校長の仕事は、子どもの話を聞くこと

名教師

<インタビュー・森永徳一さん>

 

校長自ら、全校生徒1人ひとりと面談

子どもたちが入りやすいように、校長室のドアはいつも開け放しにしてました。伊興中学校で校長を務めた3年間、130数名の生徒たち全員と面談し続けたんです。このときの経験は、もうすごい財産ですよ、僕にとっては。

 

待ってる子が校長室の前にずらり並ぶので、当初は教員たちが、「なぜ立たされてるの?!」と驚きました。昼休みや休憩時間など授業の合間、時間を決めて、1対1で向かい合います。給食時間にかかると、一緒に食べながら話しました。ある子なんか、僕のスケジュールボードを見に来るわけ。「校長先生、今日出張がないですね」と確かめるので、「今日は面談日にするから、みんなに言っといて」と頼むとそうしてくれる。子どもたちに、こっちが管理されてましたよ(笑)。

 

「何でもいいから、遠慮なく話しなさい」と促すから、まぁなんでも話す。話題は、学校のこと、家のこと、友だちのこと、将来どんな職業につきたいか、主にこの4つ。将来のことは、「チャレンジしてみなよ」と応援する。「〇〇が苦手だから、得意な〇〇を生かすんだ」って、どの子も自分をよく見ている。かえって親の方が、一面でしか子どもを見ていない。「母ちゃん、父ちゃんは、こう言うけど、それは違う」と、ちゃんと分かってる。親が色メガネで子どもを見ていると、子どもはどうしたって横へそれて行きますよ。

 

いじめの話も出でてきます。「いじめられているんだ」って言う子もいれれば、「いじめてる」と言う子もいる。よく聞けば、いじめる子の方にも言い分がある。例えば「親切で言ったことを相手が聞き入れない。なんか腹が立っていじめた。校長先生、俺が悪いのか?」と。人間関係の微妙な誤解や行き違いから起こるケースは、よく見受けました。僕がそれを聞いて事情を理解すれば、大抵は解決します。

 

記録?… 子どもたちから聞いたことは、記録なんか取らないよ。  全部、ここ(胸を指し)に入れるんだから! 緊急性のあること以外、いっさい口外しない。子どもはいつも本音をぶつけてくる。「聞いてくれた」ってことで、ニコニコして帰っていく。それで安心して心が落ち着くから、勉強も部活も熱中してやるようになる。学年が進むほど、「校長は自分たちのことを分かってくれてる」と、より深く信頼してくれたようです。

 

荒れていた学校を立て直す

伊興中で、生徒全員の面談をするきっかけは、赴任してすぐのこと。学校がひどく荒れていたのは、区から事前に聞いていました。行ってみると、授業中に教員たちが廊下を巡回している。廊下をうろうろしている生徒に「入りなさい!」と注意してましたが、入るわけない。そんな風景、教育現場としてはもう悲劇ですよ。

 

しかたがないので、僕はその子たちを捕まえて、「校長先生と話をしよう」と呼びかけました。「何が嫌なの?」と聞けば、例えば「あの先生が嫌い」と数人が答える。「どこが嫌いなの?」と尋ねると、具体的にあれこれと話す。「そういう風に、直接言ってあげればいいじゃないか」と問えば、「勇気がない」と言う。「じゃぁ、僕が言っておくよ」と引き取って、その先生を呼んで話をしました。「Aくん、Bくん、Cくんが、こういう点が嫌いだそうだ。それを直せば良くなるよ」と。実際、良くなったんです。

 

教師は、教科書捨てて、授業を工夫せよ!

授業中に外を生徒がうろうろするのは、授業がつまんないからですよ。それで、教員たちには、「プロなんだから、子どもが夢中なる授業をすればいい」と励ましました。

 

研修会では、こうアドバイスします。どんな教科にしろ、「ここだけは分かってほしい」というポイントを絞って、思いを込めて伝えること。そして、1コマ45分のうち、10分でも5分でもいい、「楽しい!」と思える時間を必ずつくる。学習指導要領を杓子定規になぞるのでは、子どもたちは退屈してしまう。指導要綱はあくまで「参考書」。「大枠をつかみつつ、自分なりの工夫をしたらいい」と。

 

僕は、授業中でも、いきなり教室に入って見学したもの。うまくいってない場合は、すぐに分かる。後で聞くと、教師本人が自分の授業を「面白くない」と嘆く。それじゃぁしかたない。「教科書なんて捨てちまえ! もっと自由にやっていいよ!」と笑って背中を押します。多少外れたっていい。校長の僕が、全責任を負うわけだし。

 

