依存症は「病」。回復できる

依存症

回復過程となる「12ステップ」とは

「AA」は1935年にアメリカで始まった自助グループです。それまで治療できないとされたアルコール依存症の当事者同士が集まって、体験を分かち合っていると、不思議とやめることができた。その回復過程を12の段階に表したのが「12ステップ」です。

 

まず、アルコール、薬物などへの依存に対して、自分が無力であることを認めることから始まります。回復するためには、「ハイヤーパワー」(自分を超えた大きな力)に、身をゆだねる決心をして、行動する。自分を超えた大きな力とは、「自分で理解している神」と呼ばれることもあります。宗教色はあるので、僕も最初はとまどいましたが、地球が自転したり、月が満ち欠けしたりする大自然、宇宙の力をイメージしてもいい。そして、傷つけたすべての人のリスト「棚卸し表」をつくり、謝罪「埋め合わせ」をします。何冊もノートで書き出す人も。

 

依存症者の家族は大変な思いをします。家庭は一番安らげる場所だし、自分を支えてくれる場所ですが、反面一番感情を揺さぶられる危険な場所でもある。もし子どもが、依存症者の親に虐待を受ければ、辛かった体験や日々は、傷として一生残ってしまう。親が回復したからといって、簡単に許せることではない。埋め合わせには、長い時間がかかるでしょう。依存症者には、傷つけて来たすべての人々と、自分自身のために回復する責任があるんです。

 

回復に至ったら、自分が学んできたことを誰かに手渡すことが最終段階に。回復者が、もうひとりの依存症者の最も良き理解者となって援助の手を差しのべるわけです。

 

人を助けることの難しさ

もちろん依存症者を支えるのは、一筋縄にはいきません。回復過程の初期段階にある依存症者が、別の依存症者の世話を焼きたがることがあります。この感情は、大事な出発点になる。けれど回復の初期段階では、自分の面倒も見れないわけですよ。ちょっとでも意にそわないと「助けてやったのに、礼も言わない!」と、文句を言う。助ける自分は価値ある人間だって思っていられるし、人の心配をしている方が楽なんです。でもね、「踏みつけられる覚悟」があっての行為。といっても、やっぱり僕らも、本音を言えば感謝されたいし、認められたいですけどね。

 

「川の流れは押せない」というネイティブ・アメリカンの格言があります。援助者側が、「こういう方向に持って行きたい」としても、あまりうまくいかない。松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)は、『薬物依存の理解と援助』という著書の中で、こう述べています。「できることは、人に考える機会を与え、本人がそれを望めば、それを援助する場を提供することであり、あとは本人が変わるのを待つだけである」。待つしかない…。

 

「無力」をかみしめて、「変えていく勇気」を

なんで自分は、この仕事をやっているんだろうと考えると、分かりません。「成り行き」という「ハイヤーパワー」だったのかも知れません。

 

クリニックで働き始めた頃、「資格もないし、向いてない。もう無理かも」と悩んでいました。でも、先輩の看護師さんに「ケンちゃん、あなたは看護師が何年かかっても出来ないような患者さんとの向き合い方、対応の仕方を、たった数カ月で身につけた。いや最初から出来ていた。私はあなたが羨ましい。あなたにしかできないことが、きっとあると思う。だから、もう少し頑張ってみて」と言ってもらえて、すごく勇気づけられたんです。本当に嬉しかった。

 

尊敬していた看護師さんが僕のどこを認めてくれたのか、今でも分からないし、それが知りたい。援助者だけど依存症者でもある僕の「当事者性」なのか。仲間でもある患者さんとの「距離感」なのか…。

 

患者さんに「私、死にたいんだけど」って言われた時、どうにもなんない。上っ面だけの「共感」なんて意味がない。自分が無力だってことを痛感しつつ、ただ、聞く…。それが何十回も転職して、何をやっても長続きせず、迷いながら生きて来た結果、身についた「スキル」なのかも知れませんね。                                                                                     

 

アルコールと薬物をやめ続け、18年が経ちます。気がつけば、日頃から大変お世話になっている医療・福祉・行政などの関係機関の皆さん、たくさんの仲間、友人に囲まれています。職場で知り合った今の妻と結婚して、2人の子どもにも恵まれました。今では薬物によって得られる快感より、子どもを抱っこしているときの「ナチュラル・ハイ」の方が気持ち良く、幸せに思えます…。

 

自助グループのミーティングで、参加者がともに唱える「平安の祈り」は、自分の大切な指針ですね。リカバリー・パレードでも、この祈りの言葉に曲をつけた歌をみんなで歌っています。

 

♪神様

私にお与え下さい

自分に変えられないものを

受け入れる落ち着きを

変えられるものは

変えていく勇気を

そして、ふたつのものを見分ける賢さを

 

(※「平安の祈り(Serenity Prayer)」

アメリカの神学者ラインホルド・ニーバー(1892–1971年)が伝えたとされる「祈り」の一説。「ニーバーの祈り」としても知られる)。

 

皆さまの「今日1日」が平安でありますように。

 

 

(聞き手・ライター上田隆)

 

 

<参考文献>

  • 『薬物依存症治療ことはじめ』田中健児

(日本デイケア学会誌「デイケア実践研究」vol.13 No.2, 93-106,2009)

  • 『ボクシングセラピーの効用』田中健児

(外来精神医療 第9巻第1号(通巻第16号)

  • 田中さんが半生をつづった講演録

(「2017年6月24日 「社会を明るくする運動-地域集会」

主催:墨田区保護司会本所北分区)

  • 『薬物依存の理解と援助――「故意に自分の健康を害する」症候群』松本 俊彦

(金剛出版 2005/10/20)

 

<問合せ>

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〒235-0004 神奈川県横浜市磯子下町12-15

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