公務員だからつくれる支援の「形」

行政

<インタビュー・上坂かおりさん>

ボランティアが家庭に入る「学習支援」

2015年、全国的に「子どもの貧困」がクローズアップされ始めたとき、江戸川区でも調査することになりました。通常ならアンケート調査になりますが、より具体的な実態を把握するため、子ども支援に関わる関係者に直接インタビューしたんです。すると、深刻なケースがたくさん浮かび上がりました。とくに問題だったのは、貧困率の高い「ひとり親家庭」です。中には、水で空腹を満たしていた子もいたなど、虐待も目立ちました。

 

当時、私は、江戸川区子ども家庭部児童女性課に勤務し、ひとり親支援に関わっていましたが、ひとり親家庭の生活の大変さを日々感じていました。あるとき、塾に行けない子が多いと聞き、『学習支援』はどうかと。幸い上司も応援してくれて、プロジェクトを立ち上げることができました。2016年のことです。

 

今は形が変わり、より多くの子ども達に学習の機会を提供できる形になりましたが、子どもたちを集めて週一回行う「塾」型と、トライさんと協力して家にボランティア教師を派遣する「家庭教師」型の事業を行いました。対象は、ひとり親家庭に限定して、申し込みされたすべての保護者とお子さんを面談します。学力ではなく、大変さの度合いで選定しました。家庭教師型は人気がありましたので、虐待が疑われたり、不登校であるなど、かかわりが必要な家庭を選びました。ボランティアは、勉強を教えるだけでなく、塾のように進路相談などにも対応します。その間、私たちは面談の機会をつくり、お母さんたちから就労や生活の悩みなども聞き、さまざまな支援につなげていきました。

 

「食」の事業を2つ立ち上げる

学習支援が軌道に乗ると、「食」に特化した事業も必要ではないかということになりました。当時、ブームでもありますが、全国各地に「子ども食堂」が立ち上がります。しかし、子ども食堂に行ける子はいいけども、行けない子はどうするのか。家庭での中で、ごはんを十分に食べれていない子どもたちが問題に。

 

いろいろなスキームを考えた上、『できたてたべてね~おうち食堂』と『KODOMOごはん便』とをそれぞれ提案し、2017年、事業化することに。「おうち食堂」は、学習支援事業のノウハウを生かしたもので、家庭に食事支援ボランティアが直接うかがいます。そして、買い物から調理、片付けまで行い、家事が不得意なお母さんをサポートする内容に。家に入られるのが嫌という方には、「ごはん便」をおススメします。これは、食の支援が必要な家庭に、お弁当屋さんが手づくりのお弁当を届けるもの。お弁当一つ470円のうち、100円を自己負担してもらいます。家に入って支援する方が確実なので、「おうち食堂」の方は無料にして差別化し、より利用しやすいようにしました。また、ボランティアは有償で、時給1250円となります。

 

『おうち食堂』のきめ細かな対応で、親子ともに心開く

支援が必要な家庭では、家で食べる手づくりのごはんの味を知らない子が多いんです。お母さんの家事支援とともに、お子さんにそれを体験してもらうのが『おうち食堂』の目的。そこでボランテイアには、主婦歴の長い年配の女性にアプローチしました。初めは、シルバー人材センターで募集。シルバー人材センターでは、男性なら清掃や自転車の並び替えなど仕事は多いのですが、女性に向けた職種は少ないので、反応は良かったです。

 

現在、この事業のコーディネイトは、NPO法人バディチームさんに委託。東京23区で育児支援を請け負っている組織で、里親支援も行い実績があります。現在、ボランティアの人材募集も依頼し、面接、研修、仕事の日程の調整、保護者とのかかわりまで、あらゆることを行ってくれています。こうした業務はとても煩瑣なので、行政が直営でやると、忙しさから間違いなく尻すぼみになり、やがて消滅していくのを、これまでの経験から知っていました。だから当初より、外部の業者に委託しようと考えました。行政としては、上がってくる実績を見て、保護者を、生活保護や医療機関など必要な支援につなげることに専念できます。

 

バディチームさんのサービスは、とても細やかなんです。ボランティアさんが入る前日、支援する家に、「明日行きますけど、今、冷蔵庫の中に何がありますか?」と事前に聞いてくれる。ボランティアさんはその情報を元に、予算の範囲内で買って行く。「すぐには使わないけど、買っておいたら役に立つだろう」と、調味料や日持ちする食材なども購入してくれます。実は、支援って、こうした丁寧な配慮がすごく大事だなと。

食材費は、子ども一人につき500円まで区が負担。プラス子どもがもう一人いれば、プラス250円で750円までOKに。料理上手なボランティアさんは、予算の範囲で色々なメニューを作ってくれたり。

 

500円の支払い方も工夫しました。一回一回、誰かがお金を受け取りに来て…とすれば、手続きも費用の管理も面倒。そこで、江戸川区はイオンさんと協定を結んでいるので、ワオンカードを利用することに。ボランティアさんに各家庭用のカードを持ってもらい、事前に食費をチャージ。購入時はお店でレジにタッチして支払い、レシートを受け取る。買い物した金額はパソコンでも確認でき、しかも購入分の0.1%は区に寄付されます。

 

