公務員だからつくれる支援の「形」

行政
児童相談所を出た後の「処方箋」として事業を活用

2020年4月、私は、新しく開設された江戸川区児童相談所に配属されました。そして、江戸川区役所時代に立ち上げた事業を、こちらで活用することに。今、援助課長を務めており、虐待の対応等をしています。

 

一時保護から家に帰る際、虐待をしてしまった保護者が「反省してます」と言ったところで、そのままお帰しするわけにはいきません。虐待が再発する可能性があるからです。そこで帰す際、「『おうち食堂』を入れておきましょう」などと、支援事業のメニューを入れます。ボランティアさんに、帰った子どもの様子を見てもらい、同時に家事支援をしていただく。そのことで、お母さんが心理的にいっぱいいっぱいになり、また暴力に走ってしまうことを防ぐわけです。

 

一時保護からの家庭復帰や、施設から出て家庭に戻るときに、ネットワークやサービスにつなぎ、みんなで見守っていくことが重要です。どのメニューを入れていくのかというのは、まさに「薬の処方」のようなもので、今、私たちの大切なスキルに。

 

現在利用できるサービスに「子どもと家庭のおとなりさん」という事業もあります。『おとなりさん』は、48回を上限に、ボランティアさんが子育て支援が必要な家庭に入り、必要なお手伝いをする事業。これも、バディチームに委託しています。内容は「食」以外の支援で、託児・家事・学習・遊び等様々です。

 

『おうち食堂』で入ろうとしたら、台所が汚すぎて作業できない。そこで、『おとなりさん』のボランティアさんに行ってもらう。まず一緒に、お母さんと台所を片付ける。夏休み、子どもの宿題を手伝う。1週間に1回、2時間ほど公園でお子さんと遊ぶ。そういうかゆいところに手が届くようにしています。しばらく『おとなりさん』でやって、『おうち食堂』にと切り替えることも。

 

民間委託で子ども支援事業をリニューアルした『かもめせんぱい』

区の児童相談所開設時、どこの児童相談所にもあった「メルンタルフレンド事業」がまだ立ち上がっていませんでした。同事業は、不登校の子どもたちなどを、20代から30代の若いボランティアさんが支援するものですが、多くの児相は直営で運営してるんです。担当職員が、スケジュールの調整して、ボランティアさんにお金を支払っている。しかも児童福祉司や心理司等が片手間にやるので非効率でした。それで、江戸川区ではより利用しやすくするために、業務をワーカーズコープさんに委託しました。

 

「メルンタルフレンド」の名称も子どもにも保護者にもイメージが良くないので、職員から募って『かもめせんぱい』に改名しました。江戸川区の児相の愛称が「はあとポート」であり‘心の港’であることと、かもめせんぱいが羽ばたいて、困っているお子さんの元へすぐに飛んで行く、というイメージです。いろんな不安を抱える子には、週1~2回、行ってもらい、勉強やスポーツ、遊び等をしながら、さりげなく話を聞いてもらいます。

 

部署は違いますが児相に来る前に担当していた、区内には共育プラザが7カ所あり、中学生、高校生の第三の居場所になっています。ここで勉強したり、バンドやスポーツ活動したりできる。行きたくても一人でいくのが不安なお子さんに、かもめ先輩が同伴することも行っています。

 

窓口で保護者の声聞いた経験が、事業企画の礎に

事業を考えて形にしていくことは好きですね。自分自身も子育てしてきたこともあって、こういう視点だったら、保護者に受け入れられるのでは、というのは感覚としてなんとなくある。それと長い役所生活の経験が生かされているというか。

 

実は、私、事務職で、福祉職ではないんです(笑)。事務職として、子どもに関する生活保護のケースワーカーもやっていました。ひとり親の窓口など、これまで窓口対応した数は万クラスだと思っています。その前は、保育園課の窓口にいたので、保育園入園に対する保護者の想いは、ガンガン聞いていました。だから今のお母さんが、どういう感覚で子育てしているというのは、すごくよく分かる。

 

児童女性課では、ひとり親の窓口に来られるお母さんたちに対応していると、感情が先行し、子どもの利益が後回しになってしまう人によく出会いました。夫と別れたいと思ったら、何の準備もせずに別れてしまう。「今後のために、養育費の話をした方がいいよ」と助言すると、「あんな人、いっさいかかわりたくないから、お金なんかいらない」と言う。だけど、しわ寄せがくるのは子どもなんです。公正証書を交わしておけば、支払いの催促だってできるのに。感情で別れて、もう連絡取れないみたいな。

 

少し距離を置いて接することができるのは、事務職だからかもしれません。行政の仕事は、支払いや手続きなどが派生するので、段階的な作業をこなしていかないと、前に進みません。事務職は、その方法を熟知しています。もちろん優秀な福祉職の職員はおられる。ドライな視点を持ちつつ、支援する人への距離感がほどよく、ネットワークの使い方が巧みです。ただ、そうしたセンスのある職員を見抜くのは本当に難しい。実際の仕事をしてもらって、初めて分かるものです。

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