「こども基本法」11条の要旨は、こうだ。「子ども施策をつくる際、子どもの意見を反映せよ」。
同条は、「子ども権利条約(日本ユニセフ協会)」第12条「子どもの意見表明権」を基にしたもの。では、「なぜ意見表明が必要か?」「どう聞くか?」。その理念と実践の最先端を説く「子どもの権利条約ネットワーク代表」の喜多明人さんの講演録をまとめた。講演は、2月11日、足立区役所庁舎ホールで開催された、シンポジウム「こども”ど真ん中”プロジェクト2024」(主催/一般社団法人「あだち子ども支援ネット『未来へつながる実験室』」)にて行われたもの。
市民社会において、子どもが、「権利」の土台にしかと立つには、大人サポートが必要だ。子どもの「言葉」を引き出すという。
<講演/喜多明人さん>
子どもの意見を生かしたいと始まった「こども”ど真ん中”」
大山/「あだち子ども支援ネット」代表の大山光子です。私たちの団体が、この「こども”ど真ん中”プロジェクトを」始めたのが2010年。障害を持つお子さんの保護者から、「どうして、子どもたちの意見を聞いてくれないのか?」と訴える声をうかがったのがきっかけで、「じゃぁ、こども”ど真ん中”の活動をやろう」と動き出しました。以来、足立区のいろんな団体の方々とご一緒しながら活動し、2024年度でちょうど14年目に。細々ですが、みんなで忙しく動いてきて、そして若い人たちにつないでます。今日の講演や議論は、これまでの報告というより、参加してくださったみなさんの「気づき」や「きっかけ」になればと思っています。
トップバッターの喜多先生は、私が「子どもの権利条約」に興味を持って以来、ずっと「おっかけ」となって、学ばせていただいている方です。日本では、「子どもの権利」なんていってとも、まだまだ理解されません。だから、先生のお仕事は、本当に貴重なんです。
子どもの声を受けて、自分たち大人は何が築けるか。そんな思いを抱きつつ走ってきた活動が、もう1つあります。司会を務められるソーシャルワーカーの橋本久美子先生と二人三脚で運営してきた「コネクトリンク勉強会」です。地域の有志、民間団体、専門家、行政の方々とコラボして、「子ども支援」に関するさまざまなテーマごとに会合を重ね、発信してきました。全国的にも好評を得て5年続きましたが、本日で一区切り。そのネットワークでつながった方々が、この場にも参加され、とても感謝しております。
では、前置きはこの辺りにして、喜多先生、よろしくお願いいたします。
「子どもの意見を反映せよ」と、子ども基本法
喜多/「子どもの権利条約ネットワーク」代表の喜多明人です。昨年、後期高齢者に突入しましたが、75歳です。早稲田大学も退職して早5年。大学教授は、定年後、悠々自適となるはずなんですが、私は例外のようで、今が一番忙しくなってしまって。なぜかというと、2022年6月、「子ども基本法」(2023年4月施行)という法律ができたからです。
みなさん、「こども基本法」って、ご存知ですか? 特に重要なのが「11条」です。要旨は「こども施策を策定や実施し、そして評価する際には、子どもの意見を反映しなければならない」。つまり、国も自治体も、子どもの意見を反映しないと、政策をつくれなくなってしまった。ちなみに同条は、「子ども権利条約((日本ユニセフ協会))の第12条「意見を表明する権利」を基にしたもの。
同法を推進しているのは、2023年4月に発足した「こども家庭庁」です。当初は、中央省庁である同庁の幹部ですら、「喜多さん、子どもの意見を聞く必要があるんですか?」と尋ねるわけです(笑) 。もちろん、今は違いますよ。しかし現在でも、全国の自治体含め、行政の職員たちは、「どうすれば子どもに意見を聞けるか?」と、頭を抱えている。それで、子ども施策の策定にもかかわる私が、自治体職員の研究会講師として、あちこちに招かれることになるわけです。
「子どもの権利」意識において、自治体間に格差
全国各地で、子ども条例づくりがどんどん進んでいます。2024年12月には、東京都北区も策定。23区では、荒川区、江戸川区、地元の目黒区にできました。実は私、「めぐろ子ども支援ネットワーク」の代表ですが、目黒区の子ども条例がちゃんと守られているか、監視する立場なんです。
