カオス! 子どもたちの「アートな祭り」

アート

ルポvol.62-2 【アート】

「アート」は、子どもの力をひき出す。

確かにそうだ。でも「美術を勉強する」ことではない。東京藝術大学から生まれた団体「ムジタンツ」が企画する『アートな祭り』は、そのド直球の答え。同団体・山崎朋さんの講演を、以下に記した。

紹介されたイベントは、足立区保木間小学校で実施されたもの。ユニークなのは、「祭り準備祭り」にて、参加者の子どもたちと、アーティスト大人たちが、企画内容を練っていくことだ。そして、「祭り」の方針としては、子どもにたちに対して「同じ方向を強制しない」「一人ひとり自分のやり方で展開」「『YES』『NO』の意志を示せること」。大人たちは、「子どもが、何か必要なときに手を貸す」サポートに徹すること。

そして、はっちゃけた子どもたちと、芸術的に変な大人たちが編み出した最高に楽しく創造的な『アートな祭り』が出現!  子どもの力を本当に伸ばすのは、「教育」より、「サポート(伸びる力を適切に支える)」ではないか。

※講演は、2月11日、足立区役所庁舎ホールで開催された、シンポジウム「こども”ど真ん中”プロジェクト2024」(主催/一般社団法人「あだち子ども支援ネット『未来へつながる実験室』」)にて行われたもの。

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<講演/山崎朋さん>

 

アーティスたちが「アートな屋台」をひらく

大山(あだち子ども支援ネット代表)/子どもたちが変わった、もう1つの事例です。とてもとてもハイレベルの活動をされているムジタンツさんです。

山崎/ご紹介いただきました、ムジタンツの山崎です。事務局をしている酒井さんや石川さんも一緒に会場にいます。「事例報告2」となりますが、「アートなお祭り」を紹介します。「アート」ですが、図画工作はもちろん音楽やダンスなどいろんな活動を含みます。それらが、あちこちの場で同時に巻き起こっているようなカオスの状態のイベントなんです。

会場は、足立区立保木間小学校。体育館と教室をお借りして、過去3回にわたって開催しました。一番最初に行ったのが2023年9月18日、第2回目は2024年2月25日、第3回目は同年10月14日と年内に続けて実施。いずれの会も、「途中入退場自由」で「参加費無料」「事前予約は必須ではない」という形です。ありがたいことに、毎回90名以上の参加となりました。

 

どういった内容かといえば、まず、毎回、アーティストの方々(音楽・美術・ダンス・それらの複合した分野で活動)をお呼びして「アートな屋台」と称するコーナーを、各々会場内に開いてもらいました。そして、子どもたちは、興味や関心のおもむくままに、「屋台」を巡って遊んだり、自らも「屋台」をつくったりできる。そんなイベントです。

別の狙いとしては、アーティストが準備したコンテンツを、子どもたちが、ただ受け取るのではなくて、一緒に準備したり、つくったりするプロセスのワクワク感も共有することを目指しました。

 

多様な素材で、好きな居場所をつくる

第3回目の「アートなお祭り」では、参加アーティストには、プロの方々のほかに、東京藝術大学の学生さん3名が加わりました。当日の会場マップで、「屋台」の位置を示しています。「屋台」と一応呼んでいますが、夏祭や縁日で見られる屋台とは、だいぶ様子が違う。例えば、アーティストの大西健太郎さん(ダンサー/パフォーマンスアーティスト)と、寺内天心さん(パフォーマンスアーティスト)が考案された「屋台」では、いろんな素材が並べられました。体育館にそのままあるようなパイプ椅子や、長い竹の棒、紙テープなど。それらを自由に使って、子どもたち自身が、好きなこと、得意なこと、やってみたいことを考えながら、「居心地の良い場所をつくってみよう」という趣旨のコーナーに。

 

第1回目・第2回目に参加いただいたヴァイオリニストの南條由起さんの「屋台」では、こちらもさまざまな素材を使って、自作の楽器をつくれるように。また、解体できるヴァイオリンを使った解体・組み立てショーも、とても人気でした。

 

スライドに映る黄緑色の装いをした方は、藝大生のお1人です。雅楽で使われる「笙」を吹き鳴らしながら、体育館や教室をウロウロ。最初、子どもたちは、怖がっていたんですけど、だんだん馴染んで、「山びこさん」というあだ名をつけました。本人が名乗ったわけではないのに。ある子は、「山びこさん」に手紙を書き、そのふんどしの中に入れてくれました(笑)。

 

東京藝大を拠点にスタートした「ムジタンツ」

そもそも「ムジタンツ」ですが、私と酒井さんが立ち上げた団体です。「音楽、身体表現、ダンス、演劇などを融合させたワークショップをやろう」と結成。クラシック音楽を題材にして、ダンスや体を使いながら、体験的に作品を味わうというプログラムを行っています。2018年、東京藝術大学一般公開講座「藝大ムジタンツクラブ」としてスタート。足立区での地域連携事業として活動を始めたのは、2019年からです。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科が主催に入り、「文化庁 大学における文化芸術推進事業」の一環として実施しています。

