「児童福祉司」で「里親」だから、見えること

児童施設
「児童虐待ゼロ」を、本気で目指す江戸川区児童相談所

江戸川区が、児童相談所の取り組みに力を入れるのは、当時7歳の岡本海渡さんが親による虐待で死亡した事件による反省があります。以降、区は「児童虐待死ゼロ」を目指しています。

 

だからか、ここの児童相談所は、組織としてとても柔軟で、新しいことにどんどん取り組もうとする雰囲気があります。所長自身、東京都でずっと児童福祉司を勤め上げて現場をよく知る人。所長を含め幹部は、こちらが提案すれば「ああ、いいじゃないですか」と、必要なことなら自由にやらせてくれる。「そんなのは公務員がやるべき仕事じゃない」とは言わない。とくに私の上司である女性の課長は、ものすごくバイタリティのある人で、「それいいね! 分かった、区長に言ってくる」みたいな勢いで、自転車でピューッと区役所に行って直談判してくれます。こういう人がたくさん揃っているということも強みだろうなと。

 

こうした気風は、江戸川区の文化からも、きているかもしれません。ここの児童相談所ができるときも住民の反対はなかったと聞いています。コロナ禍では、町会の人たちが100枚の手づくりマスクを差し入れてくれました。またあるとき、「江戸川区に、社会的養護の子は何人いるんだ?」と問い合わせが来て、「350人です」と答えれば、「では1人1万円寄付するよ」と申し出てくださる資産家もいました。下町人情を感じますね。

 

江戸川区児童相談所の先進的な取り組みについては、前の職場にいたときから気になっていました。地域1階に「子育て広場」といったコミュニティスペースを設けると聞いて驚いたものです。シェルター的に子どもを保護しているのに、「地域で開かれた施設へ」というコンセプトがピンとこない。でも、実際こちらに来てみると、とくにトラブルもなく、いい雰囲気なんです。連れてきた子どもは保育士さんが遊んでくれ、ママ同士は知り合っておしゃべりを楽しんでいる。里親の相談会も、結構頻繁にやっているので、ちょっと話を聞いてみようという気にもなる。

ちなみに施設名の「はあとポート」は、区民からの募集で選んだもので、親しみを込めて呼ばれています。

 

子どもたちの「居場所」となった一時保護所

国内の一時保護所は、よく「刑務所」のようだと批判されますが、確かに、子どもを厳しく管理するという施設は多いです。しかし、江戸川区の一時保護所は、子どもの意志を尊重します。例えば、普通の施設では相部屋ですが、ここではベッドやテレビ付きの個室。当初「みんな、部屋から出でこなくなるんじゃないのか」と心配もされましたが、そんなこともまったくありません。生活スペースは除いて、男女別というのはなく、リビングや学習スペースは一緒。子どもたちは、和やかに会話しています。

 

インテーク(初回面談)の際、他の一時保護所でよくあるのは、職員が入所した子どもに「なぜ、連れてこられたのか、言ってみなさい!」「私物は持ち込めません!」などと高圧的に接することです。一方、江戸川区のインテークは、「ここに入るにあたって、何か心配なことある?」から始まる。「歯ブラシ、何色使いたい?」という職員の質問を初めて耳にしたとき、「歯ブラシ、選べるんだぁ~」と感心しました。

 

他の一時保護所は、人手が少ないために、子どもたちに強い態度で接しがちです。子どもがイライラして暴れてしまったら、「反省日課」として、部屋の隅で日記を書かせたり、一人で学習をさせる施設もありました。しかし、江戸川区は、一時保護所の職員の人数も多く当て、その分、密度の濃い対応ができるように。イライラする子どもには、「別のフロアに行って、一緒におやつ食べようか」と、職員が声をかけ、寄り添うことができます。

 

親御さんに対しても、一時保護所の上の階の部屋で、「お子さん、家ではこんなことがしんどいようですよ」と伝えたり、職員が立ち合いの元、親子で話し合ってもらったり。児童精神科医もいるので、「発達特性はこうだから、育てにくいところがあったんですね」と、指摘もしてもらえます。

 

これまで、一時保護所でつらい経験をし、「こんな所で暮らすなら、親に殴られても、家にいた方がましだ!」という子どもに、何人も出会いました。でも、ここは、子どもたちにとって、居心地の良い場所のようです。夜、「ピンポーン」とチャイムが鳴るので出てみれば、かつて入所していた子が、友だちを連れてきて、「この子も保護してあげて」と。それって、あるべき姿かなと。

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