Q教員による「いじめ防止」のスキルとは?
A1 トラブル初期から、子どもたちに直接話を聞く
教師が、子どもたちのトラブルに遭遇したら、まず当事者から、直接事情を聞くのが原則。具体的にはどうするか。例えば、BくんがAくんを殴っている。当然、まず間に入って制止。それから加害者のBくんに「何でやったの?」と尋ねる。「Aが、廊下で俺の後ろからぶっかってきた」と答えるとする。そこで周囲にいた子たちを呼んで、「AくんがBくんにぶつかったところを見た人はいる?」と質問すれば、真相は「AくんがつまづいてBくんに倒れかかった」ことのよう。子どもは、目撃者の前では、シラを切ることはできません。Bくんは「ついカッとなっちゃった、ごめん」と謝り、Aくんも「僕もぶつかったかもしれない。ごめんね」となる。こうした仲裁により、教師は、公平な立場でジャッジする存在だということを示すことも大事です。
喧嘩であっても、安易に「やめなさい!」で終わりにしない。教師は、ケースごとに知恵を働かせること。取っ組み合いの喧嘩をした2人を呼んで「なせ、そうなったか?」を聞く。言い分を互いに話しても納得せず、お互い強情を張り、そっぽを向いたとする。「そうかい、好きにしなさい」と、一度突き放す。頃合いを見て彼らを呼び、「ところでさ、いつまで強情を張ってるの? あんたらのせいで、クラスの雰囲気が悪くなって、みんなが迷惑してる! どうするんだよ?」とたたみかける。すると喧嘩中の2人は「どうしようか」と頭を突き合わせて相談するわけです(笑)。「仲良くしなさい!」って言わなくても、自然とそうなる。教師が上手に持って行くことはできるんです。子どもたちに「和解」の経験を積ませることで、いじめ防止にもつながっていく。
A2 スクールカーストをつぶす
特に小学低学年の学級運営では、まず教師が、いじめの起きにくい雰囲気をつくり出すこと。入学後の学級指導の早いうちに、「うちの学級では、いじめはしない!」と高々と宣言します。そして、子どもが教師にいじめを訴えてきたときは、必ず受けて解決まで持っていく。確実にやらないと、子どもたちはもう相談しなくなる。一方、他の子にきちんと対応するのを見れば、「あの先生なら安心だ」と信頼し、相談へのハードルがぐっと下がる。
子どもたちの人間関係を注意深く観察すること。入学式や年度当初は、非常に気を遣いますね。幼稚園園でスクールカーストができていたら、それをつぶす。カーストのリーダーは、すぐに分かりますよ。その子に対して、「基本的にみんな平等だ」ということを指導教育していくわけです。また教師は、カーストで下に置かれている子どもに対しては、発言を評価したり、周囲の尊敬や支持が集まる役割を与えたりし、学級内の立場を上げてあげる。絶対やってはいけないのは、その反対。例えば、動きの遅い子に対して、子どもたちが「のろま~」とからかったとき、教師が同じノリで「本当におまえはノロマだな~」と冷やかすとする。「それを言ってもいいんだな」と、子どもたちにお墨付きを与えることになってしまう。
A3 「子ども主体」のいじめ防止体制づくりをサポート
通常、深刻ないじめの場合、被害児童は、教師に相談することをためらいます。「言っても、先生は信じてくれないかも」と恐れ、何より加害者(たいてい複数)からの「仕返しが怖い」と思うからです。仕返しを受けないためには、自分が被害者になったときに守ってくれる大勢の仲間がいること。いじめられたときに、「やめろっ!」と止めに入る子がたくさんいて、むしろ加害者が「お前、何やってんだ!」と責められるぐらいの環境にすべき。小学高学年になれば、そうした環境づくりを、子ども主体で行わせる。これこそ「TKR」が実現したことです。ただ教師の確固としたサポートが必要ですが。
A4 相談スキルを教える
どんなにいじめ防止の対策を万全にしても、やはりいじめは起ります。教師は、いじめに対する相談のスキルを、事前に子どもたちに教えておくこと。私が実際授業でやったことですが、簡単なんです。「5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)」か4W1H(なぜ以外)をメモするというもの。例えば、「〇月〇日〇時、体育館の裏で、同じクラスのAくんと名前を知らない茶色の服のBくんが、僕の顔とお腹を、『日頃なまいきだ』という理由で、3発 ずつ強く殴った」と書く。教師にしても、「どんないじめだよ?」と聞いても、子どもは順序立てて説明できません。それでは適切に動きにくい。しかし記録があれば、後の対応でもモノを言うんです。
Qいじめ対応において、校長の役割とは?
