「児童福祉司」で「里親」だから、見えること

児童施設

ルポvol.16【児童施設1】

年配で小柄な清掃員の女性が、ドアの上部に手が届かず困ってる。「拭きましょうか」と児童福祉司の白田有香里さん。濡れ布巾を受け取りさっと拭くその人も、わりと小柄なのが微笑を誘う。そのドアの向こうが、取材を行うことになる部屋である。どこかほのぼのとした空気が流れ、不思議な感じがする。世の児童相談施設は、「殺伐としたところ」というイメージが自分の中に凝り固まっているからだ。しかし、ここ江戸川区児童相談所は、違った。

 

子どもを規則と懲罰で管理する、世の児童相談所

子ども支援の取材を始めた当初、「ジソウ」というワードが飛び交って、なんのことかと首をひねる。後で調べて「児相(児童相談所)か」と気づくほど、この施設に対して無知だった。支援者には、たいてい評判がよろしくない。子どもと家族の未来を左右する重要な行政機構でありながら、うまく機能していないと、みなが言う。メディアの報道では、虐待児童を救えなかった事件が起こるたび、その不十分な対応が徹底して糾弾される。

 

ネットを検索し、また何冊か関連書籍を読んでみたが、やはり、構造的な機能不全であるという。児童相談所は、親の同意を得ず、子どもを一時保護する強い権限(職権保護)を持つ。しかし、その職員である児童福祉司の多くは、児童福祉の専門家ではない。関係ない部署からイヤイヤ配属され、また1、2年で、ヤレヤレと別の関係のない部署に異動していく。そんな素人たちが、複雑で、しかも増加する虐待問題に対応している。いや、対応したふりをして、まかり通す無責任体制があるという。だから、虐待問題は解決できず、悲劇が起こる。「児童相談所が子どもを殺す」と、告発する著者もあった。

 

児童相談所内にある一時保護所もひどいらしい。「まるで刑務所のよう」と指摘する本もある。虐待や非行など、さまざまなな背景を持つ心傷ついた子どもたちが、大部屋に複数人の雑魚寝をさせられる。性のトラブルが警戒され、男女は別々に生活。体育系の屈強な職員は、日々、子どもたちに「オイ、こらぁ!」を浴びせ、規則と懲罰で管理する。そこに教育的配慮も、人間的交流もない…。

 

課題解決のヒント、江戸川区児童相談所と白田さんの仕事にあり

実際はどうなのか。そこに働く児童福祉司さんの声を聞いてみたいと思う。中途養育者サポートネットを運営する町田さん(vol.4)に相談すると、「白田さんなら適任」と紹介してもらう。どんな組織の矛盾があり、現場で苦労しているのか、公開できる範囲での本音の話が聞ければよしと考えていた。しかし、お話をうかがってみて、なんだが明るい気持ちになる。ホンモノの児童相談所は、困った子や親の「駆け込み寺」になりえると思えたからだ。

 

まず、江戸川区児童相談所が、東京23区で初の区立の、先進的な施設であること。その柔らかな組織の中で、白田さんが、生き生きと子どもや親をサポートされていること。さらに、ベテラン児童福祉司(援助課 課務担当係長)にして、里親(しかも「千葉市ひまわり会(里親会)会長)である複眼的な視点が実際的で共感できること。この3点を合わせて生まれた実践が、児童相談所の課題をどう乗り越えるか考える上で、重要な示唆になるのではと。なにより、白田さんの天職である「児童福祉司」の仕事を、力いっぱい応援したくなった。そして、「里親」としての奮闘も。

 

(白田有香里さんへのインタビューは、2021年4月16日に行いました)

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