「ヤングケアラー」ってなに?  IN足立

ヤングケアラー

第1部

<講演・森田久美子さん>

ヤングケアラーとは、どんな存在なのか

「ヤングケアラー」とは、「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うような ケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18未満の子ども」を指します。彼らは、通常大人がすると考えられているような、重要で日常的なケアの仕事と責任を引き受けています。

 

では、ヤングケアラーは、日ごろ、どんなケアを行っているのか。

料理・洗濯・掃除などの家事、世話や送り迎えなどの幼いきょうだいの世話、買物や家の修繕などの家の切り盛り、入浴やトイレの介助、投薬管理などの身体ケア。心が不安定な人への寄り添い・見守り・励ましといった感情面のケア。各種支払い・通院介助など金銭的・実用面の切り盛り。日本語が第一言語でない家族の通訳などもあります。

 

それらが「家のお手伝い」という感覚でお子さんに任されるため、大人が担うようなケア責任になっていても、なかなか気づかれない。お子さん自身も、ちょっと大変だなと思っても、自分の我慢が足りないと思い、つらさを訴えない。周囲の大人も、「偉いねぇ」と褒めはしても、その子が、どの程度の役割を担っているかはまでは把握しにくい。だから、ヤングケアラーの存在は、周囲の人や行政機関になかなか見えず、必要な支援につながりません。

 

また、ヤングケアラーの中では、18歳を超えても、ケアを担い続ける人がいます。18歳からおおむね30歳代までのケアラーを、私たちは、「若者ケアラー」と呼んでいます。子どもから大人に移行していく時期は、子どもの頃と違う課題があります。例えば、「進学はどうするか」「就職は」「家は離れられるのか」など、さまざまな悩みをかかえられます。だから、彼らの支援も必要です。

 

【イギリスの場合】

国を挙げ、大人のケアラー支援から、ヤングケアラー支援へ

イギリスでのヤングクアラー支援は、大人のケアラー支援の中に含まれる形で発展します。1950年代で、コミュニティケア施策の取り組みから始められました。精神障害者が、病状が良くなり退院されると、家族の元で生活することが増えます。すると今まで、病院や施設が担ってきたサポートを家族がしなければいけない。コミュニティケアであれば、病気や障害のある人への支援と家族などのケアラーへの支援とがセットで必要というわけです。

 

1960年代後半より、女性、男性さまざまな立場の介護者が見出され、その人たちの生活保障が課題に。そうした流れの中で、1988年に、サンドウェル中等学校での一次調査において、介護を担う子どもが、ようやく発見されました。

 

以降、ヤングケアラーの支援が少しずつ進むうち、イギリスでは、「ヤングケアラーは隠れていて見えないゆえに、支援が難しい存在」と認識されていきます。ヤングケアラー自身からすると、家族への忠誠心やスティグマ(差別)、いじめの懸念、どこに相談したらよく分からないなどの理由で、公的機関とかかわれない。いかに彼らを「見える化」していくかということが、支援の大切なポイントになっていきます。

 

法律改正が進められ、アセスメント(評価)が自治体の義務に

ヤングケアラー調査がさまざまに行われました。

1988年からは小規模な調査が開始。1993年・1997年・2004年にはYGRG(ヤングケアラーリサーチグループ)による全国調査、国勢調査によるヤングケアーの把握、2017年教育省によるヤングケアラーの生活に関する調査などが実施。

 

そして、2014年、「子どもと家族に関する法律」によって、自治体にヤングケアラーのアセスメントの実施が義務付けられました。ヤングケアラーと思われる子どもが見つかったら、必ず支援の必要性をアセスメントして、「こんな支援ができますけど、どうしたらいいですか?」と、子どもと家族に聞いていくことが、自治体の義務に。

 

「レスパイト(小休止) 」や「フェスティバル」など多彩な支援メニュー

「ヤングケアラー支援事業」が画期的です。公的機関と民間非政府組織との共同運営で、1992年より開始され、2018年時点で全国152カ所で活動していました。

 

グループ活動では、レクリエーション、情報や悩みの共有を行います。レスパイトは重要な支援で、ヤングケアラーに休みをとってもらい、楽しい時間を過ごすことで、日ごろストレスを発散してもらいます。同時に、支援者は、親御さんの病気の状況を聞き出し、どう応援していけばいいかなど、情報提供もします。

 

「友達プログラム(Befriending)」は、ボランティアの大人と個別に出かけて、社会的経験を積む機会を持ち、自己肯定感を得られるようします。

また支援者が、自宅に出向き、親御さんと一緒に話し、相談にも乗ります。

 

以前、バーミンガムにあるホームグループという、精神障害の親御さんを持つヤングケアラーを支援する団体を訪問しました。ここでは、絵本を使い、病気について、お子さんと一緒に学んだりしていました。創作的な活動では、お子さんが自分のことを自由に表現する機会をつくられていました。

 

ヤングケアラーの支援で、もう一つ大きな動きは、学校でヤングケアラーをサポートしてもらうことです。早期の段階でケアが必要な子を発見して、ホームグループのようなヤングケアラーの支援団体につなげます。また、学校の中で、ヤングケアラーの子どものためのピアサポートグループが開催されている場合もあります。

 

大きなイベントとして、「ヤングケアラーフェスティバル」が開催されます。夏になると、お子さんを集めて、レスパイトの機会として、みんなでキャンプをしたり。マスコミの方にも入ってもらい、その模様が放映され、啓発の機会になったりもします。

 

自治体はヤングケアラーを見つける努力をしなければならない

自治体は、ヤングケアラーのアセスメントの義務を負うことになっています。そのために支援の必要なヤングケアラーを見つけなければなりません。それで多くの自治体が、「ヤングケアラーって、こんなお子さんですよ」とウェブページにも載せて、「支援が必要な方は、ぜひ自治体に連絡してください」と告知しています。

 

また、NHS(イギリスの国民保険サービス)は、こう書いています。

「家族の誰かが、世話を受ける必要があるならば、あなたは本当に彼らを助けたいと思うかもしれません。しかし、ヤングケアラーとして、あなたは大人の介護者と同じことをするべきではありません」。

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