山谷で写真アート、の意味

貧困

ここでは、「フォト・コンテスト2023」(2023年12月19日に発表会)の受賞作をご紹介します。

 

Hidekiさんの作品で、「ほのぼの賞」という賞名。育児中の看護師さんが、2人の子どもを連れて、山友会のクリニックに遊びに来たところを撮影したものです。コメント(講評)は「看護師さんの表情がとても優しく、地元で信頼されている様子がわかります」。審査員は、朝日新聞社の元記者で、全日写連関東本部委員の朝日教之さん。やるからには、審査員も超一流です!

 

 

「がきんちょファミリー賞」は、Kojiさんの作品。審査員・大山光子さん(“がきんちょ”ファミリーあだち子ども支援ネットの管理人)のコメントが素敵です。「なんの木でしょう。複雑な複雑な混沌としている姿に惹かれます。あるがままの美しさと解けない魅力に惹かれました」。こうした言葉って、本当に励みになる。月一度のミーティングでも、「誰が」「なぜいいか」をみんなで書き出して、それを撮影者本人にも伝えています。おじさんたちは、たいてい「ほほう」と言うだけで表情には出さないけれど、きっと嬉しいはず。

 

 

「優しい眼差し賞」で、この作品を選んだ審査員の北澤桃子さんは、アートと福祉にかかわる人。福祉施設「嬉々!!CREATIVE」も運営されています。「作品から伝わる猫への愛情、お部屋の中にも猫がいるなんてお茶目」と、コメントがあったかいんですよね。撮影者のMisaoさんは、「人は裏切るが、猫は裏切らない」が口ぐせで、猫しか撮らない。この作品では、いつもの「猫」を、あるコンビニでいつも買うティッシュで表現。上に乗る、その日食べようとしているパンもいい。作者の生活全部が凝縮している写真なんです。

 

 

Jiroさんが近所を撮ったこの写真、「斜めの黒い斜線が斬新!」と、審査員の「自立支援ふるさとの会」が「清川二丁目賞」を贈られました。「どうやって、こんな切り取りを?」と聞かれたんですが、実は、カメラを落としてシャッターが閉まらなくなったまま撮っただけ(笑)。…と説明したら、「それはそれでいい」と。偶然が、アートに!

 

 

「コスモス賞」を受賞したHiroyoshiさんの作品。一見何気ない写真ですが、この作品にも意味がある。選んだのは、山谷で活動する「訪問看護ステーション・コスモス」のみなさん。同ステーション新社屋の屋上から花火を見上げているところです。見えにくいですが、3人のスタッフの間に車いすで座っている方は、昨年(2023年)10月に亡くなっています。だから、この写真が記念になる。「新しい出会い、いくつものお別れ…たくさんの「あの日」があり、大切な誰かを想い出すきっかけとなるこの1枚」とのコメントに深い思いが。

 

撮影者Kurakiさんのこの作品は「熱賞」。先ほどの写真と同じ花火大会を道路上で撮影してます。審査員は、「平成のKOキング」の異名を持つ元日本/東洋太平洋チャンピオン、坂本博之さん。会長を務められるSRSボクシング事務所に押しかけて、審査員をお願いしたんです。「この景色を作ったのは人だ! 俺たちも人なんだ! 輪なんだ!」。そのコメント自体が、坂本さんの人生観そのもの。熱い!

 

 

「友愛会賞」は、午前中に講演された田中さんが所属するNPO法人「友愛会」から。「ドヤがなくなり、山谷の風景が変わっていくのは寂しいです」との言葉は、本当にそう。僕も週何回も通っていますが、壊されていく風景がもう当たり前になってしまう。でもこうした写真を見ると、失ったものの重さを改めて実感。そして、ここに日々暮らすTokioさんが撮影したから意味がある。写真にすることで、こうして誰かが評価してくれ、「記憶」として残っていくことも…。

(※田中さんの補足説明/「この写真は、取り壊されたドヤの一軒。長く続く不況やコロナ禍で、宿泊客が減少し、廃業するドヤが増えた状況が背景にある」)

 

 

手前に大きくぼやけて、何か写っているでしょ。撮影者Teruoさんの指です。

この写真、「審査員賞」です。選んだのは、女子美術大学教授の日沼禎子さん。もう講評が素晴らしい。 「写真を撮ることは、見ることを問うこと(中略)…偶然の果実であり、唯一無二の魅力を放つということを、この写真は物語っている」! 美術大学の先生が言っているんですから、みなさん本当です、 「唯一無二」なんです!

 

 

Masaharuさんが撮影した「ポルテホール連絡協議会賞」の作品。審査員が、同会の橋本久美子さんです。「あがったコロッケ、あがった気持ち、あったかいコロッケ、あったかい気持ち、人から人へ」という言葉に、支援者としてのコミュニケーション力を感じますね。僕なんか、毎週このコロッケを見てるんで、「この日は量が少ないな…」なんて思ってしまう。見慣れたことが作品化され、それを改めて見ることが本当に新鮮です。

 

 

「スーパーグレート賞」は、いつも独特の感性でリアルな写真を撮るDaimonさんが受賞。審査員のアーティスト・弓指寛治さんがコメントされているように、この1枚に撮影者の「生活が詰まっている」! 訪問看護師さんに、くじいて痛がっていた右足を手当してもらった直後に撮ったそうです。

 

ご覧になったとおり、メンバー10人、1人ひとり撮りたいものや撮り方が全然違う。部屋に引きこもっていたり、病気だったり、人間関係がうまくなかったり、みなさん生きづらさを各々抱えられていますが、写真にはその人らしさが自ずと映し出されている。

 

※上田注|審査員には他に、岩永直子さん(「オンラインメディア「Addiction Report」編集長)、緒方英俊さん(NHKジャーナル 解説デスク)、釜池雄高さん(「通販生活」読み物編集長)、野中章弘さん(アジアプレス・インターナショナル代表)、宮本直孝さん(フォトグラファー)が参加されている。メディアで活躍される錚々たるメンバーがずらり!

 

「生きづらさ」乗り越えるアートの力

このアートプロジェクトを行う意味って何か…。「写真で何かすごいことができる」と思って、始めたというより、やり続けてた結果「こうなった」ということが多い。実際、この写真を撮ったから、「何かが変わる」「人生多分変わる」ということは、まぁ、ないんですよね。ただ、日々写真を撮った結果、年1回、清川区民館でフォトコンテストを開催できる。そのことで、普段「山谷」に触れる機会のない様々な人たちが山谷に来てくれる。それがいいんです。そして、好きなことを楽しんでやること。ある程度、目標を持ってやること。加えて、社会的意義につながる…社会の一員になるという意識を持てるようになること。生きづらい人って、楽しむことができない、希望が持てない、社会の一員になることを諦めている。でも、アートでならつながれるし、表現することで気持ちも前向きになっていくはずなんです。

 

そもそも山友会では、「孤立するおじさんたちの居場所づくりができないか」と話し合って、このプロジェクトのアイデアが出ました。山友会という母体があって発展できることは、このプロジェクトの大きな強みになってます。今、スタッフを募集中。興味のある方は、いつでもご連絡ください。

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