【ベルリン州北クロイツベルク地区
親子グループ保育施設「プレイルーム」と
不登校児童支援事業「ベターニエン」】
不法滞在の子どもたちも受け入れ
次に訪れたのは、ベルリン州北クロイツベルク地区にある緑豊かな公園の一角。親子グループ保育施設「プレイルーム」は、就学前の子どもたちの賑やかな声でいっぱいでした。「今まで不法滞在の子どもたちでも要望があれば、全てを受け入れてきた」と語るのは、施設長・ミッキーさん。(室内のスライド写真を見せて)この施設でも、いろんな国籍の親子がおられます。お子さんの年齢もさまざま。コットンのベビー服に埋もれてしまうような小さい赤ちゃん、未就学の幼い子、そこにプラスして不登校の小学生に対する支援も始められています。施設では、各々の子どもの興味関心ごとに添った、自発意識を引き出すプログラムを行っています。
加え、不登校児童には、地域の小学校と連携した不登校児童支援プロジェクトである「ベターニエン」を立ち上げるなど、本当に手広くやっておられる。障害のあるお子さんや多国籍のお子さんにおいては、特に対応が大変に。それでもすべてのケースにおいて「家庭支援が基本」とし、親との関係を大切されているとのこと。そこで、私たち日本団としては、異年齢の子どもたちを中心に、親子共に楽しんでもらえるプログラムを考え、実施しました。少しだけその模様を見ていただきますね。
日本文化を楽しんでもらう
4人で披露している端切れを連ねた「龍」は、「日本」を紹介したいと考え、保育施設の子どもたちと親御さんと一緒につくりました。まず「ひも飾りをつくりましょう!」と呼びかけ、日本から持参した大量の着物の端切れを、7メートルのロープにみんなで結び付けました。シルクで色も模様もとりどりで綺麗なものですから、女の子なんかは夢中になりまして。こう、ほっぺにじーっと押し付けて、肌触りをずっと楽しんでいる子もいて、それで十分、あぁ良かったなと思いました。小さい子や、障害で手が器用でない子もいましたが、ひっかけて回すだけも新鮮な体験だったようです。ドイツ語が堪能でない日本団も身振り手振りでサポートしました。布の触りを感じながら、お互いが教え合ってつくったところで、「日本では、龍は、水や雨の神様で、川の神様でもあります」と伝えました。ぞろりと長いロープを全員で握りあいながら、「公園のそばにシュプレー川がありますね。みんなで、川のドラゴンになりましょう」と伝えると、「わぁっ!」と、子どもだけでなく大人からも歓声が上がりました。わらべ歌の「でんでらりゅうば」をみんなで歌いながら、ゆっくりとロープを上下させてドラゴンごっこに興じました。沖縄県職員のメンバーが太鼓や法被を用意してきてくれて、耳も目も楽しめたと思います。子どもたちをはじめ、みなさんに喜んでもらえたのでほっとしました。
その後、日独交流50周年記念会議では、首脳クラスの偉い人も列席の中、みんな大変緊張しながら役を果たしました。こちらは日本団8人で各1枚ずつ作成したスライドです。まずは日本での現状と政策を紹介。そして、今回ドイツで学んだ「子どもの貧困」への取り組みは、「早期アウトリーチ支援」「スーパービジョン」「インクルーシブ」「自立に向けた支援」「地域ネットワーク」「就労支援」「学び直し」の充実であり、課題解決へ向け「誰一人取り残さない」ビジョンを共にして歩みたい、と発表しました。
ドイツ滞在で学んだこと
私のスライドはこちら。2週間のドイツ滞在で改めて感じたのは、「地域ネットワーク」の重要性です。それを青少年・福祉局で見ることができました。もちろん役所ですからドイツも縦割りの組織です。にもかかわらず、積極的に地域社会へ入り、横へ横へと拡張し引っ張って行くようなつながりを、懸命につくろうと努力されていた。
もう1つは、補完性の原則。現場の課題に対して、民間の実施団体が対応する。どうしても民間では無理なところを自治体、行政がやる。州がどうしても無理なところを国がやる。政府が必要な金額をはじき出すために、課題解決できる資格者とその数の算定をきちんと行い、予算を速やかに必要なところへ下ろす。このシステムの上に、教育の無償も成り立っているのが、ドイツらしいなと思いました。
社会教育、福祉の実現のため、地域社会全体を視野に入れた「連携」がしっかりしている。今回は特に、学校と民間団体での不登校支援などで、柔軟な連携の姿が印象的でした。
学んだことを「発信」し、「つながる」
しかし、「専門職や支援者の人人材不足」というのが、日独50周年記念会議の2日に渡るディスカッションで一致した意見です。では何をするかと言えば、やはりどんどん外に発信して、課題意識、関心やつながりのあり方、解決への方向性などを地域社会と共有しなければと。そのことで「気づきの連鎖」が広がっていくでしょう。2022年、電子ブックをつくるアートプロジェクトを手掛けさせていただきました。聴覚障害のある方、台東区のボランティア団体のみなさん、大学生、社会人履修生とがみんな同じ立ち位置で仲間となって、手話とナレーションの動画コンテンツをつくり、電子ブック内からポン!とリンク先に飛べるというもの。今後も何か、つながりを見える形にする面白いプロジェクトがやりたいですね。
(文責/ライター・上田隆)
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