「アート的思考」で、はつらつ育て!

アート

<インタビュー・鈴木公子さん>

高校時代に抱いた美術教育への違和感

この活動のきっかけ?…いつからだろ!?…美術大学を卒業後、就職して…ごめんなさい、もっとさかのぼります。

 

高校2年生のとき、急に美術の時間がつまんなくなったんですね。日本画の先生が担任でした。図書館から浮世絵の画集を探して、その絵をトレーシングペーパーでなぞって、はみ出さないように塗りなさいと。「こんなの美術じゃない! 作業だし、塗り絵だし」と、疑問がわいてしまって。先生に聞いたら、「絵の下手な子でも、上位の成績がとれる内容を考えた」みたいな答えでした。ああ、もうぜんぜん納得できなくて。人の描いたものを写しているだけなので、自分のイメージが何も生かされていないからです。それで将来、美術の先生になって、私が出会えた子どもたちだけでも、「本当の美術」を届けなきゃと心に決めたんです。

 

美大に入って教育課程をとり、教員採用試験を受けましたが落ちました。それで、おもちゃの会社に入社。13年間勤めましたが、その間も時折、美術のことを思い出し、「私だったら、どんな風に子どもたちに教えるか」と、いろいろ思案していました。

 

「ビシャバシャアート」、自宅のガレージで誕生

退職して結婚し、子どもができまして。その子がクレヨンを持ち出して絵を描き、絵の具も使わせたいとなったとき、「あっ、いよいよだな」と。悶々と考えてきたことを実現したい。自分の子どもだけじゃなく、どうせなら周りの子も巻き込んで、一緒にやっていけたらいいなと思ったんです。

 

背中を押してくださったのは、起業家仲間の「あおぞら作文教室」塾長の眞野玲子先生でした。五反野で一緒にラーメンを食べていたとき、子ども向けの美術教育への思いを、ふと打ち明けたんです。すると「夏休みの講座の一つとして、うちでアートレッスンをやってみたら」とチャンスをくださった。そのとき「ビシャバシャアート」のことが胸にありました。原点は、ジャクソン・ポロック(アメリカの画家で、絵の具を叩きつけるアクション・ペインティングで有名)です。「誰でもポロックになれる」といった企画をぜひ試してみたいと。

 

ただ、それまでアートを教えるという経験がありませんでした。いきなり本番というわけにはいかないので、娘が通う幼稚園のお友だちのママたちに声をかけ、自宅のガレージで、第1回目となる「ビシャバシャアート」を開催したのです。

 

やったみたら、「これいいじゃん!」と。すごく好評なので、他の子どもたちも呼び、以後、回を重ねることになりました。紙をA4サイズにしたのは、子どもたちが描いた絵を持って帰れるかなと。絵を飾ると家族のコミュニケーションも生まれますし。

 

ママたちにも喜ばれたのは、とくに休日や春休み・夏休み。パパが仕事でいないと、母子だけで過ごす時間が結構しんどいからです。まだコロナ禍じゃない頃だったので、午前中開催したら、お昼はここ(鈴木邸の居間)で持ち寄りで食べ、その後子どもたちはワーッと遊ぶ。ママたちはおしゃべりし、ときにお酒を飲んだり。母子の居場所みたいになっていたんですね。私自身も楽だったんです。

 

褒め言葉の「上手い」が、禁句な理由とは

子どもの絵を見たときの声がけでは、「いいね!」「すごい!」と褒めるのはいいと思うのですが、できるだけ細かく言うようにしています。「あっ、この線、勢いあって素敵だねぇ!」「この色の組み合わせが、すっごい!」など。「これはいいね」という評価ではなく、「私はここが好き」という感想を本心で伝えています。

 

「下手だね」は絶対に禁句ですが、「上手い」も避けてほしいです。「上手い」というのは、何か数式のように正解があって、そこに近くないといけないという風になる。たちまち偏差値教育を生き抜くような、優劣の世界につながっていく。アートは、フラットな世界で、何があってもOKなはずなのに…。

 

名画鑑賞との「対話」で、批判的思考を養う

活動の柱は、月2回開催する有料のレギュラーレッスンです。そのうちの1回は、名画の積極的対話を行う「ツナグ放課後アートアカデミー」。保育園も併設している、五反野にあるコワーキングスペースTSUNAGUで行っています。前半は、名画を見た感想を自由に話したり、テーマについて考えたりしつつ、画家の視点や技法などを私の見方から伝え、後半はそれらを体験するワークショップに。企画を考えるのが大変ですが、楽しみながらやっています。

 

前回は、アンチンボルト(中世イタリア・ミラノの宮廷画家)をテーマにしました。野菜の絵で描かれた肖像画を子どもたちに見せると、「中に人が入ってるのかなぁ?」「下半身が見たい」など、画面以外のことを想像するなど、その発想力に感心しました。ゴッホの自画像を出したとき、小学生高学年の子が、「どうして自分を描いたんだろう?」と質問。多感な思春期になると、自分の顔が嫌いになったりします。「じゃあ、考えてみよう」と、みんなで画家の意図に思いを馳せました。毎回、子どもたちの生き生きした感性に驚かされます。

 

コロナ禍中の1カ月間、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のオンライン講座を受けていました。美術との対話を通して「批判的思考・多角的視点」、つまり社会を生き抜く力を育てるという内容だったので、そのノウハウを自分の講座に生かせるかなと。毎週、課題やテストがあり、英語の文献にも目を通します。最後のカリキュラムは、名画から発展させて考えたレッスンカリキュラムを発表するというもの。それに対して、先生ではなく、受講者みんなが各々評価していく。すごく手厳しいんです。1回目は落ちて、2回目にようやく合格し、終了証をいただきました。

 

どんな意見を言ってもいいのですが、自分自身の視点でオリジナルな考えをつくり上げていくこと。そして他者から批判されることで、自分以外の視点を知ります。さらに他人の意見を合わせて自分の見方をより鍛え、常識を乗り越えていく力にしていく。とても実りの多い体験でした。

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