「ヤングケアラー」ってなに?  IN足立

ヤングケアラー

【意見交換】

ヤングケアラーに寄り添うには

実はみんな、「家」や「ジェンダー」に縛られてきた「当事者」

吉田/橋本さんが言われていましたが、みなさんが「当事者」であると。だからこそ、できること、話せることがあるのでは。

 

大山/私も、実は、元ヤングケアラーなのでしょう。昔、女の子は、家を背負い、家の手伝いをしてきました。男の子も同じ。生まれも育ちも下町の浅草なので、特にそう実感します。子どものころからご飯を炊いてましたが、いまだにその経験が役に立っている。日本の現状って、そんなところから続いてるんです。ただ、今の子どもたちの中の、無気力ということが、とっても気になります。この時代のヤングケアラーという存在は、社会から問題提起されている、さまざまなものを含んでいる。でも、「なんで私が、こんなことまでしなきゃいけないの!」という立場は同じ。だからこそ、みんな当事者なんだと。

 

橋本/みんな当事者で、自分も当事者です。私がエンパワーメントという言葉にこだわるのも、

ソーシャルワーカーの仕事をすることで、女性支援に携わっているからです。大山さんの言ったように、女の子は家のことをすることで評価されてきた。ジェンダーにケアー的能力を求められ、ケアー能力が評価されてきた。

 

吉田/例えば、私と平島さんの間では、大きな差異があると思うんですよ。当事者といっても、分からないことが多いなと。

 

平島/いや、みんな当事者だと思います。私もそうでしたが、女の子は、家のことができなければ、「女子ではない」という伝統的な考えに縛られてきました。今も、「家事は女性がするものだ」という固定概念はすごくあるように感じます。男性も、家事を手伝う風潮にはなってきていますが、性別的な分担は家の中にまだ残っていると思います。そのことからも、みんなが当事者で、女子は特にそうなってしまうのかなと。

今、「ヤングケアラー」という言葉が出てきたため、ヤングケアラーの枠組みがかえって固定化され、「ヤングケアラーとして、家のことをちゃんとやらないといけない」という流れになっていく怖さも感じています。だから、森田先生のお話にもあったように、その当事者、ヤングケアラーの意見表明である「こうしたい」ということを、ちゃんとくみ取る必要があると思います。

 

支援者に、「ほっといて!」と思うヤングケアラー

吉田/私は、図書館司書なので、平島さんが子どもの頃、図書館を便利に使っていたとお聞きしました。そこで、「ヤングケアラーとして、図書館にしてほしいことはありますか?」と尋ねたのですが、そのお返事が衝撃的で…。

 

平島/ないですね。ほっておいてほしいです!(笑) ヤングケアラーということを隠して、普通の子どもとして頑張って図書館で存在している。バレたら自分にとってのミッションの失敗なんですよ。何かをする、というのであれば、見守ってほしい。

 

大山/子どもと長年遊んで一番感じるのは、子どもたちにとって、なにせ日常が大事。朝起きて、元気いっぱいで、食べるものがあって、学校に行けて、ルンルンで帰って来て、遊んで、勉強ちょっとして。そんな日常の一つに、「図書館」という出会いを持った子どもがいたとしたら、本当にほっといてあげてほしいと思う。やっと見つけた自分の居場所で、静かに癒しの時間を過ごしているのですから。

大人が、「こういう風にしたから、利用してね」といくら宣伝しても、ヤングケアラーと思われるお子さんたちが飛びつくことはないと思います。

 

吉田/竹の塚図書館では、「ヤングケアラー」についてのブックリストを作りました。気が付けるような情報は、そっと置くようにはしようかと。

 

平島/それはすごく重要です。

 

吉田/森田先生、みなさんが「ほっておいてほしい」と言われている。

そうはいっても、ある程度調査して、「見える化」しないといけないし、行政的な支援も必要だというお話の後に…。

 

森田/家がいろんな難しい状況であるからこそ、みんなと同じに普通の子でいたい、違う自分ではいたくないという気持ちが強いんじゃないかと。だから支援者として、学校に「何かしてほしい」とお願いしても、ヤングケアラーのお子さんから「何もしてほしくない」とよく言われます。だけど、ずっとほっといてほしいわけでもないんですよね、平島さん?

 

平島/そうなんです。

 

森田/誰も知らない状況に置かれやすいので、見守ってほしい。いろんなことを頑張った上で、変な構い方はしないでほしいということですね?

