「食・場・情報」で、貧困なくす

フードパントリー
新鮮な野菜届け続け、信頼関係を構築していく

現在、「あだち・わくわく便」の登録者は、200世帯以上。月2回に分けて、エリアごとに配達します。今日は65世帯。1ケースは、毎回、10~20キロで、一家族で一週間はもつ分量です。こうした無料の宅配事業では、保存食がどうしても多くなりますが、僕たちは新鮮な野菜にこだわっています。思わず受け取りたくなるものを出さないと、利用してくれませんから。品質には自信があります。野菜は、オイシックス・ラ・大地さん、フルーツは地域の青果屋さん、お米は新潟の農家さんなどからいただいています。最初の頃は、ぜんぜん集まらなくて大変でした。個人的なつながりだったり、営業をした際に「協力しましょう!」と言ってくださる店主もおられたりと、いろんな方々のご尽力を得て食品が豊富に集まるように。

 

配達しきれない食品は、他のフードパントリーさんに、その日のうちに車で届け、おすそ分けしています。さまざまな団体との関係づくりのためにも大切なことです。また、お礼として、どうしても余ってしまった食材はボランティアさんにも持って帰ってもらっています。

 

この事業で一番狙いにしているのは、貧困家庭と関係性をつくること。正直、1カ月1回ぐらい食品が届いたぐらいで、家庭の栄養改善につながるとは思っていません。あくまでつながるためのツールです。対象家庭を見守り、そこで得た情報を元に課題を把握し、必要な支援機関につないでいくことがメイン。ボランテイアさんの方でも情報共有してもらっています。

 

最近の例だと、元夫からのDV被害から逃れて生活されるシングルマザーの方を、社会福祉士の方につなぎました。コロナで仕事がなくなり、経済的にも安定せず、家賃も払えない状態で、精神的にも追い詰められていました。娘さんへの接し方が分からず、イライラして、つい声を荒げてしまう。そこで彼女の家に出向いたり、ラインでチャットしたり、また電話での相談も受けたりもしています。

 

利用者にラインで支援情報を伝え、申請につなぐ

利用者の方には、基本的にラインで連絡。情報提供事業では、行政の支援制度などをお伝えしています。

 

例えば、「ひとり親世帯臨時特別給付金」。「2020年6月分の児童扶養手当の支給を受けている方は、1世帯当たり5万円の普及を申請不要で受けられる」「新型コロナ禍の影響で収入が減少した方は、申請すれば追加で5万円受け取ること」など、分かりやすく示します。行政のホームページの長い説明文をポイント的にまとめ、一目瞭然に。

 

「申請主義」と言われますが、制度自体知らないと申請すらできません。また、援助要請力が低く、自分から「助けて」と言えない方が多い。だから、こうしたサービスが重要なんです。「おせっかい」ではありませんが、こちらからプッシュして寄り添わないと、支援になかなかつながっていかない。

 

「行政サービスは不親切」とよく言われますが、それはある程度しかたのないことかなと。行政は、広くあまねくやらないといけないし、やるべき。僕たち民間が、困窮している子育て家庭にフォーカスして、行政との間を取り持てばいい。自分たちが新しいサービスをつくるというよりは、すでにたくさんのサービスがある。その選択肢を分かりやすく、身近にすることが役割であると思っています。必要な人に必要な情報をマッチングする。それだけでもだいぶ変わるのではないか。

 

また、行政制度だけではなく、地域の子ども食堂や無料学習サービスなどの情報もお届けします。知るだけで、身近に利用できるようになることがたくさんある。「ラインでの使い方が分からない」という相談であってもいいんです。とにかく連絡していただければと。

 

「キッズカフェ」を、子どもの体験機会増やす場に

最終的な目的は、「キッズカフェ」という「居場所」を充実させること。もう準備はできていて、コロナ禍が落ち着けば、本格的に開始するつもりです。将来的には、この教会だけでなく、足立区内に複数開設を予定。一カ所あたり30名ほどで、小学校低学年以下の子どもたちをメインターゲットに。

 

学習支援はもちろん、さまざまな分野から講師の先生を招いてイベントも開催したい。「やわらかアートアカデミー」のスズキミ(鈴木公子)さんと対談して意気投合しましたが、アート活動をやるのもいいでしょう。貧困家庭の子どもたちは、経済的に豊な家庭の子どもたちより、体験機会が圧倒的に不足しています。だからこそ、それを補う環境を用意したい。一つのアクティビティ(活動)が子どもを劇的に変えるとは思っていなくて、多様な経験を得て、たくさんわくわくすることが大切なんです。

