「児童福祉司」で「里親」だから、見えること

児童施設

<インタビュー・白田有香里さん>

児童施設勤務に挫折するも、配属されたのは児童相談所

もともと私、民間企業の会社員をしていたんです。なにか充実感が得られず、「もっと人間力を使うような仕事がしたい」と調べたら、児童福祉の仕事に関心を持ちました。教護院といういわゆる非行系の児童が入所するところや(今でいう「児童自立支援施設」)、児童養護施設です。児童福祉施設で働きたいと思い、保育士の学校に通って資格を取得。児童自立支援施設で臨時職員をした後、東京都に就職できて、晴れて児童養護施設に配属になり、ケアワーカーとして9年近く働いたんです。でも、ローテションがきつく、とてもしんどかった。いつ起きて、いつ寝ているのか、分からないような生活でしたから。子どもたちとの生活は楽しかったけれど、体力的に「このまま一生続けられない」と見切り、転職試験を受けて事務職に。役所内でお勤めするのかと思ったら、児童相談所の配属にされ、児童福祉司となりました。以後、何か所か異動するも、今年で16年間、児童相談所にいます。

 

現在勤務している江戸川区児童相談所は2年目。所属している東京都江東児童相談所から、江戸川区児童相談所へ派遣されている形に。

 

虐待の対応増える一方、年々経験者減る児童福祉司

昔、東京都で児童福祉司になるには、いろんな児童福祉施設の現場を回って経験を積み、「係長」に昇進する必要がありました。しかし、虐待件数が右肩上がりになり、児童相談所に求められることも増え、なにか事件が起こるとマスコミから叩かれる。どんどんきつい職場になり、配属されても多くの人は「異動したい」と思いつめ、「行きたい」と希望する人は減る。だから「主任級」でも児童福祉司にしようとなり、そのうち、「新規採用の子でもいい」みたいな。社会人として初めて働く職場としては過酷なので、病気になる人も。新規採用の人はたいてい1、2年で異動していくので、児童相談所全体の経験値がいつまでたっても積み上がらない。

 

仕事は虐待の対応だけではありません。例えば、「うちの子、発達障害なのかしら?」「家で暴れて大変なんです」「お金を持ち出して、夜、帰ってこない」などの相談が飛び込む。はたまた「赤ちゃんの夜泣きがひどいんです」とか。0歳から18歳までが対象なので、本当に「なんでも屋さん」のようになる。

でも優先的に動かないといけない虐待への対応が、体感的には8・9割。あとは非行、次に育成相談という感じですかね。

 

虐待対応は、分業制ではうまくいかなかった

虐待事例が増えるにつれ、児童福祉司が一人で対応するのが難しいということで、2016年に分業制になりました。人員を獲得するための、苦肉の策だった側面もあるそうです。初動体制として「虐待対策班」が、通報から48時間以内に周辺調査をし、その家を訪問して現認(親の子に対する虐待があったかいなか、現場での直接確認)を行います。虐待が認められ、継続的な在宅指導あるいは子どもの一時保護が必要となれば、私たち児童福祉司が、後の支援を引き継ぐことに。「介入」と「支援」の体制を分けたわけです。

 

しかし、徐々に課題が浮き彫りになってきました。「虐待対策班」は通告を受けて、すぐに家庭訪問などにより子どもの安全確認をしますが、虐待の有無については親御さんが否定すれば、子どもは実際には虐待があったとしても、親御さんの前で事実を話すことはできない。「面前でのDVは、お子さんの心に深刻な影響を与えますよ」と、注意だけして帰ってくるみたいになってしまって。でも後で、DVが深刻な状況であったことや、子ども自身も実は身体的虐待を受けていたと学校側から知らされたり、「絶対に家に帰りたくない」と子ども自身がこちらに来たり。

 

つまり、一つ一つのケースに丁寧に対応することができず、次々と入ってくる虐待通告を捌くことで精いっぱいになってしまうんですよね。

 

そこで江戸川区では、昨年2020年から、虐待対策班(江戸川区児童相談所では調査係)がなかったころの体制にしました。「このままの組織じゃダメだね」と、年度の途中で組織改編する区もすごいと思いますが…。結局、地区担当制にして、「ここ何丁目の担当のケースについては、すべてこの人が受ける」という体制にしたのです。

 

同じ担当者が、何年も親に寄り添う大切さ

地区担当制だと、親が同じ職員にずっと対立感情を抱いてしまうから、分業にとなった経緯もあります。ただ、親にすれば、一時保護をされれば一度は猛烈に腹が立つ。一生懸命に子育てしているのに、ダメ出しをされて連れていかれるわけですから。そんなとき、「一番大変な保護をしましたよ。はい、じゃあ地区担当の児童福祉司さん、その後引き継いでね」と担当者が変わったところで、親にすれば同じ児童相談所の職員。怒りは変わらない。かえって無責任な感じになる。

だけど、最初から同じ担当者が、「どうしたら、一緒に暮らせるかねぇ」と寄り添って、共に何年も考えながら信頼関係を築いていくと、「あのとき、保護してもらってよかったわ」という話になったりする。ここの何年を続けられるか、というのが、本当に肝というか。分業制にするメリットは、長い目でみると、あまりないのかな。私の主観ですけど。

 

たいていは、いきなり保護からかかわるわけじゃない。例えば、「ちょっと、イライラしちゃうんですね」というレベルの相談から始める。「お子さんをショートステイでここに預けて。お母さん、ちょっとゆっくり休んでみよう」などアドバイスします。それでもある日、ストレスが重なって手をあげ、大きなケガをさせてしまう。今まで相談に乗ってきた私が、保護しなきゃいけないことになったりする。でも、「いろいろやって、そうなったんだから、いったんお子さんと離れてみる?」「疎遠だったおばあちゃんと連絡とってみようか」「無理して働かず、生活保護を受けてみようか」などと提案し、子どもの安全を確保した上でさまざまな手立てをとることができる。

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