ボランティアさんは、本当によくやってくれます。自分のつくる料理を喜んでくれる人がいるということに、たまらない喜びを感じるそうです。先日、グラタンをつくりたいけど、グラタン皿がその家にないので、自ら持って行ってくれた方もおられました。

 

「食」で家に入ると、長い時間かかわれるのがメリット。だだ、話をするだけなら1時間持たせるのも大変ですが、料理しながらだと2、3時間は一緒に過ごせます。お母さんが寝込んでいたり、子どもを叱る様子が見えたりするなど、生活ぶりが良く分かる。

そこでボランテイアさんには、一回ごとに、訪問したときの様子を細かく示した報告書を書いてもらっています。もちろん、その日のメニューや経費(レシートを貼る)も記録。異変を感じて急を要するときは、電話でバディチームさんに連絡してくれ、その情報がこちらに来るように。

 

ボランティアさんは、さりげなくごはんつくってくれ、優しい言葉をかけて、「じゃ、また来ます」と帰っていきます。お母さんにとって、この距離感がいい。行政の職員が家に入ると、なにか見張られている気分になるでしょう。

 

支援が必要なお母さん等は、子どもの頃から大変な家庭に育ち、親からも認められず怒られ続け、SOSが言えない人が多い。だから、いつも見守ってくれる存在は貴重です。「実は、保育園からこういうことを言われ、どうしていいか分からない」など、お母さんがボランティアさんに相談を求めたときなど、継続的な支援の成果だなと実感しました。

 

なにより子どもが変わります。ある程度の年齢の子は、ボランティアさんと一緒に料理したり。引きこもりや不登校など問題行動のある子どもには、むしろ積極的にそうしてもらってます。子どもが料理を覚えることは、自活の能力を身に着けることにもなります。変われないお母さんが多いのも事実。子どもは、ある程度、自分自身が力をつけていければなと。

 

仕出し弁当組合が、ひと肌脱いだ『ごはん便』

『ごはん便』は、東京23区では江戸川区だけにある「仕出し弁当組合」の協力で実現しました。江戸川区の支援事業として高齢者向けの宅配弁当事業を行っていました。当時、業界として、大手の外食産業におされて年々注文数が減少していたようで、あるとき、そのことを小耳にはさみ、「それでは、子ども支援も」と同組合を訪れて相談。すると、快く承諾してくださったんです。

 

高齢者の場合、配達料一件につき、200円は区が負担していました。しかし、「子どものための事業だから配達料はとりません。自分たちの配達ルートで対応できますから」と申し出てくれました。

 

お弁当屋さんには、週に数回届ける際、できるだけ手渡しして、子どもや家の様子を見てもらい、後でそのことを伝えてもらっています。例えば、行政職員を拒絶しているごみ屋敷に住まうご家庭に配達の機会があったときなど、とても貴重な情報が得られます。お弁当屋さんも、「子どものためになる」と、やりがいをもってくださって。

 

『よちよち応援隊』が、0歳児を抱えるお母さんを助ける

2018年、東京都が、0歳児への家庭の家事支援を呼びかけたのですが、なかなか手を挙げる自治体がなく、それで、当時、さまざまな支援事業を立ち上げていた江戸川区に話が来たんです。私が部長と相談したところ、「やろう」となりました。「やるからには、大規模にやらなければ」と。

 

形となったのが『よちよち応援隊』です。サービス内容は、食事の片付け、部屋の掃除、育児の介助、健診や買い物などの同行、衣類の洗濯、生活用品の買い物、兄姉児のお世話です。

同年10月に話があって、2019年3月に開始したので、かなりタイトなスケジュールでした。

 

これはパソナライフケアさんに委託。対象となるのは、江戸川区内で、0歳児のいる家庭です。毎年6000人ほど新生児が生まれていることも考慮して、1000家庭の利用からスタートしました。2020年には、利用者が1000家庭を超えまして。

 

役所の窓口の申し込みは、乳飲み子を抱えたお母さんにとっては大変なので、インターネットの申し込みを採用。それで、夜中も申し込みも可能に。かなり強引に進めました(笑)。

 

サービスは、14時間まで無料。2時間を7回、3時間を3回でもOK。料金を支払うと、追加で利用できる仕組みにもしています。ボランティアさんの時給は、1250円。

 

2時間、ずっとしゃべっているお母さんもいます。ボランテイアさんが家に行くと、家も片付いていて、なにもやることはない。でも、ひたすら誰かと話したいと。

 

あるお母さんは、赤ちゃんがわんわん泣く横で、ご自身も涙を流しながらボランティアさんに悩みを打ち明けられました。後にその方は、「あのとき、本当に生きていけないと思いました。でも、話を聞いてくださったことで、今の自分がここにあります」と言われています。0歳の子どもは、育てるのが大変。そのとき、誰かが助けてくれたというのは、後の育児にとても良い影響があるようです。

 

ただ、子どもの預かりは行いません。お母さんと子どもの愛着を形成する時間を、大切にしてほしいからです。

 

ボランティアさんは、20代から50代までおられます。一番多いのは40代50代でしょうか。子育てを一通り経験しているので、子育ての現役世代にさまざまなアドバイスができます。60代のボランティアさんは、むしろ『おうち食堂』に適しています。こちらの対象となるお母さんは、育児に悩みを抱えた方が多いので、おばあちゃん的な雰囲気で、ゆったりしたペースで寄り添ってもらう方がいい。

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