子どもと大人、学び合うピアノ教室

名教師

ルポvol.58 【名教師】

 

手書きの大粒なオタマジャクシを、一心に目で追う幼い女の子。トツトツと押す鍵盤からは、スタンウェイ・フルコンサートグランドピアノの柔らかな音色の童謡が、小さなコンサートホールに響きわたる。白いドレスを着飾った少女を、すぐ後ろの椅子に座って見守るのは、ピアノ教師の福田敦子さん。お子さんの譜面を記したその人だ。

 

4時間の生演奏を、子どもたちが聴き通す

その後も、老若男女の生徒さんたちが、日頃の練習の成果を、ホールの観客に次々披露していく「ミニ・コンサート」。曲目は、童謡やポップスもあるが、基本的にはクラシック。詰まり詰まり弾く人から、最高峰の難曲を華麗に奏でる人まで、レベルもさまざま。一方で演奏者の順番が良く練られ、このコンサート自体が、起承転結のある1つの「作品」になっている。驚くべきは、数人の小学生や中学生の生徒さんが、身じろぎもせず、全演目をじっと4時間も聞き通していることだ。年齢も経験も関係なく、参加者全員が、ひたすら「音楽」に浸る静かな熱気に圧倒。また、「草野球の初心者級」から「堂々たる大リーガー級」まで幅のある人たちを、1人のピアノ教師が指導してしまうことに凄味を感じる。

 

子どもと大人が競演する「ミニ・コンサート」

福田さんに出会ったのは、東京に居を移してすぐで、都内の大手ピアノ教室の門を叩いたとき。すぐに上記の「ミニ・コンサート」(半年に1回ペース)に誘われ、自分も参加することになった。同コンサートは、2004年にスタートしてちょうど今年で20年目。もともとは、大手ピアノ教室の開催する「発表会」のリハーサルにと、福田チームの生徒さんの一お1人が提案して始まった。会場は、東京・渋谷にある小ホール。

 

実際の形は、ピアノを習う生徒同士のささやかな「発表会」であるのだが、その「枠」は、どう考えても超えている。やはり「コンサート」なのだ。むしろプロのコンサートより、胸にズシンとくる。子どもと大人が、共に音楽の楽しさを分かち学び合う、稀有な空間がそこにあるからだ。

 

「不登校」や「学級崩壊」などが騒がれ、「学び舎」が大きく揺らいでる。そんな時代の中、福田さんは、子どもたちに「音楽」をどう教え、伝えているのか?  ストレートに尋ねてみた。 「教育って、そもそも何なのか?」を考える機会ともなる。

 

ラヴェルが奏でる静寂の世界から

物音ひとつしない漆黒の大空間。水滴がポタリ落ちて、耳を澄ます。真円の波紋が、巨大な水面を、月の光に煌めきながら広がっていく…。ラヴェル作曲の『鏡』より「悲しい鳥」を聴いたときに浮かんだイメージだ。福田さんの選りすぐりの「好きな曲」をじっくり聴くと、インタビューでうかがったことが、すっと腑に落ちた…。

 

(福田敦子さんのインタビューは、2024年3月13日、千代田区のピアノ教室にて行った)

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