「平成のKOキング」のメッセージ
僕は、Y-ARAN(横浜依存症回復擁護ネットワーク)のボランティアスタッフとしても、依存症者の回復をサポートしています。同ネットワークでは、昨年の11月、横浜港・象の鼻パークで、依存症当事者と支援者が集う啓発イベント「リカバリー・パレード」を開催。一昨年に続いて、「平成のKOキング」「現代のタイガーマスク」と称された元・プロボクシング東洋太平洋チャンピオンの坂本博之さんをゲストに招きました。そして本日も坂本さんがこの会場に来てくださっています。
坂本さんは、児童養護施設の出身で、虐待・ネグレクトからのサバイバーでもあります。現役時代から「こころの青空基金」を設立し、引退後も虐待防止運動などに尽力。全国の児童養護施設のほか、学校や少年院などでもボクシングを通じた社会貢献活動を続けられていて、山谷にも足を運び生活困窮者支援の活動にもご協力いただいています。僕たちの時代のボクシングファンにとっては、「仮面ライダー」「ウルトラマン」クラスのヒーローです。
坂本さんの講演でお話を聴いて、すごく感動した言葉がありましたので紹介します。
「わが道を行く生き方、それは俺も好きだけど、
わが道っていうのは一本道だから、
いつか行き止まりがある。
でも、人は人とつながって、
輪になって、 リングになって生きていくんだ。
人の輪・リングには行き止まりがない。」
このコネクトリンクも、まさに「リンク」をつなげていくことで、輪・リングを拡げている…。
山谷のおじさんの「豊かさ」
「友愛会」が、かかわっているおじさんたちには、「関係性の貧困」は少ないと思います。抱える問題が複雑多様である場合、様々な関係機関と連携しネットワークで本人を支えていくことになります。できるだけ多くの依存先と長くつながることで、ある程度「関係性の貧困」は解消できます。それにおじさんたちは「自分の生き方を選べている」とも言えますから。つながらないことを選ぶというのも生き方ですよね。「選べる」って、一つの豊かさだと思います。
「友愛会」の広報や発信は、基本的にWebサイトとパンフレットぐらい。取材などは基本的に断っています。「貧困ビジネス」と混同されたり、逆に「美談」扱いされたり、ちゃんと伝わらない場合があるからです。「美談」も偏見です。
今回のフォーラムでは、「友愛会」を代表して事業内容を紹介するというより、自分が山谷でやっている仕事や、そのほかの活動を知っていただきたくてお話ししました。
僕は利用者さんを支援しているというより、一緒に生活しているだけなんです。場合によっては駆け引きもするし、口論になることもあります。僕はSNSは一切やらないので、一度に何百人ものフォロアーに伝えることはできません。でも、山谷にたどり着いた人、依存症の当事者や支援者である仲間、ボランティアでお手伝いしている子ども食堂に来る子ども。目の前にいるたった1人に何かを伝えることはできる。何ができるかといったら、「出会うこと」。それだけです。
変えていく勇気を
では最後に、「平安の祈り」を紹介させてください。 依存症者が回復のために参加する自助グループ・相互援助グループで行われる「ミーティング」の終わりに唱える祈りの言葉です。
神さま、私にお与えください。
自分に変えられないものを、 受け入れる落ち着きを。
変えられるものは、変えていく勇気を。
そして、二つのものを見分ける賢さを。
僕は、山谷がある台東区のとなり町・荒川で生まれました。高校時代からテキヤのアルバイトや「友愛会」の仕事で山谷とは長い付き合いです。山谷のことは理解しているつもりでしたが、ここで過ごすうちに「そうじゃないかも」と思うようになりました。最近、気がついたのですが、山谷って「ここではないどこか」からたどり着いた人たちの町なんですよ。いつかどこかに帰るべき場所を持たない人たち。
僕はある意味、山谷のことを一番分かっていないかもしれない。でも、僕もつぶしがきかないし、ほかに行くところもない。何かの専門家でもないし、当事者としても中途半端で、どこにも属せない。そういった意味では、山谷のおじさんたちと変わらない。「共感できるか」といったら、雪の中で路上生活している人の気持ちは分からないけど、「共鳴」 できる部分がある。僕も、あの路上で暮らしている人たちの中の一人であると思っています。
(文責/ライター・上田隆)
<参考文献・参考Webサイト>
- 田中健児さんのインタビュー記事
「ルポ! 足立の子ども支援」vol.39田中健児/依存症は「病」。回復できるhttps://adachikodomo.ioh.tokyo/archives/473
- NPO法人 友愛会「山谷地区について」
- 城北労働・福祉センター 「山谷地域について」
- 中島らも
「今夜、すべてのバーで」
- 松本俊彦
「薬物依存の理解と援助 故意に自分の健康を害する症候群」
- 松本俊彦、今村扶美、近藤あゆみ 監修
「SMARPP-24 物質使用障害治療プログラム[改訂版] 集団療法ワークブック」
- 坂本博之
日刊ゲンダイDIGITAL

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