アート×哲学で、「対等とは?」

アート

「すべて対等」である必要はない

鈴木/対等から生まれるものは、何だと思いますか?

岡井/「必ず対等にならなければならない」というものは、多分ない。「良い対等」という関係もあるけど、「対等じゃない関係」もあっていい。「対等じゃない関係」って、ほころびが出る可能性が高い、というだけのこと。

鈴木/そうですか! 私は「全部対等であるべきだな」と思っていたのでびっくりです。

上田/鈴木さんの絵を見ていると、動いている感じがする。対等に向き合って並んでいる色も、実は回転していたり、ひっくりかえっている状態の世界を、一瞬、「対等」というテーマでパッととらえたもの。そこに鈴木さんの「対等であれ」という強い意志が働いている。もともと同じ人の関係も、さまざまに動きまわっているんじゃないかな。

鈴木/それはあるかもしれないですね! やっぱり、いろんな人の話を聞くと面白いですね。

岡井/難しいこともあるけど、結局、人はいろんなことを学んで、それを人との関係において役立てないといけない。それには、自分でできること、自分の生きがい、生きている時間に何ができるかということに落とし込めないと。もちろん「知らない」ではだめで、「知った」上で、自分にできる一番のことを選択する。それは、自分が生き延びるために。しかし自分の世代だと、もう自分が生き延びることじゃなくて、次の世代が行きやすい世界にしたいなと。自分の経験や知見を伝えたいですね。

鈴木/素敵です。

岡井/年を取ってくると、そういう風にならないとね。どうせ死ぬんだから。生まれた順番に死ぬというのは幸せなこと。

鈴木/ちなみに、今の世代と次世代の「対等」を思いました。

「お金」「多数決」から「応援」へ

鈴木/対等について、何か言い残している方は?

大島/はい!  だんだん頭、回ってきてます。鈴木さんが、「みんな対等の方がいいじゃないですか」と言われましたが、それについて、今、言語化できるかなと。僕はコミュニティをつくるとき「リンク・シェア・フラット・グローバル」の4要素を意識してます。コピーライターの糸井重里さんが『インターネット的』という本の中で書いているものです。ここをおさえれば、いいコミュニティがつくれます。「リンク」は、人がつながること。「シェア」は、何かモノとかコトとかを分かち合うこと。「フラット」は、水平、つまり対等。まさに今日のテーマです。なぜフラットなのかというと、コミュニテイの中で誰か突出した人がいれば、そこにどうしても楽しめない人が出てくる。最近の例を出せば、著名人の飲み会に行ったんですけど、あまりいい会じゃなかった。著名な人がいて、みんなその人としゃべりたいだけで集まっている。あっ、フラットじゃないなと。自治体とか国とか、それこそ地球を一つのコミュニテイに置き換えると、もし鈴木さんの世界観でフラットになっていれば、戦争も起きていないわけだし、めっちゃ素敵だなって。

そこからもう一歩踏み込んだことを、僕がフリーコーヒーをやりながら、最近気付いたんです。日本って、当たり前なんですけど、「資本主義」と「民主主義」の両輪で回している。資本主義は「お金」が評価指標。お金を持っている企業がどんどん大きくなって、発言権が強くなる。民主主義の一番象徴的なものは、行政による選挙だと思う。評価指標が「多数決」なんです。つまり「お金」と「多数決」で、あらゆる物事が決まっていく。

地域活動は、その外側に行きたいと思ってやっています。フリーコーヒーもそうですし、「トネリライナーノーツ」もそうなんです。

僕は、地域の評価指標を、「お金」から「応援」というものに変えて行く取り組みをずっとしています。何が起こるかというと、人って応援すると気持ちいいと思うんですよ。そして、この地域の中で活動して応援されると、勇気づけられチャレンジする人がたくさん出てくる。アート分野でもそうだし、コミュニティの分野でもそう。何かそういう世の中になっていった方が、すごくいい。お金がそんなになくても、「めっちゃ楽しい!」みたいな。

鈴木/素晴らしい!   応援し合うって、本当に対等だなと思いました。

大島/僧侶ですから!(一同笑)

鈴木/グローバルは、「外側」?

大島/そうすっね、糸井さんは「外国」と訳してましたが、僕らは「外側」って。足立区の人は、足立区内でばっか活動しようとする人が多いと思うんですけど、荒川区、北区とか出ていった方が、なんか楽しいよと。学びもあるし、知見も深まるし。僕自身は、コミュニティを拡張するということを、すごく意識していて。

上田/「応援」というお話ですけど、まさにそうかなと。僕自身ライターとしての活動で、地域で活動される子ども支援者の方々にインタビューして、個人ブログに掲載しています。やっぱり、応援したいというのがある。自分の持っている最良の技能って、「取材して書くこと」でしかない。それを使えるのかが何かと考えたとき、すごくしっかり活動している人の話を書けば、何かこう支援の輪が広がるなと。その人の記事を読んで会いに行ったという人がぽつぽつおられて、やりがいを感じています。「自分にできることを選択する」というのは、岡井さんとのお話にもつながりますね。

 

