依存症は「病」。回復できる

依存症

ルポvol.39 【依存症1】

「新宿リカバリー・パレード」を歩いて

「♪いいんだぜぇ~きみがアル中でも、ヤク中でも…」。

2022年11月6日、「リカバリー・パレード 回復の祭典」の行列に加わり、歩きながら歌う。晴天の下、新宿のど真ん中の公道を一緒に練り歩くのは、アルコールや薬物依存症、心の病からリカバリーした本人、家族、支援者、一般の賛同者たち。

 

依存症は「病」であり、適切な回復プログラムを行えば、回復できるという。その事実を当事者が社会に広くアピールし、依存症に苦しむ人に呼びかけるのが、このパレードの趣旨。実行委員会の1人、田中健児さんに誘われて参加してみると、何か解放される気持ちと一体感を覚えた。

 

「アディクション」とは何か

「ヤングケアラー」「機能不全家族」などを支援する人たちを取材すると、「アディクション (依存症)」という言葉をよく聞く。自身の子どもを虐待する親たち、社会生活に適応できない人たちにも、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症であるケースが多いという。「アディクション」とは何か、またどういうプロセスで起こり、どんな治療法があるのか、知りたいと思った。

 

そんな折、「山谷・アート・プロジェクト」(vol.44、写真家の後藤勝さんが主催)に参加したところ、出会ったのが田中さんだった。山谷地区で生活困窮者を支援する「友愛会」の生活相談員だが、かつてアルコール・薬物依存症に苦しんだ人である。現在、同じ依存症者の回復を支援するY-ARAN(横浜依存回復擁護ネットワーク)・YRC(横浜リカバリーコミュニティー)でもY-ARAN独自のボランティアスタッフ「リカバリーサポーター」として活動。「アディクションについて、教えてほしい」と尋ねると、たくさんの機会を与えてくださった。

 

アルコール・薬物の依存症者の集いに参加

8月から10月にかけて、田中さんの案内で、Y-ARANのオンライン・ミーティング、YRCプログラム、横浜依存症ピアカウンセリングの会に参加し、何人かの当事者に話をうかがう。まさにさまざま。元受刑者で、刑務所では強制的に断酒できたが、出所した直後、酸欠状態で空気を吸い込むようアルコールを飲んでしまった人。依存症者の夫や息子の立ち直りを、忍耐強く支える家族。依存地獄を脱しつつ、今は依存症者の回復を支える人…。

 

依存症者からソーシャルワーカーとなった田中さん

そんな中でも、田中さんの歩みは突出してユニークかもしれない。ある時、アルコール・薬物依存症者のまま、依存症者の回復をサポートする民間医療施設のソーシャルワーカーになってしまったからだ。しかも、患者さんとかかわるうちに回復を決意し、当事者ゆえの発想で、「ボクシングセラピー」やアメリカの「マトリックスモデル」を勤務先の施設に取り入れた。

 

2008年、田中さんは、現場からのその実践内容を、日本デイケア学会のシンポジウムで発表。論文を読ませてもらったが、とても感銘を受けた。一行一行に血が通っている。

 

YRCプログラムを見学した際、ボード前の田中さんは、ちっとも講師っぽくない。当事者だったからこそ、その語りかけが渦中の依存症者たちの心に響くのだと思う。以下のインタビューでは、依存症に陥った経緯、一転して依存症者を支える試行錯誤が語られる。依存症は精神の病であり、「居場所」「仲間」「希望」があれば回復できるという。このことを骨身に知った人の人生を、辿ってみた。

 

(田中健児さんのインタビューは、2022年10月23日、南千住の喫茶店で行った)

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