A1 教師同士のいじめ・パワハラを絶対許さない
校長の重要な役割は、教師同士でのいじめ・ハラスメントを起こさせないこと! 裏を返せば、これがとても多い。学校の「いじめ防止の基本方針」には、「教師同士はいじめやハラスメントはしない」という項目も入れるべきなんです。教師は、子どものロールモデルですから。
先輩教師は、後輩の若手を指導する際、罵倒することが多々ある。「ちゃんと、これをやれと言っただろ! なぜ、できないんだ!?」と叱れば、若い先生は「すみません」と謝るしかない。子どもたちは、「うちの担任、隣の主任に怒られてる。あいつ、弱っちいよね」「あんな風に怒鳴っていいんだな」と学んでしまう。「いじめ」を実演で教えるようなもので、もってのほか。
私が校長時代には、先生方によく言ったものです。「うちの学校では、仲間が失敗したときに、責める暇はないからね」と。そして「かつて自分も同じ失敗をしたけど、こんな風に乗り切ったよ」と、経験を分かち協力し合うよう求めました。
校長は学校で一番責任が重い。余裕がなくて、つい教師に対して怒りをぶつけたくもなるでしょう。しかし、それこそ絶対あってはならないこと。先生方が安心して働ける環境づくりは、校長が最優先してやるべき仕事なんです。
A2 保護者のカスハラを許さない
保護者によるカスハラ(カスタマーハラスメント/顧客による迷惑行為)対応も、校長が全面的に受ける。私は、限度を超えた悪質かつ執拗なクレームで、精神を病んでしまう教師をたくさん見てきました。だから、日頃から先生方には、「理不尽な保護者には、1ミリたりとも妥協するな。最後は全部、こちらで処理するから大丈夫だよ」と伝えます。私を「訴えたい」という保護者は何人もいました。その度に、「どうぞ、やってください。うちは『正義』と『真理』が売りモノ。それを謳うからには実践しないと嘘になる。受けて立ちますよ!」と。声の大きい人が「勝ち」みたいなことは、許さない!
A3 いじめ対応マニュアルの管理する
あとのもう1つは、細かいこと。学校の危機管理対応として「いじめ対応マニュアル」をつくるべきと言いました。さらに、それに従って組織が動いているかどうかをチェックするのも校長の仕事です。「これ、やっといて」と実行する教師に丸投げするだけでは不十分。いじめが発生して以降、初期対応から進行具合を、副校長を通じてか、生活指導主任を校長室に呼ぶかして、必ず確認すること。
Qなぜ教師は、子どもに寄り添えないのか?
A1 教師の評価が下がるから
いじめが発生すると、「評価が下がる」と考える教師がいます。評価の流れは、次のようなもの。年度初めに、教師は自己申告書を作成します。学習面・生活面において各々目標と達成度を記入したその文書を、学校に提出。たいがいは副校長が内容をチェック。年度途中、若手であれば、学年主任や生活指導主任などの指導教員から、「この内容でうまくいってるか?」と確認され、第1次評価を受ける。年度末、校長が教員を面接し、自己申告書の達成具合を改めて聞き取り、第2次評価を下す。さらに学校からの報告を受けて、教育委員会が最終的に評価を確定。その結果で、教師の学校内でのランク、要するに給料が決まるわけです。
教師側としては、自己申告書に下手なことは書けない。安易な目標を設定すれば、「あなた、やる気ないですね」となる。生活面では、「いじめがあれば、速やかに取り組みます」と書くしかない。ところが、実際にいじめが起きてしまうと解決が難しい。対応できなければ、評価が下がる。じゃぁ、どうするか? そこで 隠ぺいする人も出てくるわけでしょ。
いじめ対応は力量の差が大きいのですが、大学の教職課程で対応法を教えられていません。現場に入り、周りを見て実践から学ぶしかない。だから、いじめは、学校組織全体で対応する必要がある。対応できない教師を責めるのでなく、経験ある教師のサポートが必要なんです。教員間が、良い意味でかばい合うのはいいが、「隠す」のをかばってはダメ。でも、力のない人間が集まると、隠す方に流れる。特に力のない人が校長の場合は悲劇です。いじめが増えてしまったら、校長にしても教育委員会に対して隠したい動機が働いてしまう。校長の給料も、教育委員会の評価で決まりますから。いじめ対応において教員間の連携が必要であるように、本来なら校長こそ他校の校長と連携をとるべき。でも実際には、校長は孤立し、相談しにくい立場にあるのも事実なんです。
