしい」と依頼すると、認めてくれる学校も現れました。一校一校と契約する必要はありますが。

 

なんでもチャレンジできて、「自己理解」を得る場に

基本的に学校が苦手な子たちなので、時間割などは特に決めてなくて。「好きな時間においで」というスタンスでやってます。お昼飯を食べてからでも、もう朝から来てもいい。各授業にしても、その先生が「この日来れる」となった時点で、「みんなで受けてみようか」と勧めます。「アート」の授業なんか、いいですね。決まった答えがないですから。本人の感性で自由にやっていい。どんな色を使っても、どんな描き方をしても、その子らしい作品が出来上がります。

 

「人生ゲーム」ってあるじゃないですか。すごく素晴らしいなと思って。子どもたちと遊んでみて改めて感心したのは、「お金の勉強」ができるということ。例えば、買った家が「火災」になったとする。前の段階で「保険」に入っておけば、「お金」が支払われてほっとなる。講義の形だと堅苦しい話になりますが、ゲームを通してだと、楽しみながら学べます。ボランテイアの大学生たちにも参加し、ワイワイとやる。遊びを通して、いろんな人たちとコミュニケーションする力も磨くことが大事ですね。

 

これまで、プロジェクターを使った大画面でのゲーム、立体折り紙、書道など、さまざまなことをやってきました。とにかく「失敗してもいいから、何でもチャレンジしみよう」と。自分には何が得意で、何が苦手だっていう「自己理解」を得れば、自ずと「自己肯定感」を得て、自信につながるからです。

 

うち1人は、前向きになり、人との交流にも慣れ、学校に戻りました。でも、僕たちの団体は、「学校に戻ること」をゴールにしていません。「ゴールは、自分たちが決めること」としています。保護者の立場からしたら「学校に戻ってほしい」というのは本音でしょうが、こちらは絶対それを言いません。それに子どもたちにとって、ここが唯一の「学校」であり「居場所」になっていますから。

 

地域の大学との連携が、大きなサポート力に

ボランティアの大学生さんは、帝京科学大学、東京未来大学、東京藝術大学から来てもらってます。大学生って、子どもたちにとっては、少し年上のお兄さんお姉さんなので、やはり話しやすい。僕らはお父さん世代になるので、若い人の存在はありがたいですね。

 

大学生とは個人のつながりではなく、各大学のそれぞれの学部の先生と公認で連携しています。大学からの依頼で不登校児童の増加問題について講演することもあります。とくに将来、学校の教員を目指す教育学部の学生さんにとっては、小中学校の教員になったとき、自分たちのクラスが不登校児を抱えたら、どう対応すればいいのかを事前に学ぶために来られている。

 

ここは自然とさまざまな大学生たちが出会い、交流できる場になっているようです。学ぶ分野が違うことで、お互い刺激になるとのこと。

 

自身の子どもが不登校だった経験から、親の悩みを痛感

この会を立ち上げた理由として、自分の子も不登校だったこともあります。実際に当事者の親になってみると、すごく戸惑ってしまう。「高校には行けるのだろうか」など、心配し悩みました。うちの子はすぐに立ち直って学校に戻りましたが、そのときの体験で、子どもの気持ちも親の気持ちも、痛いほど分かるように。それで少しでも、そういう家庭の助けになりたいと思いました。

子どもの言うことを丸々受け入れることが、問題解決につながるわけでもありません。甘やかすだけの家庭、子どもを放置する保護者もいます。究極的には、家庭、保護者に対して、「お子さんに、こういう学び、接し方をしたらいいのでは」というご提案ができればいいなと。

 

今のところ、運営費は全部自腹です(笑)。行政の補助金を待っていたら、多分スタートが遅くなったでしょう。子どもたちの時間って、どんどん過ぎて行く。待ったなしの状況なので、まずはなりふりかまわずスタートしました。でも、このままずっとやっていくわけにはいかない。今後、収益性の上げられる体制づくりが必要です。

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