 

最初の3年間、2019年から2021年度は、足立区の母子生活支援施設(橋本さんが勤務)と連携し、施設内のみで活動しました。この時期、コロナ禍と重なり、広く公開したイベントは行えませんでした。2022年以降は、視野を広げ、「地域交流」をキーワードとした活動にシフトしました。ここからは、「あだち子ども支援ネット」代表の大山さんとも連携し、また、会場として保木間小学校をお借りしています。そして2023年、保木間小学校での「アートな祭り」が実現することになりました。

 

当初、参加申し込みがなくて苦戦

「アートな祭り」以前の2022年度に話を戻します。この年は『音楽とダンスのおたのしみ会』と銘打ってムジタンツのワークショッププログラムを行ったのですが、開催にあたって、広報にめちゃめちゃ苦戦しまして(笑) 。保木間小学校でチラシを配布しましたが、申し込みが来ない、子どもがなかなか集まらない。結果的には無事に開催することができ、子どもたちや関係者の方から好意的なお言葉もいただけたのですが…。開催後に関係者の皆さんとお話しすると、3つの課題があげられました。まず1つ目は「定員」。ムジタンツの音楽とダンスのワークショップでは、1人1人にきちんとかかわりたいとなると、15人から20人に制限せざるを得ない。2つ目は「時間」。ワークショップの性質から、2時間なら2時間と、一定の時間に区切る必要が出てきてしまう。3つ目は「テーマ」。「音楽」「ダンス」では、広く子どもたちを惹き付けられなかった。以上、この「枠」となっていることを全部取っ払ってみようということで、「途中退場自由」「参加費無料」「事前予約なし」とし、ハードルを限りなくなくそうと努めました。そして最終的には、より自由度の高いお祭りとして、多くの子どもたちが参加してくれる結果に。

 

「祭り準備祭り」で、子どもたちとの関係づくり

当初、アーティスト主導のイベントを企画していました。しかし、打ち合わせの際、参加アーティストの大西健太郎さんが、次のように提案。「ただ、アーティストが考えたコンテンツを提供するだけだと、子どもたちが単に『受け取る側』になってしまう。そうではなく、子どもたち自身、お客さんを『迎え入れる側』として、何か作業したらいいんじゃないか」と。「それはいい!」ということになり、さらに話が膨らんで、子どもたちを巻き込んだ「祭り準備祭り」をやろうとなりました。

実際に行ってみると、なかなかカオスな状況に。参加予定のアーティストたちが、「自分はこういうことをやりたいと思っている、どうかな?」と、アイデアの1つ1つを、子どもたちにぶつけます。すると「意味分かんない!」「面白い!」などといった反応が返って来る。そうした感想や意見をフィードバックしながら、子どもと大人が、一緒になって企画を練っていったんです。2024年度は、この「祭り準備祭り」を計7回実施しました。

 

子どもたちとの関係づくりができたのは、やはり大山さんとの連携が大きいです。月1回開催されている「“がきんちょ”地域食堂」に参加し、毎回子どもと一緒にお昼の食事を共にして、そのままの流れでワークシヨップに移行。その形がとても良かったんです。

 

子どもの「これは違う」「こう思う」を生かす

「アートなお祭り」の後、関係者との振り返りの会で、「『お祭りの準備祭り』で、どんなことを心がけたか?」と参加アーティストのみなさんに問いました。大西さんは、「全体性をなくす、ねらいや目的を示さない」と言われたんですね。「どういうことなんだろう?」と、私なりに「翻訳」し、次のような言葉にしてみました。「みんながみんな、同じ方向に向かって行くことを強制しない。アーティスト自身は出発点を示す。もちろん、子どもたちが、何かサポートが必要なときは手を貸す。けれども、そこから先は、子どもたちが1人ひとりそれぞれのやり方で展開していく。自分に合わない、興味のないことは、やらなくてもOK」。

また、子どもたちが、いかに安心して、「これは違う」「こう思う」といった、自分の意志を示せる関係性を、私たち大人とつくっていけるか。実はこのことが、「アートなお祭り」の重要なベースになっているかなと。あともう1つ。「『違う』と思ったことを、『ものすごくダメだ!』を、子どもたちが言えたことが、とても良かった」という感想も面白かったです。

 

大山さんからの言葉も紹介させてもらいます。「(知らないものと出会うというのは)自分が壊れるんじゃないかっていう危険性もあるぐらいに構えちゃう。どうにかして親近感から始まって解放感に持って行くところまで積み上げていくのには、食を通し、おしゃべりも通し、喧嘩も通し…っていう、いろんなものを全部まぜこぜにしながら、日常をそこにつくってあげないと」。

 

「アート」って、よく「非日常」と位置付けられます。そういう性質もあるんですけれど、日常と地続きの中から、だんだん交流が生まれて来て、少しずつ関係性がつくられていく媒介となるのも「アート」の役割ではないか。とくに子どもたちと共有できた食事の場から、改めてそれを実感しました。

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