「子どもの幸福権」を守る

法律

ルポvol.34 【法律2】

 

冷房のきいた法律事務所の相談室。「お待たせしました」と、白シャツ姿の青年がパソコンを抱えて入ってくる。額に汗しているのは、先ほど、炎天下の外からエレベーターに飛び乗ったからか。眼鏡の奥の目が柔和な人である。テーブル前で待つ自分が、家出したばかりの8歳の男の子だったとしても、すんなり身構えを解いただろう。弁護士・前原潤さんは、話せばやはり「やさしいお兄さん」で、芯がある。

 

「人権とプライバシー」を、青年弁護士に聞く

「子ども支援」のテーマを追うにつれ、「法」が何かにつけ大事なことに気づく。しかし、この方面はまったくの無知。そこでコネクトリンク勉強会事務局の橋本久美子さんに、基本中の基本を実務の人から学びたいと相談し、北千住パブリック法律事務所の前原さんを紹介してもらった。テーマは、2022年2月、同勉強会で講義された「人権とプライバシー」。

 

困った子どもや家族に手を差しのべようとすれば、プライバシー情報を聞き出し、把握しなければならない。それは人に知られたくない「秘密」でもある。「ほっといてほしい」と言われれば、先には進めない。また、知り得た情報を守るのは道義上当然。だが「支援」を動かすには、外部との情報共有も必要となる。どこまで知るか、漏らすかの線引きも、実際はケース・バス・ケースのところもある。それゆえ、支援する側は、法的な枠組みや内容を頭に入れておかなければならない。

 

プライバシー問題は、「人権」からきているという。この大本の「人権」の理解がとても難しい。元々欧米の概念で、日本の風土から産まれたものではない。日常の感覚と少しずれてしまう。「人権を言い立てれば、和が乱れる」、そんな素朴な感覚が自分にも世間にも根強くある。だが「人権」は、日本国憲法に厳然として明記され、まさに戦後半世紀以上、法の根本概念として社会を回している。支援に関することのみならず、生きる上で、どうしても正確に理解する必要があるのだ。

 

前原さんは、日々「法」を武器に、生身の困った人たちを助けている。大人、子ども、各々の法的立場の違いを見極めながら、切ったはったで奮闘されている。そんな現場の弁護士からうかがう「人権」「プライバシー」の話は、実践、経験に裏打ちされているので分かりやすかった。

 

インタビューが終わった帰り際、前原さんはこう話す。「法律の歴史を学ぶのが好きです。大学の先生が、『条文の1行1行に人々の叫びがある』と言われたことに感銘しまして」と。「法」は、無味乾燥なものでなく、あったかい血が脈打っている。

 

(前原潤さんインタビューは、2022年6月22日、北千住パブリック法律事務所にて行いました)

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