 

平島/森田先生、ありがとうございます。私は本当に、親から自分の存在を認めてもらったことがないんですね。見守ってほしいといったのは、私を気にかけている人の心の中で、私の存在を片隅にでも思い浮かべてほしいということです。そのことで、私は存在したことになる、私が生きていることになる。すごい自己肯定感につながることかなと思うのです。

 

「支援」ではなく、「見ていてあげる」

吉田/ヤングケアラーという存在に対する支援というよりは、「ご飯が食べられない」「遅刻が多くなる」「自分の時間が持てない」などといった状況に対する支援が必要。みなさんのお話を聞いて、そう思いました。

 

橋本/まさに森田先生が、調査で挙げられたことですね。

私の立場から言えば、支援する側される側に、分断を生んではいけない。

平島さんが話されたように、その子に安らぐ時間がないなら、安全に過ごせる時間を提供しなければならない。サポートする必要があるのなら、まず、その子の声に耳を傾けなればいけないと思っています。

 

吉田/一人ひとりに合わせて、カスタマイズした支援ということかなと。大山さんが言われていたことも、一人ひとり状況が違うことに対応するということですよね。

 

大山/違いますね、違います。「支援」ではなく、見ていてあげる。その子があきらめないように伴走するというか。人間、誰かに分かってもらえる認識があると、すごく力がもらえると思う。緊急の場合は、すっ飛んで行く。「愚痴を言うところがある」「自分らしく、生きるところがある」と、その子がずっと心に思えるような見守りがいいのかな。それは、ヤングケアラーということでなくても、大人も子どもも、みんな同じ。

 

その子を置き去りにしない環境をつくること

吉田/今回、行政や学校関係者の方がごらんになると思います。そういう方々に対するメッセージとして、足立区ではどういうことが必要か、示していただければと。

 

森田/行政というより、平島さんが言っていたことにうまく近づけたらなと。

誰かのために何かをするということは、いつも自分にとって必要なことを、どこかに一回置いといて動く。ケアって、そういうものかなと、私は理解しています。

ヤングケアラーも、自分が勉強したいなと思っても、ケアのために、それを我慢する。だからその人自身の必要としていることを置き去りにすることが起きやすい。というかしょっちゅう起きている。そのことに誰も気づかないということが多いんですね。

 

だから、その子に対して、「あなた自身、何がしたいのですか?」「どういうことを必要としているのですか?」と尋ね、耳を傾ける。そして、「あなたが今、いろんなことを我慢して、家族をケアしていることは分かってますよ」と、受け止めてあげる。そういうことが、とても大事なのかなと。

 

あるヤングケアラーの子は、学校を休んだとき、何も言わないのに友だちがノートをとってくれたそうです。それがすごく安心したと。置き去りにしていることを、周りの人がちゃんと気づいて、応えるというのが大事なんだなと。

それが「支援」と言うのかというと、この言葉には当てはまらないのかな…。ともかく、周りの人が気づく関係性というのが、作られていくことが重要だと思っています。

 

なかなかヤングケアラーの存在は見えません。まずそういう人がいるということを、行政関係の方にも、周りの方にも、知ってもらう状況をつくることが必要です。支援者の方たちは、ご家族とご本人と協力し合って動き、みんなが共通の理解を持つこと。そうでなければ、「ケアラーとして、もっと頑張りましょう」みたいな、ずかずか入り込んでいく支援になったすることもあるので。

どんなサポートを望まれるか、共通に理解できる状況を体制としてつくることは、行政機関だからこそ、できるのかなと思います。

 

子ども自身が、「ヤングケアラー」という言葉を持ってほしい

吉田/最後に、今日の感想など、お一人ずつ。

 

森田/平島さんのお話を聞いて、子どもの、またヤングケアラーの経験をされている方たちの声を、真ん中に置くことが、とても大事だと思いました。

 

平島/子どもは、ヤングケアラーになってしまうと、あまり大人を信用しません。ただ、毎日の日常会話を通して、その大人と信頼関係ができてくると、例えば、ごはんを食べたときとか、やはりポロリと言いたくなっちゃうんです。それが支援のきっかけになると思います。

 

橋本/子どもが、自分の道を選択するに至るプロセスを理解しなければならないと思います。

何を決めるかというと、親とともに生きる、親と距離を置いて生きる、決別すること。

「ヤングケアラー」という言葉だけが先に行ってはいけない。大切なのは、親を介護している子ども自身が、「ヤングケアラー」という言葉を持つことだと思っています。

 

大山/今、足立区でも、家族において、考え方、過ごし方、生き方、対応など、工夫をしなければならない時代が来ています。子どもたちは、ただそれに、ついていかなければいけない存在です。

あだち子ども支援ネットも、ヤングケアラーにかかわり、今年で4年目になりました。まだまだ継続して追っていかなければ、これからの時代に合ったものが、見えてこないんだろうなと。子どもたちを、ゆるやかに、そっと見守っていきたいと思います。

これからも、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。みなさん、ありがとうございました。

 

(文責・ライター上田隆)

 

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