それで授業の内容が、だんだん良くなってきた。あるとき、子どもが校長室に来て、「授業が面白くなった!」と言うんだ。うろうろしていた子たちも席に着くようになり、熱心にノートをとり出す。先生だって、気合が入りますよ。内容も難しくなって、みんなも頑張ってついてくる。学校全体の学力がぐんぐん上がってくる。

 

ある子が、「校長先生、この問題解ける?」とノートを見せに来ました。降参したら、「授業に出ないと、解けないよ!」だって (笑)。 教師の仕事は、知識を詰め込むことじゃない。子どもの心に火をつけることです。「知りたい!」「学びたい!」という気持ちが芽生えれば、もう勝手に勉強しますよ。

 

子どもとは、すぐに仲良くなれる「森永キャラメル」

多くの教師は、子どもと仲良くなるすべを知らない。僕は、すぐに仲良くなれるよ。子どもが何をしようとしているか、何を望んでいるか、いつも察知するから。普段のあだ名は「森セン」ですが、いつもニコニコしているから「森永キャラメル」とも呼ばれてました。でも、「ダメなものはダメ!」と本気で怒ることもある。それは「命」にかかわることです。体にしろ心にしろ、人を傷つけることは、絶対に許せない。僕が赴任した学校では、そこまで深刻なことは起こりませんでしたが。

 

トラブルはすぐに対応します。あるとき、他校の生徒といさかいがありました。当事者の生徒を呼び、事情をよく聞き確かめる。こちらにも非があるようなので、「僕と謝りに行こう」と。子どもたちは驚きましたが、校長が一緒なら天下を取ったようなもの。出向くと相手の校長先生が、かえって戸惑ってました。悪いことをすれば反省する、嘘をつかない、それを教師が自ら示すこと!

 

「美味しい給食」で、学校が元気に

「食は文化だ!」と、僕はいつも公言して、「美味しい給食」にもこだわってね。給食のおばさんを集めて、こうお願いしてました。「四季折々の食材や、行事に関係のあるものなど、家庭では味わえないメニューを、1週間のうちに何回か入れてください」って。

 

給食室も、よく覗きに行きましたよ。メニュー表を見て、「これとこれは三角だなぁ。あなた方、プロなんだからもう一押し!」とゲキを飛ばすことも。本当に美味しかったときは、「今日は三重丸だよ!」と言いに行きました。人を介してはダメ。直接伝えなきゃ。大きな声じゃ言えないけど、校長には何かと差し入れがある。いただいたお菓子なんか給食室に持って行って、「休み時間に食べてよ~」と手渡すと、みなさん「ワーッ」と集まってきてね。

 

給食はすごくレベルアップして、子どもたちも残さなくなりました。給食が良くなると、やる気が出る、楽しくなる、学校が良くなる!

 

掃除で気持がスッキリ、規律も生まれる

掃除にも力を入れました。「毎日、隅々まで掃除するんだよ」と。さぼっている子がいたら、僕が自らモップを持って、「こういう風にしたら、きれいになるよ」と直接教えます。教室も廊下も、みんなでやる。自分たちの手でキレイにするから、気持ちも清々しくなって、勉強にも集中できる。苦労して掃除したところを汚くしようと思わなくなるから、規律も生まれる。やがて学校全体が見違えたようにピカピカになった。地域の人はえらく喜んでましたよ。

 

今はどこの学校も、廊下は業者が掃除するようですが、どうかなぁ…。そんな経費があれば、何かほかに使いたいよね、子どもたちのために。

 

目標を掲げ、とにかく伝える

校長は、「自分は何をしたいのか」と宣言しないといけない。僕の場合は、「笑顔のある学校を」「学力を上げる」などでした。では、次に「具体的にはどうすればいいか」と提案する。それが「校長室の解放」「給食のレベルを上げる」だったということです。自分の考えを、教員、学校スタッフ、保護者、地域、そして生徒会、子どもたちに伝えて実践していく。大事なのは、どんな立場の人にも、常に同じことを言い続けること。すると段々と浸透していきますよ。みなさんと同じ土俵に立って、「日本一の学校にするため、ぜひ知恵を貸してください!」とお願いしたから、いろんなアイデアをもらえましたよ。

 

僕は、朝7時から、子どもから大人まで、とにかくいろんな人たちと、ずっとしゃべってたな。「指導」なんかしませんよ。僕は「ボス」じゃありませんから。だから、別に疲れない。楽しくてしょうがない。ふらりと来られた保護者の方が喫茶店からコーヒー頼まれて、一緒に飲んだりね。今では考えられないことです!  「校長」とは、「談話会」かな。

 

親との関係が、一番難しいですよ。子どもとの関係はあんまり問題ない。校長は、親子、親のみ、子どものみと、3回話をしなければならない。人間関係のさまざまな背景や感情を、しっかり受け止め、理解することです。それで子どもが笑顔になって、成績が上がれば、親は絶対悦ぶんだから!

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