子どもたちの「いじめ防止大作戦」

いじめ

ルポvol.6  【いじめ1】

廊下を歩いていると、騒ぎ声がする。4人の男子生徒が、1人の男の子をはがいじめにしていた。ゲラゲラ笑いながら相手のズボンを脱がせ、思春期の下半身をむき出しに。その子の助けを求める目に、ハッとかち合ってしまう。私は思わず顔を背け、歩き去る。「卑怯もん!」と、自分をなじりながら…。

 

あらから何十年もたった今も、世の学校から「いじめ」はなくなっていない。文部科学省が発表する統計では、減らないどころか増えている。いじめ認知件数は、過去最多の59万件を超えた(2019年10月17日発表)。8割が小学校だ。

 

そんな中、足立区立辰沼小学校が、画期的ないじめ防止活動を行い、成果を上げている。プロジェクト名は、「たつぬまキッズレスキュー隊」(通称TKR)。子どもたちが主体となって「いじめ反対」を唱え、学内をパトロールしていじめの芽をつむ。そして、さまざま楽しいイベントを行い、校風を明るく盛り上げる。TKRは、いじめ防止の、とびきり素晴らしい方法ではないかと思う。この活動を導き支えた、当時の校長・仲野繁さんに話をうかがうと、確固たる教育哲学があった。

 

仲野さんは、現在、HLA共同代表として、学校危機管理やいじめ防止教育のコンサルタントとして活躍されている。(取材は2020年2月24日に行った)

 

TKR隊長、「いじめをなくすために立ち上がった」とスピーチ

TKRの始まりは、2012年9月だった。

「当時校長だった私は、児童会役員3名を校長室に呼んで、『大津市中学校いじめ自殺事件、どう思う?』と聞いたんです」と仲野さん。「そのとき、子どもたちは、『大人は、いじめられたらすぐ相談しなさいと言うけど、子どもは仕返しのことを考えると怖くて簡単に相談できない。それに解決しても、またいじめられるんじゃないかと思うと、教室や学校にも入れなくなる。不登校、引きこもり、最悪は自死。死んだ後に対策とってどうするんですか? 僕たちが望むのは、解決ではなく防止』と、訴えたのです。

そうか…と。私は、『いじめが起きにくい学校づくり』を決意しました」。

 

TKRについての計画は、仲野さんと児童会役員で入念に練られた。

そして同年10月、体育館で行われたTKR発足式は、学校にセンセーションを巻き起こす。「NHK大河ドラマ『龍馬』のテーマ曲とともに、TKR隊員が颯爽と舞台に登場。そしてTKR隊長が、『僕たちは、いじめを無くすために立ち上がった。僕たちの考えに賛成の人は、一緒にやらないか!』とスピーチ。とにかくかっこいい。すると体育館に座る児童450人の内180人が次の朝、参加申込書を提出した。そして、次の朝礼の時、校長が、「全員、腰を下ろしてください。そしてTKR隊員は起立してください」と促すと180名の隊員が立った。すると、『こんなにいるんだぁ〜』とみんなが驚いた。ここで『いじめ反対者の可視化』をしたわけです。1人2人のいじめっこが180人相手に喧嘩できない。正義も数なのです。私は、学校に、『正義』がまかり通るような空気をつくりたかった」。

 

それから、子どもたち自身で校内のパトロールが行われた。いじめになりそうな言動を注意し、実際にいじめがあれば教師に報告。

 

一方で、仲野さんは、教師として、子どもの自主活動を神経細やかに見守った。

 

「見守る際、注意すべきは、『正義は暴走する』ということ。

ある時、廊下で10人ほどの子どもが、1人を取り囲んでいました。通りがかったTKRの班長が話を聞くと、その子がいくら言ってもいじめを止めないと攻めます。班長は、『10人が1人を吊るし上げるのは、いじめじゃないのかな』と諭しました」。

 

「現在のいじめの定義は、『被害者が嫌だ』と感じれば、どんな行為でもいじめになります。これはこれで問題を含んでいますが。TKRに対して、『オレは弱虫だから、できない…』と不快に思う子もいるはず。だから、TKRは、いつでも自由参加でき、自由脱退できるというゆるやかなものにしました」。

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