施設の子と、泣き笑う“おせっかい”

児童施設

<インタビュー・染谷江里さん>

コロナ禍で減った施設の課外活動として引き受ける

この活動のきっかけとなったのは、2020年8月のことです。隣の店(カフェバーエン)をたまたま訪問していた足立区の職員さんが、小物をつくるワークショップをしていた私の店を見つけてくださって。コロナ禍で課外活動が減っている児童養護施設「クリスマス・ヴィレッジ」のお子さんたち向けに、こういう催しが施設内でできないかと打診されたんです。子育て中のボランティア経験から、「何か社会の役に立ちたいな」という気持ちがあったので、迷わず引き受けました。早速その2カ月後、10月に第1回のワークショップを開催したんです。

 

小物づくりのワークショップは、子どもたちにとても好評でした。その後の職員さんとの話し合いで、継続していこうということに。「ボランティアさんはたくさんおられますが、続けられる方が少ない」と悩まれていたんです。やはり体力がいるじゃないですか。それで私の方は、本業の合間、月一のペースで無理のない範囲で活動することに。

 

施設では内にこもってしまう子が多いそうですが、定期的に訪問する大人が近所いれば、「あの人に会いに行きたいな」と、外の社会に触れるきっかけになるかもしれませんし。またワークショップでは、「何か教える」というよりは、コミュニケーションにおもむきを置こうとなりました。

 

施設と地域の「つなぎ役」として役立ちたい

実際にかかわってみると、外部の方が、いざ施設と交流を持ちたいと思っても、どこに相談したらいいのか分からないことに気づきます。私自身、近所にそんな施設があるということすら知りませんでした。一方で、子どもたちのプライバシーのこともあり、施設内の情報は地域で閉ざされている。子どもたちも外に踏み出せない。守られているけど、なんていうのかなぁ…本当の意味で守られていないかも。施設にいるから特別扱いというのも変だなと。

 

だから、私自身は、外からいろんな人たちにかかわってもらえるような「つなぎ役」という立場で活動しようと決めたんです。

 

子どもたちの社会活動の第一歩となった「沿線グラス」

大きな催しとしては、2021年7月、印刷会社「安心堂」さんの企画がありました。社長が、職業体験を兼ねたワークシヨップをやってくださり、せっかくだから、商品をつくるところから売るところまで全部体験させてあげたいと。

 

「TASKプロジェクト」という、ものづくりが盛んな4区が連携した事業に参加することになりました。「TASK」はと、台東区・足立区・墨田区・葛飾区の頭文字をとったもの。JR上野駅で開催されるイベントで、安心堂さんの商品である「沿線グラス」を、施設の子どもたちの手でつくって販売することに。「沿線グラス」とは、都内の沿線の駅名を表面に書きつらねたグラスです。どの沿線にするか、4人の子どもたちが2グループに分かれ、それぞれ社長にプレゼン。最初は1案のみ選ぶつもりでしたが、プレゼン内容が良かったので、両案採用となりました。一つは常磐線で、品川から上野を挟んで松戸まで。もう一つは、南千住から上野を挟んで茅場町まで。子どもたちは、月2回週末に集まり、つくってもらったインク付きのパットをグラスに、手作業で押していきました。「線路がまがっちゃった」「駅名がかすれた」と失敗してはふき取って、やり直す。出来上がったものから窯で焼き上げていきました。

 

当日、JR上野駅の中央改札辺りで販売し、完売しまして。売り場に訪れた方のほとんどは支援者でしたが、直接手渡しで売ったことは、子どもたちに自信を与えたようです。売上げの一部は、子どもたちに還元したんですよ、給料袋に入れて。後で、「商品の裏側にある思いが分かった」「実際の仕事を体験できて良かった」という感想を彼らから聞いた時、もう泣けてきて…。

 

こうしたワークショップをやるにつれて、地域の人たちとのつながりが深まりました。その結果、個人の方だけでなく、「社会として支援したい」という法人さんとのかかわりも増えました。

 

地域で働く人たちと出会い学ぶ機会をつくる

今年2月から1カ月間は、介護用品のレンタル会社「生き活きサポート」さんに職業体験をさせてもらいました。福祉に興味がある子3人が参加。レンタル器具を洗浄する関連会社にも連れて行ってもらって、「すごく勉強になった」と。

 

児童養護施設の身近な存在は職員さんですが、基本的には「保育士」。施設の子どもたちは、それ以外の仕事を想像したりする機会ってなかなかない。自分からアルバイトして未知の仕事に飛び込んでいける子であればいいんですが、そういう子ばかりではありません。今後も職業体験において、私で役に立てることがあれば、いろいろやっていきたいかな。

 

アートイベントで、自分をどんどん出す

4月はアートの発表会を行いました。通常は子どもたちだけの発表会になります。しかし、その会は、アートの先生たちが日程を調整され、ボランティアさんが来る月一の「ふれあいデー」に合わせて披露したんです。発表会のオープニングでは、急きょ「ボクが最初に挨拶したい」と男の子が前に出て、「今日は来てくれて、ありがとうございます!」なんて頭を下げる。

 

発表会の後、私が無理くり「アンコール!」を要望したら、「みんなで『しりとりダンス』をやろう!」ということになりまして。子どもたちが考えた遊びですが、前の踊り手が止めた最後のポーズを、次の踊り手が真似て踊り、次々つないでいくもの。すごくいい雰囲気で終わったんです。職員やボランティアの方も、「施設の子たちが、こんなに生き生きとした姿を見せるなんて」と驚いていました。

 

7月3日には、アートのスズキミ先生(vol.27)が、「オンライン盆踊り」を開催される。先生には、絵の具を自由に使って描く「ビシャバシャアート」を何度も開催してもらい、ずいぶんお世話になっています。絵筆を握る子どもたちに向かって、「いいですね! 自分を出して!」と、いつも励ましてくださることに、とても感謝しています。

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