「児童福祉司」で「里親」だから、見えること

児童施設
一時相談所を出て、入所できる施設の数が足りない

児童相談所の話に戻りますが、子どもたちが、保護される経緯はさまざまです。「親御さんが逮捕拘留されて、育てる人がなくなった」「母子家庭でお母さんが癌に」「親と死別」など。「非行がひどくて、うちでは手に負えないから、施設に入れてくれ」と、親御さんが申し出ることもあります。家庭内暴力に発展するケースになりそうなら、保護しなければいけない。親御さんの子どもに対する虐待は、もちろん保護の対象となります。

 

一時保護所で暮らすうちに、本人や家庭の状態が安定し、返せるようになった子は返す。返せない子は、里親に委託するか、そうではない子は児童養護施設、非行の子は自立支援施設、だいたいこの3通りです。中学を卒業すれば、アルバイトしながら自分で施設料を支払う自立援助ホームを選択できます。これを加えれば4通りの行先に。

 

この子にとって一番良い道はどれなのかと、みんなで一生懸命考える。心理の検査をし、子どもの話を聞き、行動を観察し、総合的に判断するわけです。課題行動が改善しないと、児童養護施設に行ったところで、施設内で大暴れするなどして、失敗体験を繰り返してしまう子もいる。となると、自立支援施設に預かってもらうことになる。

 

実際には、施設を選べる状況ではありません。施設の数が足りないからです。しかも、特色や力量も、本当にさまざまです。難しい子をお願いしても、すごく頑張って育てる施設もある。一方で、そんなに大変な子ではないのに、悪化して飛び出して、警察に保護されるようなケースが多い施設もある。本当に難しい…。

 

親に虐待をやめさせる、児童福祉司の知恵

だから、私たちは、一時保護所の子どもが家庭に戻れるよう、さまざまなアプローチを行います。子を虐待する親は、自分の親に殴られてきた人が多い。「しつけ」をしているつもりで、子が憎く手を挙げる人は、むしろ少ない。家庭で受け継いできた「文化」としての暴力は、ペアレントトレーニングを受けてもらうと改善されます。

 

単に「虐待をやめなさい」と諭しても、聞く耳は持ってくれません。

「一発殴ったら、瞬間で言うこと聞くじゃん」という親には、「私、効果がないと思うんだよね。次はもっと強く叩かなくちゃいけなくなる。工夫して声かけをした方が、エネルギーを使わなくてすむよ」と、諭すように話す。「普通、子どもが宿題を全部終わらせたら褒める、というよね。でも、そうじゃないらしいよ。25%ぐらいのところで褒めた方が、子どもはやる気が出て自信もつく」。そんな風に、日常で使えることをいろいろ教えていきます。褒めるのが苦手という親御さんには「『女優』になったつもりで、言ってみたら」と背中を押して。

 

「虐待は、法律で禁止されたから絶対アウト」と教えると、納得する親もいます。「この親は、どう言ったら聞いてくれるかなぁ」というも持ち札を、こっちはいろいろ持っているわけです。

 

悩む子に、「親を見切る」こともアドバイス

子に対しても、家庭で上手く過ごせるようトレーニングをします。例えば、その子がADHD(注意欠如・多動症)で、物を散らかすことで、いつも親に怒られるとする。「順番つけて、こうやって片付けていったらいいよ」「引き出しに、ここは『靴下』と貼れば、迷わない」などと、具体的に指導。現実的に怒られる場面を減らしていくわけです。

 

もうちょっと大きい子だと、子ども自身から「親を見切る」道もあると示してあげたりもします。「あなたの意志で家を出て、暮らしていくという方法だってあるんだよ。実際、そうしている子もいる」と。

ある子は、考えた末に、「でもやっぱり、オレ、結構好きなんだよね、親のこと。一緒に暮らすと喧嘩になっちゃうから、自活しつつも、ときどき会って飯を食うことにしたわ」と、決めてくれました。

 

「人は変わる」と、信じることがエネルギーに

児童福祉司に向いてる人ですか…。

そうですねぇ、精神力は必要かな。親御さんから、2時間ぐらい怒鳴られることもありますから。終わった後、(額に手を当て)このへんがじ~んとしている。やっぱり、傷つくし、へこみます。でも「あっ、子どもは、こうやって怒鳴られているんだ」ということを体験させてもらっている、と思えば、大切な時間になる。

 

そして、人や暮らしに興味がある人かな。あと、人は変わると、基本的には信じている人。「この親は変わんないな」と思うときもあるんですけど、でも子どもは変わります。子どもは育つ力がありますから。

 

切り替えが上手な人もそう。ある程度いい加減でいい。「だって私のせいじゃないでしょ」と、受け流すことも必要。やっぱり若くて真面目な人ほど、「なんで、できなかったんだろう」と、すごく自分を責めてしまう。

 

新任の頃、一人で怖いお父さんの面接に行かされて、誰も助けに来てくれず、つらい思いをしたことがあります。だから私は、同席し、新任の担当者を親が責めたら、身を挺してかばう。「何言っているんですか、お母さん! この人がどんだけ、あなたの子を守っているか知ってますか? こんな提案をして… 」と訴えます。すると相手は、「まっ、それは分かるけど…」となって、収まってくれて。

 

大ベテランの先輩に、「親は、怒っているのに怒り返してくれないと、ちゃんと人間として扱われている感じがしないんじゃないか」と教わりました。「そんなこと言ったって、○○じゃないですか!」と、こちらも怒鳴り返すくらいでいいのだと。大阪の人はそうみたいだけど、一戦交えて、「よ~し、話に入ろう」とした方が、お互い向き合えるとか。苦情を黙って聞き、「あっ、分かります、お母さん」とうなづかれると、「絶対、分かってないよね」と内心思われてしまうのでは。

 

そう考えると、接し方はそれぞれ違う。同じ人は一人もいないし、一日として同じ日はないので、飽きないです。飽きようがない。

 

子どもたちに救われる、「児童福祉司」という仕事

この仕事の醍醐味は、子どもの成長かな。

 

いろんなことがあった男の子から電話があり、「(少しぶっきらぼうに)高校受かったよ」と教えてくれたときは、「はぁ~、もう何年に一度のご褒美だ、これは」と。

 

ある女の子も「家を出て、地方で働くことになった」と、報告してくれる。「あんた、頑張ったねぇ~。連絡くれて、嬉しかったよ」と伝えると、「私が頑張ったんじゃないよ。頑張ったのは白田さんだよ」。そんなこと言ってれる子、めったにいない!「『児童相談所』って、ネットで検索したら、悪い話ばっかり書いている。あんた、いい話、書いといてよ」と、頼んでしまいました。

 

長く続けるといいこともある。だから、みんなにも、そうして欲しいと思っているんです。

 

(聞き手/ライター上田隆)

 

<問合せ>

江戸川区児童相談所(はあとポート)

江戸川区児童相談所(はあとポート) 江戸川区ホームページ

 

千葉市ひまわり会(里親会)

里親制度のご紹介
事情があって家族と一緒に暮らせない子どもを家族の一員として温かく迎え養育してくださる方を求めています。

 

 

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