<インタビュー・栗野泰成さん>
3つの事業が組み合って、事業が成り立つ
「チョイふる」は、「チョイスフル(choice hull)」の略です。「子どもたちが、生まれ育った環境に左右されず、選択肢が持てる社会をつくりたい」という思いを込めて名付けました。事業は3つ。
1つ目は、食支援事業の宅配型パントリー「あだち・わくわく便」です。足立区在住で、食の支援を必要とする子育て家庭に、無料の食品配達をしています。「食」を通し、信頼関係を築きながら対象家族を見守りつつ、必要な支援機関につないでいくことが目的。先行して神の家族イエス・キリスト教会で子ども食堂を開催していた「あだちキッズカフェ」(創始者・柏倉美保子さん)と合流して活動しています。食堂の方は、今、新型コロナ禍の影響で、できていません。
2つ目は、居場所支援事業の「あだちキッズカフェ」。緊急事態宣言が明けたら、同教会の一角で、おもちゃの貸し借りを通じた、親子第三の居場所「おもちゃ図書館」を運営する予定です。柏倉さんの子ども食堂、そして「わくわく便の」活動でつながった子どもたちに来てもらい、継続的な見守り拠点にしたいです。学習支援やイベントなど、子どもたちの体験機会を提供するとともに、親御さんたちにとっても、くつろげる場所になればと。
最後の3つ目は、情報提供事業。子育て家庭に必要な情報を届けるwebサービスです。行政支援はもちろん、他団体の学習支援やイベント情報などもお伝えしています。
これら3つの事業が組み合わさって、僕たちの活動は成立します。
アフリカで目の当たりにした「絶対的貧困」
大学卒業後、小学校で教師として働いていました。しかし、自分の提供する教育が、本当に子どもたちの役に立っているのか、ぜんぜん実感がわなかったんです。どうしても先生を続けるイメージも持てない。それで思い切ってJICA青年海外協力隊に応募し、未知の経験をしてみることにしました。
どうせ行くならアフリカをと希望し、「ザンビア」と志望欄に書きましたが、結局エチオピアに派遣されました。期間は2014年から2016年まで。スポーツ委員会に所属し、地域の学校を巡って、当時同国で教育的意義が浸透していなかった体育教育を導入する活動を行いました。先生向けのワークシヨップをしたり、運動会を一緒に行ったり。僕が帰国した後も、現地の先生たちが運営できる仕組みをつくりました。
強く印象に残ったのは、知識では知っていたストリートチルドレンに、実際に出会ったこと。その中に「レンタルチャイルド」がいたんです。物乞いビジネスの道具のためにレンタルされる子どもたちです。恵んでもらえるお金が増えるというので、手足を切り落とされた子もいました。すごく衝撃的で…。
アフリカの「絶対的貧困」を目の当たりにして、自分は何ができるか考え込んでしまいました。
子どもが、どんなところで生まれ育っても、将来の選択肢が選べるような社会や環境をつくるべきではないか。そう思い、日本で見えにくい存在になっている「相対的貧困」の子たちを支援する活動にかかわることを決意。貧困の連鎖を断ち切るためには、子どもだけをフォーカスするのでなく、親御さんを含めての支援が必要だという問題意識は、当初からありました。
足立区にて、軽トラ1台で始めた宅配事業
2019年4月、合同会社の「Autonomos(オートノマス/ラテン語で「自分の法で生きる」という意味)を設立。茨城県つくば市内で、教育格差是正のために、低料金の格幼児向けの英語教育の授業を始めました。
1時間500円の格安なプログラムでしたが、そこに来てくれる親御さんたちは、所得の高い層ばかり。例えば、研究機関の教授の奥さんなどがおられて、検索能力も高い。僕たちがサポートしたい貧困層の人たちが来てくれないわけです。どうすればいいかと悩んだ末、根源的な欲求にアプローチできる「食」が良いツールになるのではと思い至りました。食品を届ければ、玄関を開けてもらえる。関係性を築いて、居場所に来てもらう…という今の事業の形を思いついたのです。ステップを踏まないと、何も始まらないことを痛感しました。
その後、たまたま北千住に住むことになり調べてみると、足立区では子どもの貧困問題が深刻なことを知ります。2020年2月、この区で事業をやろうと、「あだち・わくわく便」を立ち上げました。1台の軽トラックに、子育て家庭10世帯分の食品を仕分け、各家庭への宅配を始めたのです。
実際に接してみて分かったのは、親御さんの子に対する虐待・ネグレクト・無関心などの問題が、とても深刻だということ。ドアを開けたとたん、むっとタバコの匂いが立ち込めたときなど、こういう環境で育った子どもは、どうなるのだろうかと心配に。また、利用者の中には、外国ルーツの子どももたくさん存在します。親御さんが日本語を読めず、支援に結びつかない事例も結構多い。さまざまな境遇の人に対応するには、僕たちだけではとてもフォローできないことを実感。他の団体の活動と連携して、地域で見守られる体制をつくるべきだなと。
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