「教育ケア」で、子の潜在力をひき出す

名教師

ルポvol.59 【名教師】

「学校とは何か?」

「学校」って何だろう?   そう問いながら、不登校児やいじめ問題にかかわる人たちに、様々うかがったこの1年。脳裏に浮かんできたことがある。「勉強」はもちろんだが、本当に大事なのは、「人とのかかわり」を学べる場、ということではないかと。

 

この情報社会、ものを学ぶのに、なにも集団でやる必要はない。図書館に行くなり、パソコンを開くなりすれば、最良の教材がすぐ見つかる。学校に行かない子は、いろんなツールを駆使して、(教科以外であれ)何かを学んでいる。ただ、大きなチャンスを逸してしまう。友だちや教師で構成する学校という「社会」とのかかわりだ。特に、人生経験のない子どもに、大きな影響を与えうる大人、「教師」の存在は大きい。

 

では、今、次々出現し、不登校児の受け皿となる「フリースクール」は、いったいどんな場所なのだろう。「関係者に聞いてみたい」と思っていたところ、ある催しで偶然出会ったのが北島恵美子さんだ。東京都新宿で、「ソフィア義塾」を運営されている。オンラインも活用するので、生徒は全国から集まるという。

 

看護師が教育界に飛び込み、「教育ケア」を開発

同塾が対象するのは、すべての幼・小・中の子どもたち。最大の特徴は、看護ケアを活かした「教育ケア」を実践することだ。「1人も取りこぼさない」をモットーに、小児科病棟・在宅量育児・医療的ケアを要する通学児、そして不登校児も受け入れる。「教育ケア」については、本文内でアウトラインのみ説明するが、これは北島さんが開発した教育法。東京都内の小中学校の教師時代、現場で実践されたものだ。

 

経歴の出発点は、なんと看護師である。慶応大学医学部付属厚生女子学院を卒業し、正看護師として、同大学医学部付属病院に勤務。れっきとした医療ケアのプロだ。その後、文教大学教育学部でみっちり学び、教員免許を取得して、教育の世界に飛び込む。現在は、先述の「ソフィア義塾」にて、医療と教育のノウハウを存分に発揮されている。

 

キリスト教の「God(神)」が中軸に

当初は、北島さんに「フリースクール」界の潮流や課題をうかがう予定だったが、話題は大きく広がった。「教育ケア」についてはもちろん、学級の束ね方、斬新な学習法、不登校児の背景、日本の学校教育…など様々。そのインタビューを貫くのは、1人ひとり子どもの潜在力をひき出す「教師像」だ。その中軸に「キリスト教」がある。

 

北島さんは、東京都荒川区の下町で生まれ育ったが、カトリック教会に併設された保育園・幼稚園・小中学校に通う。幼少期から、貧困地域で慈善活動をする聖職者を身近に見て、感化された。この体験が、医療と教育を融合する「教育ケア」の原点となる。さらにその概念と実践の全体を、看護師の偉人「ナイチチンゲール」の思想が煌々と照らす。光源は、God(神)」。一神教を背骨とする考え方は、日本人にはなかなかなじみにくい。しかし、キリスト教の諸活動や教育が、日本社会の深層で、影響を与え続けているのも事実。絶対者という神が、教師を支えるとき、どんな「教育」が立ち現れるのか。そんな視点も意識しながら、うかがったお話を改めてまとめてみた。「国」が軸として回す「学校教育」を、相対化するためにも。

 

※「教育ケア」の詳細は、北島さんの著書『学校教育の限界—子どもの心を理解できない教師たち』(幻冬舎ルネッサンス新書)をご参考に。

 

(北島恵美子さんのインタビューは、2024年3月22日、池袋駅近くの喫茶店にて行った)

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