映画『隣る人』を観る

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ルポvol.1  【イベント 1 】

児童養護施設の日常を8年間撮影

子どもたちが、保育士さんに抱きついて甘える。ワガママを言う、泣く、笑う。映画が始まって早々、児童養護施設の日常にいきなり放り込まれたようで面食らう。終始テロップもナレーションも音楽もないので、感覚と思考をフル動員して観てしまうドキュメンタリー映画『隣る人』(監督・刀川和也、2011年作)。事情があって親と暮らせない子どもたちと保育士たちのドラマを、なんと8年間も追い続けた作品だ。

 

2020年7月12日、この素敵な映画の自主上映会&アフタートークが、あだち子ども支援ネット (代表理事・大山光子さん)の主催にて開かれた。場所は、足立区六月にあるポルテホール。上映後、映画の企画者である稲塚由美子さんが解説し、アフタートークも行われた。稲塚さんは、ミステリー評論家でもある。

 

保育士の枠超えて「親」に

舞台は埼玉県加須市にある児童養護施設「光の子どもの家」。

 

1985年に設立され、定員は36名。敷地内に、2階建ての建物3棟と、地域にグループホーム2棟。職員27名、うち責任担当者が8名。ここでは、「責任担当制による家庭的処遇」というやり方で、2~18歳までの子どもたちを育てている。保育園や学校に送り出したり、ご飯をつくったり、夜には一緒に寝たりしながら暮らす。児童養護施設は日本に約600施設あるが、「光の子どもの家」のような責任担当制による家庭的養護が行われるのは5施設くらいしかない。「児童養護施設の絶滅危惧種」などといわれたという。

 

さて、映画の話に。保育士のマリコさんと、彼女が育てる生意気ざかりのムツミと、おっとり甘えん坊のマリナが物語の中心となる。

 

ムツミもマリナも、マリコさんが大好きで仕方ない。

 

ある時、「人は死ぬ。マリコさんも死ぬ」という結論に達したのか、少女たちはパニックに陥り、「一生死なないで!」とマリコさんに抱きつき、泣きじゃくる。肉親から得られない愛情を激しく求める子どもたちの深い孤独を感じてしまう。不安のまっただ中にいる子どもたちを、「はいはい」と適度にいなし、動じないマリコさんがいい。

 

一筋縄ではいかないのが子ども。だだをこね、テコでも動かないときは、きつく叱ることもある。

 

「『コンチクショウ!』と思うことがこれだけあっても(両手を広げ) 、可愛いと思うことがちょっとでもあったら、『コンチクショウ!』はスポッとなくなる」と笑うマリコさん。子どものすべてを丸ごと受け入れるこの人は、「保育士」という枠を越えている。2人の、まさに「親」になっているのだと気づいてハッとする。

 

実の母親がムツミと絆の結び直しをしたいと施設を訪れる。どうも2人の間がうまくいかない。ムツミは、実母をマリコさんと比べて葛藤してしまうのかなとも思う。「なぜ、本当の母親は私を育てられず、血のつながらないマリコさんの方が母親らしいのか」と。ギクシャクする2人を前に、いつになくオロオロするマリコさんの姿がなんだか切ない。ムツミは、2人の「母」の間で揺れている。

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