A2 上下関係の影響
教育委員会や学校の組織内の力関係も作用します。私は、「上下関係の影響」と名付けてますが、「上」がいじめに関心がないと、「下」は関心があっても取り組みづらい。
私が校長だった辰沼小では、足立区内でも、「いじめの認知件数」が突出していました。TKRメンバーの子どもたち自身が、いじめをバンバン見つけては、5分後には自分たちで解決する。何の問題もない。しかし、地域によっては、校長が、生の認知件数を教育委員会に報告したら、「いじめ認知数が多すぎるので、減らしてほしい」と注意を受けるケースもあるようです。「いじめ問題を大ごとにしたくない」という「匂い」がしますよね。
こんな姿勢の教育委員会であれば、学校側もその顔色を見てしまう。もし教師が真面目に報告しても、「あんまり、いじめいじめって言うんじゃないよ」と言う校長もいるでしょう。それでも熱意ある教師が「いいえ、対応しなければ」と食い下がれば、その人の「評価」は低くされる。教職員の服務義務に「上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない(ただし、法令・条例に従い…ですが)」の規定がありますから。「上」の無能で対応が変えられないなら、正義感のある真っ当な教師ほど、辞めちゃいますよ。
そういう意味では、「いじめ防止法」も、まだまだザル法ですね。「いじめを隠蔽した者は処分する」という罰則規定ぐらいは入れるべき。
A3 多忙すぎて、余裕も気力もない
最後の理由が教師の多忙です。私が現役教師の頃は小中学校共にそうですが、特に中学校では部活動が大きな負担に。朝練が始まると、教師は朝4~5時に起きる。家を出るのは5~6時ですから、冬ではまだ空に星が出でますよ。しかも部活は、同日の放課後もあり、夜7時までやる。その後で、明日の授業の準備をしなくちゃいけない。遅い人は、学校を夜9~10時に出る。家が遠ければ移動に1~2時間。帰宅が12時とすれば、早く寝て深夜1時、4時起床となる。土日は公式戦、対外試合ですから、休日もありません。そんな生活が年中続く。もし女性教師が出産されたら、「パートナーになんとかしてもらって」とお願いするしかない。夫も教師だったら地獄です。それでも「子育て大変だね。早く帰ってね」とはならない。みなさんもそうして無理してきたから、「あなたも苦労して」と。
そもそも部活は、教師の「仕事」ではなくて「ボランティア」なんです。かつては1年中やっても1円も支給されなかった。今は、文部科学省の方針では、部活動手当が4時間以上で一律3,600円、自給で900円ほど。当然、本業は授業です。1日4~5コマある。中学校なら、美術・音楽・技術の専任教師のいる授業のときだけ、空き時間となる。ただし小学校なら、それもない。運動会、音楽会、学芸会などの行事は学校につきもの。教師はその準備を放課後にやるわけですよ。日々、時間に追われています。「夏休みがあっていいですね」とよく言われますが、今はそれも民間と同じ扱いになりました。業務外ですが、学校によっては、当番ごとに地域行事にも参加しなくてはいけない。加えて、中学教師なら各専門学科の研究会に行くし、役職についたら生活指導の主任会など、どうしても出張が入る。さらに、教育委員会や国からの調査も結構きつい。今ではボタン1つで一斉送信できるので、かえって依頼される量が増えています。以前は、いちいち袋詰めにして送る手間がかかる分、限りがありました。
このあまりに多い業務量では、教師は、1人1人の子どもに向き合うことができません。ましてや、いじめ対応のような複雑で困難な問題に対処するには、時間的にも精神的にも余裕がない。国や自治体は、なぜ教師の業務を減らそうとしないのか。われわれの仕事の内容や実態がよく分かっていないのでしょう。いくら教師がそれを訴えても、聞く耳を持ってくれませんから。当然、今回立ち上げた「学校総合危機管理研究会」でも、教師の業務改善も提言する予定です。ただ改善するまで、いじめ問題を放置していいわけはありません。業務改善といじめ防止の課題を分離して、取り組むべきだと考えています。もちろん、繰り返しますか、業務改善が必要なのは確かなことです。
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