専門家としては、「子ども権利条約」を進める自治体を支援もしています。昨年12月は、三重県四日市市、今年1月末には大阪府富田林市に行きました。子ども基本法ができて2年、さまざまな自治体を巡りましたが、大変な格差が生まれてきているのを実感します。「子どもの意見を聞いた」というふりだけして政策を進める「見せかけ型」が結構存在します。一方で、本気で子どもと向き合い、その意見を政策に生かそうと取り組む自治体もある。この格差を是正していくためには、どうすればいいかというのが、今日の一番のテーマなんです。もう1つは、それを必要と感じた人たちが、「どうすれば子どもの意見を集められるか」ということです。
私の教育研究者としての手法は、一貫しています。子どものリアルな現実から出発するということ。そこにきちっと向き合わないと、次の課題は出てきません。定年を過ぎてからのものですが、実際に行った調査をご紹介しましょう。
学生アンケートに見る「自己肯定感の低さ」
2019年から2020年にかけて実施した、早稲田大学の学生たちへのアンケートで、「自己肯定感と意識調査結果について」です。
子どもの現実の中で、一番重視しているのが、「自己肯定感」。それは、問1の「私は、自分自身に満足している」で、「〇」をつけたのは82名「56.6%」でした。世界の平均値では、7~8割近くですから、かなり低い。早稲田の学生は、あの受験戦争を勝ち取ってきた「勝ち組」なのに。むしろ大学合格も達成感がなく、親や学校、まわりの期待に応えた「やらされた感」が支配しているようです。ちなみに日本の平均値は45%。内閣府は、日本の子どもの自己肯定感は、「世界の最低基準」という表現をしています。
実際、大学で経験したことですが、授業の後、私にこう言ってきた学生がいました。「喜多先生、僕、生きているのが、何となく面倒くさくなっちゃった。いつ死んでもいいですよ。」それで、問9に 「いますぐに世の中から消えることができるなら消えたい」を入れると、29名で、「20.0%」もありました。今の若者の、「社会的存在感の希薄さ」「非常な切なさ」を感じます。
これは、子どもの自殺についても現れている。朝日新聞の記事(2025年1月30日付)は、2024年における小中高生の自殺者が「最多527人」と伝えています。コロナ禍ではずっと500人を超えていましたが、またこれだけ増えてしまった。一方で大人の自殺は、一時期約3万人ほどでしたが、約2万人に落ち着いている。それで、厚労省はいったん自殺の対策をやめようとしましたが、子どもの状況が深刻化したので、対策を継続するようです。
子どもアドボカシーの「4つの理念」と「6つの原則」
では「子どもの意見表明」には、どういう意味があるのか? 子どもたちが、自分の意志を持って生きることが、今の社会で生きていく実感につながるだろうということです。その土台となるのが、いわゆる「子どものアドボカシー(意見表明支援)」なんですね。私は年金生活者となり、学会費を払うのは無理だから、全部やめました。やめたとたん、ある学会に声をかけられ、理事として参画することになったのが、「子どもアドボカシー学会」です(笑)。
私が編集している「子ども権利条約ネットワーク」のニュースレターをご覧ください。昨年の特集で、中心メンバーである川瀬信一さんの記事ですが、「子どもアドボカシー」の理念と原則についてまとめられているので、要旨を説明します。
まず、4つの理念ですが、①セルフ・アドボカシー(子どもが自ら声を上げられる状態を目指すこと)、②子どもは権利行使の主体(子ども観)、③子ども差別(アダルティズム)への異議申し立て、④ライフスタイル(スキルやテクニックよりも相手を尊重する姿勢が大切であること)です。
6つの原則は、①エンパワメント、②子ども主導、③独立性、④守秘、⑤機会の平等、⑥子どもの参加、となります。①と②が、一番の論争点というか、「希望の光」に。「①エンパワメント」は、虐待や機能不全家族の生活といった逆境的な経験によって、力を奪われてしまっている子どもが、自身のアドボカシーによって、本来の姿に回復する働きを意味します。「②子ども主導」は、子どもの自己決定権が尊重され、その意見が、大人の考える最善の利益に反する場合であっても、100%子どもの立場に立って、話を聞くことを指します。
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