精神障がい者が、「家庭」をつくるために

ヤングケアラー
「人を愛すること」を、応援するプログラム

恋愛や結婚、育児というのを、きちん学んだり、話したり、学ぶ場が必要です。蔭影山正子先生(大阪大学大学院准教授)が、「あいりき」という愛する力を磨くプログラムをつくりました。障害のある方たちが、もっと自由に、当たり前に、恋愛や結婚、人を愛すること、パートナーを持つことを、応援するものです。「子どもぴあ」の人たちが、オリジナルテキストを使って、小グループで話し合い、今、横浜、東京、福岡、そして関西エリアで始めています。対象は、未婚の方だけでなく、既婚の方、また若い方でなく、50代60代でもいい。セクシュアリティも問いません。さらに、支援者や家族も参加できる形に。

 

プログラムは、60分の4コマ。例えば、「恋愛ってなんだろう」「愛と恋とは違うのか」「夫婦の間の関係性」などをテーマに、ロールプレイしながら話していく。私もそうでしたが、参加者は回を重ねると「ファシリテーター」の資格を取得し、進行も務めることも可能。このプログラムは、当事者に自信をもたらし、希望につながるという結果が出ています。

 

障がい者の子育て支援は、これから

一般の人に対して行われた2013年の国民性調査(統計数理研究所)によると、「一番大切なものは何ですか?」と質問したその答えは、断トツで「家族」なんですね。そして、次に「愛情」「精神」が続く。ただ、結婚を考えると当事者は、「経済的な不安」や「両親の理解を得られるかどうか」「病気を相手に伝えられるか」「一緒に暮らすことで生活の変化」、そして「育児」などへの悩みを抱えることになります。

 

精神疾患を持ちながら子どもを出産し、育てる人の実数を出すような研究は、まだなされていません。ただ、ある研究によれば、通院している統合失調症の方の3割から4割が出産されているとのこと。決して少なくはない。これからは、精神障害やメンタルヘルスの問題を抱える人の育児支援に、もっともっと、本腰を入れる時代じゃないかなと思います。

 

障害のある方が子どもを育てるということは、誰も阻害することはできません。当たり前の希望ですし、親と子が苦労しながらでも、徐々にお互いが成長していけます。当事者にとって、子どもを守って成長を促すというのが「親の責任」だと理解できることなのです。そのために必要なのは、病気を受け入れてコントロールすること、親子が必要なサポートを受けて孤立しないことです。

 

出産後の育児も、課題や悩みが

妊娠中、授乳中の服薬の問題が大きくなります。琉凪さんも話されていましたが、お薬をやめていたがゆえに、その後の反動がひどいということもある。しかし、安全な薬も出ていますので、医療関係者と相談しつつ、同時に精神科も受診しながら判断することができます。

 

出産後の育児も、多くの課題や悩みがあります。「ママ友やパパ友をつくることが難しい」「病気のことをオープンにして大丈夫かと周囲の受け入れを不安に思う」「子どもの成長が不安」など。そういったことに躓かないような支援が必要です。

 

私たち支援者は、精神疾患の親が子育てするというと、「虐待」のハイリスクを見つけがちです。そうではなく、「親の味方になる」「親子一緒の生活をどうやって実現できるか」という視点こそが大切なのです。

 

日本の精神障がい者8割が、未婚で家族と同居

日本において、精神障害者を持つ家族を支える地域サービスは、まだまだ不十分といえます。特徴的なのは、諸外国に比べ、結婚せずに家族との同居することが非常に多い。2018年に全国精神保健福祉会連合会に調査したところ、以下の実態が浮き彫りに。

 

当事者と家族の8割が同居。また、当事者の年齢も大変高く、発病後20年間を超えて、ずっと親が当事者の面倒を見ている。そして、スティグマ、偏見が強い病気ですから、家族は地域の中で孤立して、自身の生活や人生を犠牲にしながら、日常的なケアを行っている。

 

こうした状況では、家族を疲弊させるとともに、本人の回復も遅らせてしまいます。例えば、家庭内での暴力の問題がある。その暴力というのは、当事者の「SOS」だと思うのです。しかし親御さんが、それで将来を悲観し、子どもを殺めてしまった事件も実際に起きています。

 

「家族丸ごと」支援が必要

私は、ずっと家族支援を自分のテーマにしてきました。家族会から支援を始めたのですが、当初は親御さんを中心に考えていました。しかし、次第に、支援が必要な家族には、「配偶者」「きょうだい」がいるということに気づく。そして、最後にたどり着いたのが、「子ども」です。親以外の家族の状況や、抱える困難は、知られていない状況なのです。お一人お一人に合わせた「家族丸ごと支援」こそが求められます。

 

さらに、「当事者が家庭を持つ」ということが現実にある。親御さんは、よく親なき後を心配されます。「自分が亡くなったら、この子はどうなるんだろう」「1人ぼっちで、放り出され、孤立してまう」。そうじゃなくて、当事者が家庭、家族を持つということを、真剣に考えるべきなんじゃないか。

 

親の情緒的ケアを、6割の子が担う

海外の調査ですと、精神疾患のある親と暮らす子どもというのは15%~23%で、少なくとも7人に1人ぐらいになります。その子どもたちの特徴は、親の病気のため、養育が不十分になりがちで、親の精神状況や問題行動によるストレスにさらされ、人間関係も阻害されやすい。また、病気による親の離婚や失職で、経済的貧困も生じてくる。

 

最近注目されているヤングケアラーですが、そのお子さんが、家事、親の情緒的サポートやなど、生活上の過重負担を受けている。誰にも話せない、助けてもらえないために、親とともに孤立している。そして、子ども自身も、精神疾患のハイリスクな状態に。

 

今、国が、『ヤングケアラー支援マニュアル』に、「子どもの権利」について書いています。子どもが遊ぶこと、教育を受けることなど、子どもの権利が侵害されていないかということで、ヤングケアラーをとらえているということですね。

 

ヤングケアラーの全国調査では、親が精神疾患・依存症の割合をホームページで公表しています。中学2年生17%、高校2年生(全日制)14%、高校2年生(定時制)9%ですが、通信制の高校2年生は63%と出ています。やはり学校に行くこと自体難しい状況になってしまうのかなと。

 

調査では、ケアを行っている要介護・障害者などの家族は、母親6割、父親4割の割合となります。精神疾患の親を持つ子どもの全てが「ヤングケアラー」ということはありません。しかし、彼らの親に対する情緒的ケアは6割と高い。大人がするのも大変なケアを、お子さんが必死に行うわけです。親御さんの具合が悪くなると、子どもは無力感にとらわれる。また、家で大人同志の喧嘩が絶えない、掃除が行き届かなかったなどの環境では、子どもたちの半分は、心身の不調をきたしたという結果が出ています。

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