依存症が、「生きる痛み」引き受けた

依存症

ルポvol.61 【依存症】

「ボーダーライン」。少女スザンナの心の病を、英名でそう呼ぶ。物語では、現実と幻想、自己と他者、善と悪、生と死など…の間の一線をさまよい苦しむ姿が描かれている。後藤早苗さんが、映画『17歳のカルテ』の主人公に、将来の自分を重ねたのは10代後半。そのとき、物語が描いたような精神病院の生活を予感し、十数年後に現実となってしまう。入院した後藤さんの症状は「ボーダーライン」ではなく、「アルコール依存症」。しかし、生死のボーダーラインを漂ったのは、スザンナとシンクロしている。映画には、対照的な性格のリサという少女も登場する。インタビューの後、DVDを手に入れて見てみると、2人の少女の友情と葛藤が、後藤さんの七転八倒する心そのものに思えた。

 

アルコール依存症になった経緯から回復まで

幼少の頃から、母親はギャンブルとアルコールの依存症で、父親と喧嘩が絶えなかった。姉は、10代半ばで家を捨てる。苛酷な家庭環境の中で、自己肯定感を削られ続けた後藤さんは、まさに「ヤングケアラー」。成長しても、揺らぐ自己を支える拠り所が持てない。その生きづらさを紛らわせてくれたのが、「お酒」だった。一度は「生きる力」となったが、やがて反転し、体と精神を蝕む「死への力」に。

 

今、後藤さんは、依存症を乗り越えている。女性の自助グループ『埼玉県断酒新生会アメシスト』の代表を務め、悩める人たちをサポート。本インタビューでは、依存症になり、そして回復する過程を詳しくうかがう。病の実際や心の動きが、とても率直に語られた貴重な記録となった。

 

生死の狭間で佇んで聴いた曲

入院前、「どうやって命を絶とうか」と考えていたときに聴いていた歌があるという。ニルヴァーナの『オール・アポロジーズ』だ。印象的な歌詞は、「太陽の光のもとで/日の光の中/僕は結婚し埋葬される」。太陽が象徴する輝く「生命」と一体化したとたん、「死」が訪れる…ということだろうか。曲全体が、命のボーダーラインの狭間で揺れ、慟哭している。作曲して歌うナイスガイの青年カート・コバーンは、薬物依存症のまっただ中、27歳のときに命を絶つ。

 

しかしスザンナも、後藤さんも、生の世界に戻った。徹底して「自分」に向き合ったからだと思う。実は、すべての人が、生涯かけてやるべき大事業ではないか。

 

(後藤早苗さんのインタビューは、2024年4月22日、春日部駅近くの喫茶店にて行った)

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