活動の傍ら別のNPOに勤務し、困窮家庭の親を支援

10年以上子どもの貧困問題に取り組み、最近、子どもの学習支援をしているNPO法人「キッズドア」で働きはじめました。同法人がたまたま親御さんの就労支援を始めていたときで、「あっ、興味あります!」とその仕事を委託業務として引き受けました。

コロナ禍ということもあり、講師がオンラインで、全国各地の受講者である親御さんとつながります。授業というよりは、寄り添い型で、悩みにじっくり耳を傾けるというスタイル。対話の中で、その人が自身の弱みと強みを認識し、しっかり履歴書の作成に生かして、転職活動につなげます。勤務している会社で昇進を目指すことも。

 

子どもは、親御さんががんばっている姿を見ると良い影響を受け、家族全体が前向きになります。それを狙いとしてやっているところもあります。

 

実際は、就職したい人ばかりではないところが難しいところ。活動の実績として、「〇〇人就職」「就職率〇〇」と出せば、行政などがその数字を指標にしてしまうので、福祉的なサポートが必要な人は、どうしても取り残されてしまいます。収入の向上を目的にするなら、生活保護を受けることを勧めることもある。

 

生活保護を受ければ、這い上がりにくい現状

生活保護を受ける人は、大丈夫なんです。他の支援にもつながれる。問題なのは、一歩手前で受けない人が、今、すごく困窮しています。

 

受けない理由の一つは、「生活保護」の言葉自体に悪いイメージを持ち、抵抗感のあること。もう一つは、生活の手段を取り上げられるケースがあること。例えば、車がないと仕事にならないのに、生活保護を受ける条件として車を手放さなければいけない。一度、生活保護のシステムに落ち込むと、そこから這い上がるのが非常に難しくなる。仕事をしながらでもステップアップする、または生活を維持していく支援が必要なんです。現在、その適切な仕組みがないので、民間でカバーするしかありません。

 

一方で、企業も不景気で、雇うこと自体が厳しい。できれば優秀な人材に来てほしい。しかし高校を卒業して、すぐに非正規で働き始めた人は、基本的スキルが蓄積していないので、企業側としてどう扱っていいかわからない。人材不足とはいえ、企業はスキルのある人を求めています。人は余っている。

 

セイフティーネットであるべき学校の教師は疲れている

かつて小学校で働いていたので、担任の教師1人でクラス全員を見るのが無理だということは実感しています。やはり授業は平均的な子どもに合わせるので、ついていけない生徒が出てくる。

 

先生は大変です。僕も学校を夜11時に出て、朝6時には家を出る生活をしていました。

なぜそんなに過酷な状況になっているのかというと、止めることをしないで、増やすことばかりしているからです。例えば、英語やプログラミングなど新しい授業をやりなさいとなりますが、その分何の授業も削らない。どう考えても時間が足りなくなる。授業の準備がせいいっぱいで、子どもたちが抱えてる問題を把握するところまで、手が回らない。

当時僕も教員多忙化対策プロジェクトにかかわり、何に時間を費やしているか可視化して、削れるところを話し合いましたが、そんなにすぐには変わりませんでした。ただ、全国で教師の働き方改革をしたモデル校もいくつか出てきており、少しずつ改善されていくことを期待しています。

 

子どもは大人の影響を強く受けます。だから半日接する教師は、心身ともに良い状態にあるべきです。学校こそ子どもたちのプラットホーム、そしてセーフティネットになるべきですし。

 

ただ学校はガードが固くて、外部の僕たちはまだ入り込めていません。今、学校とのつながりは、スクールソーシャルワーカーの方から、一番気になる子のご家庭を紹介してもらい、わくわく便のサービスを提供していく流れです。今後、連携を強化していきたいなと考えています。

 

コロナ禍を乗り越えて、子育て家庭を支えたい

コロナ禍での大変さは、肌で感じます。毎日、利用者さんからのラインの中では、「今月、食品の配達ありますか?」「仕事がなくなって、先月1回も出勤がなかったんです」など、悲鳴のような訴えが寄せられます。特に非正規雇用の人たちは、正規職員と違って、シフトに入れなかったら、その分だけ給料が減るので苛酷です。親御さんたちは、完全に経済的ダメージを受けていますし、精神的にも追い詰められています。そうした方たちの悩みを受け止めて、何かお役に立てればと。

 

「チョイふる」は、組織の体制を整えていくところですが、ようやく形になってきました。

まだ寄付や助成金で成成り立っている団体なので、今後は、法人としても財源をしっかり確保してやっていきたいです。持続可能な形にするには、収益を上げて、人件費に回して、営業強化しなければなりません。

 

足立区内外、身の周りには、子ども支援にかかわる方がたくさんおられる。先輩たちにいろいろ教えてもらいながら、活動を続けていければなと思っています。

 

(聞き手・ライター上田隆)

 

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一般社団法人 チョイふる

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