ゼンガクジフリーコーヒーでの「対等」

鈴木/「ゼンガクジフリーコーヒー」の居場所に、私は結構「対等」を感じるんです。

大島/そうですね。まさに超意識してます。一番象徴的なのは、無料であること。お店だとクオリティの担保が必要で、しかもお金をもらうということは、「お客」として扱わなきゃいけない。僕らは、それを望んでなくて。コーヒーは誰が入れてもいい。正直、嫁が入れる方が僕のより全然美味しい。まあ、コーヒー豆の品質がいいから大丈夫っしょ、みたいな。自分たち運営者も、来てくれた人と同じ目線なんです。バリスタ(コーヒーを淹れる人)がトイレに行っている間、その場にいる人に任せて戻ったら、後から来た人たちと普通にしゃべってる。そのくらいの感じを目指していたら、その通りになったみたいな。さっき偉そうに語った、リンク・シェア・フラット・グローバルも後付けなんですよ。僕の場合、やりながら「あっ、これで合ってた」と納得し、間違ったなと思えば「すぐに変えればいい」というスタンスなので。

鈴木/お金をもらってしまうと、「お客様」になってしまう感覚は、すごい分かるかなって。私もデザインカフェを無料でやっているんですけど、100円でもとってしまったら、「100円分の対価を何かで提供しなくては」とか、「満足度はどう?」とかになっちゃう。やっぱり無料にしてフラットな関係であれば、私もくつろいでいられる。

大島/よく「お客さんがたくさん来るの?」と心配されるんですけど、最初からたくさん来なくていいように設計してます。お店じゃない、無料だし。だから、ふらっと来てくれた人とお話できることの方を大切にしています。

 

「みんなで住むおうち」、10月1日オープン

鈴木/友子さんのご主人が、10月1日から、「みんなで住む家」(東京千住・ヰヱ(イエ))を始められて。元々住んでいらした家を改修して「こそだて喫茶cotoca」を運営されてましたが、今回また変えられたんですね。それも私は「対等」を感じるんですけど。

水戸/「みんな」って、誰?

改田/「誰でも」です。手を挙げれば、誰でも住んでもいいし、どういう風に使ってもいい場所に。元々喫茶店だったから、カフェ営業もできるし、飲食店をやりたい人はキッチンが使えます。何か講座をやるのもいい。事前に連絡をもらえば、使う人に鍵を渡すので、自分たちで戸締りしてもらう。一個の建物を、みんなで平等に使うみたいなことをやっていこうと。ダンナが一昨日から活動を始めています。

鈴木/それって本当に対等というか、人を信じ切ってる!

水戸/「お互いこうやってね」というルールは?

改田/こちらでルールはつくらず、使う人がつくってくれればと思います。何もしばりがなさすぎて、かえってみなさん、戸惑っているような。

岡井/どういう「枠組み」の中に自分を収めていいか分からないから。お店って、結局お客さんが、店の雰囲気をつくっていくところがある。

水戸/最初の一人目が大事!

鈴木/その人は、すごいプレッシャーですよね。でも、すごく面白い!

 

医療の「不平等」とアスリートの「対等」

鈴木/根本さんも、何か意見があれば。

根本/僕は、まだ この職場に異動したばかりなんです。これまである意味、「対等」がない医療現場にいた人間だったので、今回のお話がとても新鮮でした。こういう機会が増えれば、多分うちのスタッフの価値観も変わってくるのではないかと思います。

岡井/上下関係というのは、当たり前の世界。どこに行ってもそう。そうじゃないものを知ったとたんに、かつての世界がバカらしく思うこともある。

根本/大学の助手も経験しましたが、そこにも「対等」はなかった。ただ、アスリートの方に「対等」がありました。僕も参加しましたが、150人の学生部員がいて全寮制の共同生活をします。1軍をはじめ、以下2軍、3軍、4軍がいる。自分より上の軍をライバル視する人もいますが、「応援」が基本にある。「あいつが1軍なのは、実力があるから」と尊重し、部員全体が信頼関係で結ばれています。それによってチームの結束力が発揮できる。周りで支えている大人たちより、学生サイドの方が「対等」という意識が強かったですね。そんな現場から、上下関係の医療の世界に行ったので、よけいに学ぶところがありました。

岡井/最近、高校野球でも、学生たちが自身の練習を仕切る。

根本/僕のチームもそうでした。部員が練習メニューをつくる。安全性を担保するのが、監督やコーチの主な役割でした。「対等」は、「自主性」がキーワードかもしれない。

岡井/その「自主性」を保つのも、リーダーがいないと成り立たない。互いの「対等」を維持するため人が必要になる。

 

「対等」から何が生まれるか

/鈴木さんが、さっき「対等から何が生まれますか?」っていう質問をされましたが、僕は「信頼」だと思う。さっきの話もそうですが、学生同士が対等だからこそ、信頼関係が強いんですよね。

鈴木/なるほど。私は「尊重」だと思うんです。「尊重」から「愛」が生まれると思うけど、今日「愛」はNGワードなので…(一同笑)。

岡井/ぜひ「愛」じゃなくて、「慈悲」を。

水戸/そこに加えて、やっぱり「尊重」と「信頼」ですよね。

岡井/まとめとして、「見返りを求めない」。

鈴木/心に染み入るいい話を、たくさんしていただきました。みなさんの「対等」がうかがえて、本当に嬉しいです。いゃぁ、もう幸せな2時間でした!  そんな感じで上田さん、ものすごく盛りだくさんですが、まとまりますかね? (一同笑)

上田/はい…。

 

(聞き手・ライター上田隆)

 

 

 

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