貧困の子に、「体験」を

貧困

<インタビュー・片野和惠さん>

足立区の子ども貧困問題を知リ、NPO法人設立

2013年、足立区が主導して、子どもの貧困対策に力を入れようとするムーブメントがありました。さまざまなNPOが参加するシンポジウムへ、友人に誘われて行ったんです。静岡県から来たパネラーの方が、「足立区には、生徒の70%が就学援助を受けている中学校がある」と報告したのを聞いて、びっくり。それまで海外の絶対的貧困の子どもたちを支援していましたが、国内の相対的貧困のことはあまり知りませんでした。

 

忘れもしない大型台風があった翌朝、役所に電話して、「その中学校って、どこですか?」と尋ねました。学校名は教えてくれませんでしたが本当の話でした。「足元を見据えた活動をしなければ」と反省。私自身、英語教室を経営していて、裕福な家の子どもに英語を教え、教育格差をつくっている。それなら、地元で貧窮する子どもの支援をしてもいいのではと。

 

早速、教え子と一緒に支援活動をしようと決心。社会福祉協議会や足立区役所にかけあいました。3日ぐらいで任意団体「リエゾン・アダチ」を設立。2014年4月から活動を始め、2015年NPO法人にして今の団体名に。

 

「泳げた」自信が、学習意欲につながった

この会の特徴は、他の団体や組織と組んでやる活動が多いことです。例えば、セカンドハーベストとフードバンク食料を配布したり、まちづくり事業者が企画するイベントにかかわったり。

 

無料の送迎付きスイミングレッスン(送迎は夫)は、小学校内にある市民プールを運営する館長さんとの出会いから始まったもの。小学校の水泳の授業では、泳げない子は溺れる危険のないようプールサイドの端で見学させられるそうです。すると、泳げない子はずっと泳げない。水泳のコーチでもある館長さんは「水泳と英語は、自然と覚えられない。誰かが教えてあげないと」と言うわけですが、「なるほどね」と。

 

このスイミングレッスンが、「リエゾン・アダチ」をずいぶん助けてくれました。当初は、「無料」としても学習支援では、子どもたちがなかなか集まらない。でも水泳は、人気がありました。館長さんやプールの優秀なスタッフたちが教えると25m必ず泳げるようになるからです。泳げると自信がついて「何かやったら、できるんだ」と、いろんなことにチャレンジするようになる。「勉強なんか、絶対しない」という子が、学習支援に来るように。

習い事している子は、出来ないことが出来るようになるプロセスを知っています。でも、貧困の家庭の子どもたちはその機会がない。学校の勉強でつまずいたら、もう何もできるように思えなくなってしまうところがある。

 

野外活動にはどんどん誘います。外泊の経験が乏しく、「キャンプ」のイメージすらわかない子も多いので、まず日帰りのツアーから勧めます。東京から高速バスに乗って館山に行き海を見せ、レンタカーで千倉まで行ってミカン狩り。そこで、農園のおじさんからミカンづくりについて教えてもらう。学校じゃなくても「学び」があること知ってほしいからです。帰りは、わざわざ新宿行の特急電車に乗せて、錦糸町でゴール。みんな大満足です。

 

不登校で失う「出会う場」を、地域住民と共につくる

私は、会の活動とは別に、今、不登校の子の登校支援サポーターをやっています。家と学校へ送り迎えしたり、教室に入れない子を別室で教えたり。担任の先生、養護の先生、副校長、スクールカウンセラー、SSW(スクールソーシャルワーカー)、そして親御さんと共に、その子をどう教室に戻していくか、話し合いながら取り組んでいます。

 

不登校であっても、「勉強」は後でどうにでも取り返せます。でも、「経験」だけは取り返せない。「学校は必要ない」という子はいて、それはそれでいい。でも、「学校に戻りたい」と思う子には支援してあげなければ。子どもが不登校になって母親が働けなくなったため、生活保護を受ける母子家庭はまさにそう。

 

学校に行けなくなれば、家しかいる場所がなくなる。自信をなくして、それが長期化する。もっと早い段階でどうにかできないかなと。そこで今、リエゾン・アダチの活動である無料学習支援教室「輝塾」と区の施設の指定管理を担っているNPO法人あだち・まちづくり・コモンズさんとで、学校と家庭以外の場所をつくることを始めました。「愛恵こどもポート」といい、学校に行きたくない、行けない小学生が来て、スタッフや地域の方と一緒に宿題をしたりします。

ここでは、地域の方に、裁縫や将棋など、その方が得意なことも教えてもらいます。手放しで可愛がってくれるので、子どもの自己肯定感が上がり、助かっています。

 

勉強以外のことで自信をつけつつ、「人を信じること」を体験してほしい。どんなに友だちがいなくても、友だちにいじめられても、自分のことを絶対的に受け入れられる人が一人でもいたら強くなれる。すると同い年の子にも歩み寄れるでしょう。子どもは変わります。ある日、突然「明日、学校に行く」と言ったりしますし。

 

ずっとその子に寄り添いながら、いろんな受け皿を用意しておく、というのが、私の支援の仕方です。

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