里親は、孤立している

里親・中途養育者

<インタビュー・志賀志穂さん>

 

これまで里親は、メディアの取材を受け入れてきませんでした。今も、外に向けて里親家庭の上手くいっている体験談はお話しする機会があっても、しんどいことや失敗談を打ち明けることは、ほとんどありません。実親からの虐待や社会的に逸脱した厳しい生活環境など、親と暮らすことができない里子の出自や成育歴が厳しいケースは決して少なくありません。そして里子の安全を守るために児童相談所からは、写真はもちろん、子どもの個人情報は出さないようにという配慮と指導があって、里親が里親家庭の育児について社会に発信する難しさがあります。一方で、行政が行うキャンペーンは、「里親は素晴らしい」「幸せな家族になれた」と謳うばかり。地域社会の中での里親の養育の困難さや葛藤が、世の中にまったく伝えられていない。

 

意外に知られてない「里親制度」と「養子縁組」の違い

前提として、制度について説明しますね。一般的には、「養育里親」と「特別養子縁組里親」がごっちゃに認識されていて、それが里親の悩みを見えにくくしています。前者の「里親」は、児童福祉法の元、「緊急一時保護」を含む、基本的には実親さんの生活環境が整ったら里子は実親さんと再び一緒に暮らすことを目標に、その期間(短期、長期など実親さんの状況によってまちまち)までとして子どもを預かり養育する人。後者の特別養子縁組で、はじめて里親と子どもとの戸籍上のつながりが生じます。

 

私たちは、「特別養子縁組」を申し立て、0歳児のキヨちゃんを迎えてからの最低6カ月の監護期間を経た上で1年以上(この期間は実親さんの事情によって異なります)、里親として日々を過ごしました。その間、児童相談所は実親さんの意思を何度も確認します。里親に対しても最初は2週間に1度の家庭訪問を3か月、その後は1か月ごとの家庭訪問と併せて、地域の里親達と一緒に、月に一度開催される児童相談所の研修会にも参加しなければなりません。申し立て後も、裁判所の家庭調査官による厳しい審査を経て、裁判所の結審によって親権を得て、キヨちゃん法的にも実子となれたのです。ちなみに「普通養子縁組」では、子は、実親と養親の2組の親を持つことになります。

 

児童相談所と民間斡旋団体の特別養子縁組は似て非なる制度で、児童相談所の措置に対する児童福祉法は、「児童の福祉の増進」という面が強いので、「里親委託」だけでなく、子どもを施設に入れることも選択肢の一つになります。また、「家族再統合」といって、例えばお母さんが職業訓練し、社会復帰してから子どもと再び暮らすという選択肢もあります。実親と離れている間、子どもを預かり家庭で面倒を見る、というのが基本的な里親なのです。里親は、児童福祉法では里子を18歳までしか養育できず高校を卒業するまでというケースが基本です。そして長期間の養育となっても里親には親権がありません。

 

「里親の正式委託」となるまでの期間、私たちはキヨちゃんを「緊急一時保護」として預かっていました。一時保護所の代わりとして、里親家庭に緊急で保護されている状態です。だから、その期間は、「家に赤ちゃんがいることをご近所に明かさないように」と児童相談所の指導がありました。これは特別養子縁組なるどころか、正式な里親委託でもありません。もし今後、特別養子縁組になったとしても裁判所の審判が下りるまでは、児童相談所と生母さんが話し合い、「返してくだい」と言われれば、返さなければならない。私たちの意見は、ほぼ反映されません。愛情をかけて育てても、「明日でお別れ」ということも受け入れなければならない立場です。そんな不安定な状態で家族形成していくことのしんどさは、通常の家庭では想像しがたいことだと思います。

 

「親権がない」ゆえに、行政に翻弄される

里親の立場では、行政の育児支援のサービスが、すんなり受けられないことが多々あります。

例えば、予防接種を打つのも実親の同意が必要となりますが、連絡がなかなか取れず、手続きを伸ばしてしまったことも。また里親は、自治体によりますが、家庭での愛着形成を強固にするために、委託後1年はファサポや里親間のレスパイトなどを利用して里子を預けてはいけない。私の地域では保育園もダメでした。歯科医院に診察を受けたりなどちょっとした用事で、数時間でも子を預かってもらえないのです。

 

キヨちゃんに乳児湿疹出て、近所の小児科を受診したときのことです。里子や施設に入所中の子どもの場合、行政発行の受診券(夫の名前が、施設名の欄に記入)を持参しなければなりません。それを窓口に渡した後、いつまでたっても名前が呼ばれない。見慣れない券なので、対応マニュアルを調べているらしい。医療事務の若い女性職員が、「緊急一時保護」という記載を見て誤解したのか「虐待かな?」と内線でスタッフに相談。その声が、診察室に響いてしまい、「知り合いのママ友がいたら大変だ」と焦りました。別の病院では、キヨちゃんの実親の名字が呼ばれたことも。家族の再構築中であったり真実告知の前であったり、名前は子どもの出自でありアイデンティティに関わる問題なので、病院の大小かかわらず、子ども達の個人情報を守るためにも、患者は番号で呼ぶ配慮が広まってほしいです。

 

出自が厳しい里子の子育てに、自信を失う里親

地域の里親と交流「あゆみのカフェ」を何回か開催しましたが、さまざまな声を聴きました。真面目な里親さんほど、一般的な育児とは異なった里親特有の養育の難しさや孤立した育児環境によって、心理的に追い込まれてしまうようです。

 

年齢に比べて歩行が遅れたり、友だちの子より言葉が出なかったりすると、「里子とのかかわり方が悪かったのか?育児能力が低いのではないか?」と、まずは里親自身の資質を疑う。実子であれば、「うちのパパも運動神経悪いし…」と笑い飛ばしたり、子どもの成長発達の見通しが立ったりしますが、血がつながらない里親にはそれができない。子どもの育ちでいたらないところがあると、必要以上な自責の念に駆られて責任を感じてしまう傾向があるようです。

 

実親から虐待を受けてきた子どもであれば養育はより困難に。たとえば家庭内で受けてしまった虐待であれば、里親宅の家庭的空間が逆に虐待のトラウマのトリガーとなることもあって、子どもが衝動的に暴れてしまったり、癇癪を起したりするケースもあるからです。里母さんはそんな子どもと、どうしたらよいか分からないまま、誰にも相談できず託児も利用できずに、特に里父さんが会社に行っている日中は、里母さんは孤立したワンオペ育児となってしまうことも。なぜなら子どもを守るためには地域のママ友に、子どもの背景を明かすことは出来ませんから。

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