「教育ケア」で、子の潜在力をひき出す

名教師
担当教師は、クラスの「正しき王様」たれ

念願の教師となり、担任として学級を担当すると、日々、新しい発見がありました。一人ひとりの子どもはもちろん、集団としての子どもたちの対応も、いろいろ工夫しなければいけない。そのノウハウは、現場でつかんでいきました。こうしたことって、大学の教職課程ではまったく教えてくれません。

 

男女のための接し方は、それぞれおさえるべきポイントがあります。男の子は、「社会的な生き物」。小学1年のときは幼いから、みんなに埋もれながら過ごす。小学2年になると、クラスという「社会」の中で、自分がどう伍していくかと模索する。いざこざが起こるのは当たり前なんです。ここで失敗すると、次の学年に進むのが厳しくなり、不登校になりやすい。小学3年は、グループに分かれ「徒党を組む」時代です。教師が気をつけるべきは、小学2年。生き抜く技法として、いじめを武器にする時期だからです。いろんな悪さもしかけてくる。例えば、知的に進んでる子なら、授業中、別の2人に目配せして騒がせ、簡単に学級崩壊を起こすわけです。そして仲間同士の結束を固める。

 

こうした不正に対して、担任教師は、どういう態度をとるべきか。  子ども社会における権威を持った「正しき王様」になるべき…いえ、「民主主義のリーダー」かな。さっきの学級崩壊を起こした男の子たちなら、まずそれぞれの動機を見定める。「寂しくて、友だちがほしいから」という単純な理由であれば、まぁ認めてあげる。しかし、「自分が権力を握りたい」または、「強い者になびきたい」という悪い動機を察知すれば、クラスみんなの前にさらし、責めます。被告として立たせ、「正義の光」に照らすということです。被害者も大勢いるから、たくさんの「告発」も受けるでしょう。そうしてジャッジすれば、担任教師は信頼され、クラスは落ち着きます。「正しいこと」が認められることを、低学年の頃にしっかり体感させることが大事なんです。

 

男女で違う教師の立ち位置

ただし、教師の立ち位置は、男女で微妙に異なります。男の子の場合、教師の立場が「上」であることを、最初に分からせること。私は、学生時代バスケットボールをやってたので、その技をよく使いました。バスケの練習に誘って、ボールを男の子の胸にズドンと投げ当てる。「すげぇ強い!」と驚けば、以来こちらのことを聞いてくれる。男の子には、(オス同士が主導権争いのため、突き合わせる)「鹿の角」のように、教師は自分を大きく強く見せないといけない。別に「実用」じゃないから、はったりでいいんです(笑)。

 

女の子の場合、私が「上」というのを示すは、かなり勝気な子だけ。それ以外の子は、基本的にNG。「暴れちゃダメ」「大きな声を出しちゃダメ」「男の子とは違う」など、始終言われ、抑圧されながら育っているからです。

 

ある女の子に、「先生と一緒に、黒板で『漢字ゲーム』しよう」と声をかけました。「糸へん」の字を、「用意スタート!」で同時に書き出す。その子は、本当に楽しそうにのびのびチョークを動かすんです。「黒板」って、先生の象徴じゃないですか。これを自分の字でいっぱいにすることは、「権威を制覇した」「自由に発信していいんだ」ってことになる。それも当の先生が許しているから、安心してできる。それにまた、「あなたの生活に役立つことを教えましょう」というスタンスも喜ぶ。一緒にお裁縫をやったりすると、熱中してくれますね。

 

教室の外に出て、自然を体感する授業

かつて勤務していた都心の小中学校でも、教師は、学習指導要領の枠通りに授業を進めることを求められました。それでは、子どもたちの心をつかめない。

 

どうすれば面白い授業ができるか、足立区鹿浜中学校によく行って、見学させてもらってたんです。あそこの先生は、すごい!  教える側は、海千山千の経験を積んで、いろんな言語を持たないといけないと学びました。中学3年の数学の授業で、台風の時です。坊主頭で鉢巻した先生が教室に入って来る。教壇に立つなり、「鉛筆を持とう!」と声掛けすると、生徒みんなが鉛筆持った手を一斉に上げる。これで授業が始まるんです。目が覚めるし、気合が入るので、合理的でしょ。それで「台風を観察しよう!」と先生が言うなり、生徒たちが1m幅のベランダに出て並ぶ。しばらくすると、吹き付けてくる風に向かって、「それっ、今がチャンスだ!」と、みんなが「ワ~ッ!」と大声を上げるんです。先生も横で「みんなで吠えれば、風の向きが変わるかもしれない!」なんて言ってる。この自由さが、もう素晴らしい!

 

私も刺激を受け、自然を直に学ぶ授業を行いました。例えば、小学5年の理科で、「外で出て、空の雲を観察しましょう!」と提案すれば、当然みんな喜ぶ。通常、教科書の「雲」を見て学ぶところですから。もちろん異レギュラーなので、「グランドにノートを持って、雲を学習します」と校長に事前に報告しないといけない。鹿浜中の先生は、そんなことしてないですよ、きっと!(笑)。後で子どもたちから、「先生、すごいの見つけた!」と絵入りで、いろいろ報告が来る。「なぜ、こんな形してるの?」「どうして、こんな動き?」など、質問もいっぱい受けます。それで今度は、グランドにiPADを持って出て、気象庁のじゃなく「ウェザーニュース」の動画をアップし、「実際の雲と比べよう」と。「今、地球はこう回っていて、学校の上空の水蒸気はこんなぐわい」と解説したら、どの子も熱心に耳を傾けます。ある学区では、学校内の動画再生は禁止。昭和の授業をいまだにやってる。この時代だからこそ、動画のリテラシー、つまり情報の集め方、読み解き方、ルールなどを教えるべきですよね。

 

漢字学習は、文科省のやり方でなくていい

といっても、私も長く公務員を務めたこともあって、文科省の教え方が染みついているなと。それに気づかせてくれたのが次男なんです。今は社会人としてバリバリ働いていますが、漢字習得で、他の子と足並みが揃わなかった。小学5年のとき、担任の先生が「この子は漢字が、どうしても無理」と匙を投げます。それで私は、国語の教科書を取り上げて、「今日からあなたは、英語人ですよ」とやったんです。当時中学1年の兄が使う英語の教科書を目の前に置き、「お兄ちゃんに負けないように勉強しようか」と誘ったら、本人もその気になった。読み書きは、国の方針に沿うことをあきらめたわけです。大成功でした。高校生になると、親子喧嘩の際、英語で私を言い負かすほどに。大学も、国際関係学科を卒業。

 

実は、小学2年のとき、竹冠を「ケ・ケ」と覚えようとするで、「そうじゃない」と注意してしまったんです。文部省ではご法度の教え方ですから、教師の私としては許せない。次男は、それで一切漢字が頭に入らなくなりました。「英語人」を目指した後ですが、特別支援学校の先生にも相談したんです。すると「英語圏の人が漢字を学ぶやり方があるよ」と、漢字カードを薦められる。部首をバラバラにして組み合わせるものです。最初、私は「こんなこと、やっちゃっていいの?」ととまどいました。「いや、彼は『外国人』」と言い聞かせ、カードを使わせると、「お母さん、僕、漢字覚えられる」だって!

 

小学4年の担任をしていた頃、「うちの子、どうしても漢字がダメ」と言ってきた親御さんがいました。頭がいい子なんだけど、親自身はそう思ってない。私は、うちの次男と同じだとピンときました。教室での朝の15分間の自習時間、その子は「票」という字が、どうしても覚えられない。そこで私は、わざわざみんなの前に彼を呼び出しました。「『西』『二』『小』と書いてみよう」と黒板を指したら、その子もみんなもドッと笑う。「すごい! それでいいの?!」と聞くので「いいの!」と言ったら、なんとすぐに書けた。それがきっかけで、その子は漢字の「 壁」を突破。以後、どんどんマスターしました。「先生、何かあったんですか?」って、親御さんがもう驚かれて。

 

「パノラマ学習」で、不登校を乗り越える

学校を退職後、ソフィア義塾を設立します。対象は、全ての幼・小・中の子どもたち。小児科病棟・在宅療養児・医療ケアを要する通学児童、そして不登校児を含めて受け入れます。「学校教育代替スクール」として、教員時代に培った「教育ケア」を実践することに。

 

この塾では、1人ひとりの状況や個性に合わせた学びを、一緒に考えつつ工夫して進めていきます。事例を挙げると、小学4年から高校3年まで面倒を見た男の子のケース。彼は、小学2年でトラブって学校へ行けなくなり、「死にたい死にたい」と訴えるように。それが「辛い」とお母さんが必死に支援者を探し、Facebookで私を見つけられた。九州在住の方です。相談を受けてすぐに私は、「お子さんの後ろ姿を写真に撮って送ってください」とお願いしました。みんなの中にいる時の子どもの気持ちを読み取るために、よく使う方法なんです。返信されたスマホの写真を見ると、彼の背面の雰囲気も少々暗く孤独感を直観。お母さんに「どう育てたいです?」と尋ねたら、「将来、自分が勉強する気になったときに、必要な学力がついていてほしい」と。私は、それに答えたわけです。計算も漢字もできなかったんですけど、こちらから「やりなさい」とは言いません。

 

お母さんがよく新聞を読んでいることもあり、社会にすごく関心を持っている子でした。それで、「日本中の原発がどこにあるか、全部調べてみて」とお題を与えます。同時に、以前学校の授業で経験した「パノラマ学習」を提案。私が考案した独自の学習法です。A3の方眼紙を用意させて、例えば九州の地図を描いてもらう。原発のあるところに印をつけ、マンガのような吹き出しを出して、気付いたこと書く。「すべての情報を、1枚に収めよ」というのがポイントです。図書館にも足を運んで調べて記入していくと、その子は、海岸沿いにばかり原発が建てられてることに気付く。「地震で津波が多い国なのに、危険だよね。他の安全な発電法はない?」と、また私が投げかける。九州の子だから、「地熱発電がある!」と思いつく。しょっちゅう桜島が噴火してますから。次は、「鹿児島の原発は、一度裁判で運転差し止めとなったの。でも稼働されたよ。調べてみて」と。その子は、新聞記事を探し出して切り抜いて貼り、自分の意見を吹き出しに書き込む。結局、日本にある全55基分を仕上げました。

 

中学の理科と社会は、パノラマ学習法を使って、全部独学でマスター。1日に教科書を何ページ進か決めて、進めていく。教科書を写したり、新聞を調べたりで、漢字も自然に覚える。ご両親も力を入れられて、資料をコピーするため、コピー機を購入され、家族全員参加のホームスクーリングとなりました。パノラマは、1枚1枚つなげて帯状にし、畳んで保存。高校に入るまでには、全部で34mに! とても素晴らしい仕上がりなので、私の方で業者に頼んで写真撮影して、電子化しました。

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